インタビュー

vol.2 脚本 龍居由佳里

Q 龍居さんは、(浅野)温子さん(浅野)ゆう子さんと同世代ですが、当時はどこで「抱きしめたい!」を見ていらっしゃったのですか?
まだ脚本家にはなってなくて、その頃はにっかつ(現・日活)撮影所っていう製作会社で企画プロデューサーをやっていたんです。仕事柄ドラマはよく見ていたけど、『抱きしめたい!』は、いちファンとして見てる感じでしたね。とにかく新しいドラマで、温子さんとゆう子さんの関係も、恋愛も、住んでる家も、ファッションも憧れで、"すごいな、このドラマ。テレビ局ってこんなドラマを作れるんだ"って、ワクワクしながら見てましたね。会社でもよく『抱きしめたい!』の話題が出ていて、"このふたりが40代、50代になったらどうなってるんだろうね?"みたいな話をしていたのをはっきり覚えてるんですよ。麻子と夏子が40、50になったときの話を作ってみたいよねって。だから今回、お話しをいただいた時、"うわー、実現しちゃった!"って。でも、好きで見ていた分だけ思い入れもあったし、(当時の)松原敏春さんの本が素晴らしかったので、いいのか私で?っていうプレッシャーも最初はありました。

Q プレッシャーですか?
『抱きしめたい!』ってすごく先を行ってたドラマだと思うんですよ。モノ作りをする人たちが、ちゃんと私たちの一歩先を行ってて、それを見させてくれて、楽しませてくれた。だからこそ伝説と化す作品になりえたと思うんですよね。その後も、女の友情モノのおもしろい作品はたくさんあったけど、『抱きしめたい!』は、その前にも後にもないっていうスペシャル感がすごくて。当時の作り手のみなさんのすごいエネルギーを感じますよね。だから、大丈夫かしら?そこに入っていけるかしら?って。

Q そんな中、今回の素敵なストーリーはどこから考えられたのですか?
書くにあたって、昔のDVDを貸していただいて全部見たんですよ。見始めたらもうおもしろくてすごい勢いで見ることができて、返したら“早やっ!"って驚かれたぐらい(笑)。"そうそう、この感じ"って、すごいよみがえるものがあったんですよね。なので、世界観は大丈夫っていうのはありましたね。もともと松原先生の原作があるようなもので、その上に"あなたの自由なドラマをくっつけていいですよ"っていうオファーだったこともあって、今回はセリフを描くのが楽しかったです。頭の中で温子さんとゆう子さんがしゃべるのがわかるんですよ。冒頭の、夏子が家出して麻子の家に来るお約束のシーンは、私も河毛(俊作)さんも"『抱きしめたい!』と言えばあれだよね"というのがあって入れたかったんですが、その場面の収録を現場で見たときも、ああ、これこれ!って(笑)。

Q どうしてもこれは入れたかったという龍居さんのこだわりは?
私がこの話をいただけたのは、同じ年代ということもあるでしょうけど、脚本家として家族とか親子の話を結構な数書いてたり、自分でもそういうものを書きたくてこの仕事をしてるので、そういうところも含めてのお話だったんだと思うんですよ。なので、夏子が子どもを産めなかったこと、麻子が子どもを産まなかったこと、結婚しなかったことから派生して、夏子と麻子ふたりの狭い世界だけじゃなく、市原(隼人)くん演じるリュウと夏子を通して家族とか親子の話を入れたい。それと、麻子の恋愛の相手となる瀬戸(草刈正雄)の存在を通して、夫婦って何だろうっていうことを入れたかったっていうのはありますね。夫婦ってホントわからないっていうのはここ数年私がずっと考えてる命題で。一般的には夫婦っていい話になりがちだけど、実際はいろんな形があるわけで、恋愛ドラマなんだけど、家族とか、夫婦とか、親子っていうものを引っ張り込みたかったっていうのはありますね。

Q そういう、人生で大切なこと、の要素がありつつも、明るさとオシャレ感を失わないのがすごいですね。
私が新たに書こうと思ったところは、基本重い話なんですけど、書いても大丈夫っていう安心感は最初からありましたね。温子さんとゆう子さんがワーッ!とやってくれる感じがイメージとしてあったし、せっかく魅力的な役者さんたちが出てらして、魅力的なキャラクターがあるので、いろんな面を見せたいっていうのもありましたから。役者さんが本当に素晴らしいので、そのおかげもあって、重くならず、でも、"わかる"っていう。若いときの"わかる、わかる"じゃなく、"あ、あるよね"って思ってもらえるドラマになったと思いますね。

Q 50歳を過ぎた女同士の友情を、これだけ素敵に見せてくれるドラマって、今までにない画期的なものですね。
昔見ていたときは自分が30代初めくらいで、ふたりが50代になったドラマを作りたいと思っても全然想像ができてなかったと思うので、今だから書けたかなっていう感じはありますね。いろんなことがあって自分も歳を取ってくると、女友だちって大切だよなって思うじゃないですか。やっぱり最後は女友だちだよねーって、リアルにわかる歳になったので(笑)。それは多分、役者さんたちもそうだろうし、河毛さんもそうだろうしっていうのが、いい感じで形になったんだって思いますね。

Q 圭介を演じる岩城滉一さんを初め、男性陣も今回は草刈正雄さん、市原隼人さんと素敵な方が勢ぞろいで!
本読みの時に、岩城さんと草刈さんと市原くんが並んだんですけど、全然タイプの違ういい男が並んで(笑)。とても素敵な三者三様でしたね。現場で岩城さんにお会いしてお話したときも、完全に"あ、圭介だ"と思いましたから(笑)。しかも昔の圭介じゃなくて、歳とった圭介だけどカッコイイ。でもカッコイイけどダメダメなやつだっていう(笑)、本当の岩城さんは違うのに、まるで圭介そのものな感じで、役者さんの力ってすごく大きいですよね。

Q 「Forever」と言わず、続きを書いてみたいという思いはありますか?続きがあるかも…と思わせるようなラストだったと思うのですが。
そうですよねぇ。ふたりが60歳になったストーリーがあってもいいかなって思いますよね。で、70になったらふたりで墓を買いに行って(笑)。

Q 脚本を読ませていただいて感じましたが、年齢を重ねたことで麻子と夏子の世界がさらに広がった気がします。
私もホントにそう思います。自分の仕事としても、この歳まで本を書いててよかったなってすごく思いましたね。そうしたらこういうことが回ってきて、自分が何十年か生きたものもこうやって出すことができる。それがすごくうれしいし、ドラマ自体も、これから広がっていきそうだなと言ってもらえるとすごくうれしいです。温子さん、ゆう子さんも変わらずに美しいので、ぜひ、次は還暦スペシャルをやってみたいですね(笑)。


「抱きしめたい!TVガイド」(東京ニュース通信社/発売中)より。
取材・文:幸野敦子(龍居由佳里)
橋本達典(河毛俊作)

戻る
抱きしめたい! TOP

(C)フジテレビジョン