カエルの王女さま
インタビュー vol.5

乾一希役 玉山鉄二さん
一希という役柄を演じるにあたって、どんなイメージで取り組もうと思われましたか?
最初は、謎の男というか、何を考えているのかわからない男という感じなんですけど、これから中盤にかけてシャンソンズともいろいろ関わっていくことになると思うんです。そこで敢えて歯車を合わせるのではなく、みんなと違ったアプローチの中で澪(天海祐希)と対立したり、一希が入ったことによって厚みが出たり、というような形で力になれればいいな、と思っていました。

そんな一希にとって、次回の4話は大きな転機になる回でもあります。一希は過去をずっと引きずってきた男ですが…。
誰しもそういう部分はあると思うんです。仕事でもプライベートでも…。周りから見れば、拘りを捨ててしまえば解決するのも案外簡単なことだったりもするんですけど、本人にとってはそう簡単に片づけられるものでもなく…。ひとりで考え過ぎてしまって、頭でっかちになってしまったりするものなんでしょうね。何かのきっかけなんですよね、そういう壁を乗り越えるっていうのは。ホントに些細なきっかけで、それを乗り越えられたり、「あのときの自分は視野が狭かった」と自覚することができたりする時期が、多分、必ずくるものなので。悩んだり不安を感じたりする時期が人としての成長のポイントになるというか、自分に期待をしているからこそ、悩んだり不安になったりするわけで、だからそういう部分でも自分が経験してきたエッセンスを出せればいいなと思っているんです。

役者さんの仕事も、画面やスクリーンや舞台で見せるものがすべてで、それ以外の部分をほとんどの人は知らないわけですよね。人知れず壁にぶち当たっていたり、不安を抱いていたりすることも当然あると思うのですが…。
そうですね。自分がやったことに対して、ダイレクトに感想をいただいたりすることもありますし、自分で見たときに「これじゃあダメだ!」と思ったりするときもあるわけですけど、先のビジョンがあればあるほど、現状に対して不安や不満があったりして…。そういう状況に陥り易い仕事でもあると思うんですけど、裏を返せば、修正も効く…自分の現状と向き合ってみて、軌道修正も多分できると思うので。僕は、「このままだったら、おじいちゃんになるまでこの仕事をやれていないな…」と思ったときがあって。自分の見せ方も意識的に変えていかないと、いまのままで終わってしまうということが凄く怖かったんです。だから、昔は台本をそんなに読み込んではいなかったんですけど、いまは穴があくほど読み込んだり、「こういう風にやったら面白いんじゃないかな」と想像したりする機会が増えました。

壁を破るきっかけはどういうところにありましたか?
不安を感じてからは、人の言葉…「よかったね」とか「玉ちゃん、変わったね」って言ってもらえたことの積み重ねが、大きく背負いこんでいたものを少しずつ壊してくれたというか…。そんな感覚ですね。

どんな仕事でも、経験を重ねれば、ズルくしのぐ手もわかるようになったりします。でもそれをやり続けてしまうと…。
ダメなんですよね。それをやってしまった自分に対して罪悪感を抱くでしょうし、自分に近い人間にはバレますからね。そこで評価されてしまうのは歯がゆいですよね。僕らの仕事は、本番のOKが出たら、もうそのシーンは2度とできないんです。だから、これでよかった、と思うことはないんですよね。「もっとこうすればよかった…」って。お芝居って、見てくれている方はいろんなことを想像したり、予測したりしながら見ているわけじゃないですか。僕は、それを超えたいんですよね。「ここは大事だ…」と思うシーンでは超えたいですから、セオリー通りのお芝居じゃなく、見ている人がテレビの方に体ごとひきつけられるようなお芝居をしたいなと思っているんです。全部が全部それだとちょっと濃いと思うんですけど、そういうポイントは役者にとって必要だと思うし、演出にとっても必要だと思うんです。

玉山さんに近いところにいる、ということでは、天海祐希さんもそのおひとりだと思います。この現場での天海さんに関しては、どう感じていらっしゃいますか?
天海さんは、6作か7作くらいご一緒させていただいているんですけど、どの現場でも変わらないんですよね。どういう人に対しても変わらないし、常に自然体だし、苦しんでいる人とか頑張っている人…頑張っても上手くいかないような人を助けてくれるんですよね。そういう器が大きい人なので、だからキャスト陣だけでなく、スタッフの方も、「天海さんだったら…」という思いで参加しているんだと思います。ホントに頼りがいがあるし、勇気づけられるんですよね。

