虹を架ける王妃
-みどころ-

◇地獄の苦しみ

義父の急死から1年。ようやく二人は晴れて夫婦となる。結婚式の朝、方子は妹をそっと呼び出して自分の着物すべてを渡した。それは朝鮮王朝の一員として生きる覚悟の現われであったが、二人の結婚は決して国民に祝福されるものではなかった。延期された結婚式では、方子の知らぬところで爆弾投下騒ぎがあった。いがみ合う朝鮮人と日本人は、垠と方子の存在そのものを憎むかのように、何かにつけて彼らを脅かしていった。
そんな不穏な中でも、静かに愛をはぐくんでいた二人に、待望の長男が授かった。晋(しん)と名づけられたその子を、父となった垠は、言葉にならない悦びで慈しんだ。家族に縁の薄かった彼にとってこれほどの幸せはなかったのだ。そしてそれは、朝鮮王朝のお世継ぎの誕生でもあった。
しかし、その悦びは無残にも奪われた。祖国に結婚の報告を済ませていなかった二人は、皇世子の顔見せも兼ねてぜひとも帰国するようにと催促され、気の進まないまま生後まもない愛息と共に帰国したのだ。方子の献身的な朝鮮国への振る舞い、悲運の垠殿下への思いなど、故国の人々は予想に反して二人を温かく迎えてくれた。垠の父のような悲劇を警戒していた方子は、そんな疑いを持った自分を心の中で諌めたほどだった。
だがしかし、ようやく明日は帰国というその日、悲劇はやはり起きたのである。
突然嘔吐を繰り返した晋は、主治医や方子の看護も空しく、帰らぬ人となったのだ。
「なぜ、なぜ私を替わりに、死なせてはくれなかったのですか!!!」
突然の喪失に、方子は立場も忘れて泣き叫んだ。消化不良と診断された医師の言葉を、気休めにもできず、自分ではなく幼いわが子に向けられた運命の残忍さを呪った。
地獄の淵をのぞいた二人は、互いの魂を寄せ合うしか生きていけないことを改めて実感していたのだった。
*敬称略

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