頑張っている人を放っておけない、というのは何となく澪さんに通じるものがありますね。
そうなんですよね。頑張っても上手くいかないことっていっぱいあるじゃないですか。多分、天海さんは「頑張ってる人は報われてほしい」という風に考えていると思うんですけど、その手助けとかアドバイスをしてくれて、レールに乗せてくれるきっかけをくださる方なんですよね。やることは豪快だけど、心の根底にはとても繊細で敏感なものがあると思うんです。頑張っている人、苦しんでいる人をキャッチするのが早いですし。それが凄いなと思います。

玉山さんを見つめる天海さんの視線がプレッシャーになることはありますか?
プレッシャーになっていた時期もありますけど、そうやって接してくれる分、「ちゃんと返さなきゃ!」っていう思いの方が強いですね。アドバイスしてくださったり、応援してくださっていることに、自分ができる唯一のお返しはそこしかないんです。だから、出会ったときから、「お芝居で返さなきゃ!」ってずっと思っていて…。

おふたりの関係は、外から見ていても素晴らしいなと思います。言葉は良くないですが、なあなあな感じがないというか…。
ありがとうございます。天海さんがそういうタイプなんですよ。天海さんが他の主演の役者さんと圧倒的に違うと思う部分は…自分が「こういう風にやりたい」「このシーンではこういうことを伝えたい」というようなことって、実は自分ひとりじゃどうにもならないんですよ。だから、それを他のキャスト陣と話して、「このシーンはこういうところが大事だと思うから、みんなでこうやらない?」って提案してくれるんです。それによって本人だけじゃなくて、僕たちも輝けたりするわけです。そういうことに凄く貪欲に取り組んでいる方なんですよね。そこが違うんです。役者以前に、人間としての魅力なのかなという感じがします。出会ってからもう10年くらいになりますけど、何も変わってないんですよ。お芝居に対する熱意とか。

もうひとつ、今回のドラマは音楽というものが非常に重要な要素になっています。歌うこともギターを弾くことも演技にひとつになっているわけですが…。
大変ですけどね(笑)。一番始めの登場が、ドクター・リリスだったので(笑)。最初は、「大丈夫かな?」って思っていたんです。何回練習しても上手くいかないし、ギターも難しいし…。歌の先生やギターの先生が熱心に教えてくださったので、それに応えたいと思ってやってきたんですけど、やっぱり難しかったですね。いままで役者をやってきて、いろんな役をやらせてもらってきたわけですけど、いわゆる手に職じゃないけど、音楽のような特殊な要素がある役でも、それをやっている方が見ても成立しているようにしたいという思いもあるし…。そこで何かがちぐはぐになってしまうと、他のシーンにも迷惑をかけてしまうので。

玉山さんご自身の音楽との関わりについてもお話を聞かせてください。例えば、影響を受けたアーティストとか、カラオケに行ったときに歌う曲とか…。
僕は、カラオケにはあまり行かないんですけど、車の中ではずっと音楽を聴いています。音楽はもちろん好きで…ロックはあまり聴かないんですけど、テクノとかオルタナティブとかジャズとかが多いですかね。音楽って、自分の状況が辛かったり苦しかったりしても、その曲が流れている3分、4分の間だけ忘れることができたり、癒してくれたりする力があるじゃないですか。その時間って、とても大事なものだと思うんです。

ドラマを見ていても、シャンソンズの歌から音楽の持つパワーが伝わってきますよね。
そうですよね。そもそも、何かを出来なかった人間が出来るようになっていくプロセスを見るって、凄く心地いいじゃないですか。ドキュメンタリーとかでもそうなんですけど、自分の周りの人間とか子どもとかが、出来なかったことを練習して出来るようになる姿って本当に素敵ですよね。そういう部分をみなさんが一緒に楽しんでもらえたら嬉しいですね。木曜日って、ちょうど疲れている曜日じゃないですか(笑)。中弛みというか。そういうときに、一希やまひるが澪の言葉に背中を押されるように、見てくれている方たちの背中をちょっと支えられるようなドラマになればいいな、と思っているんです。自分も普段生活をしていて感じるんですけど、元気になれる要素って、自分で見つけるようにしていかないと気づきにくくなっているんですよね。年をとると、良いことや楽しいことを自分から見つけていかないともったいないな、と思うようになるんです。些細なことで感動したり、些細なことにも「ありがとう」と感謝したり、些細なことでも「ごめんなさい」と謝ったり…そういうことって、人間の本質的な部分というか、凄く大事なことなんじゃないかな、と思うんです。

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