#110 スタッフからのメッセージ

■フランスには、唯一「コンクール・レピンヌ」という発明コンクールがあるそうです。これは、当時、パリ市長だったルイ・レピンヌ(リヨン出身)が、1900年に経済不況対策として、新製品の発明コンクールを発案したのがキッカケで生まれたもので、今でも毎年1回行われている大規模なものです。そして、その「コンクール・レピンヌ」で1932年に金賞を獲得したのが、今回紹介した「ムーラン・ア・レギューム」だったのです。
そもそも、このムーラン・ア・レギュームを発明するきっかけとなったのは、ジャン・モントゥレ家のキッチンで起こった、ある些細な出来事からでした。それは、ある日、モントゥレ氏の奥さんがジャガイモのピュレを作った時の事。そのピュレが上手に裏漉しできていなかったのを見て、モントゥレ氏は、ついつい奥さんに文句を言ってしまったのだそうです。すると奥さんは彼に、「そんな事を言うのなら、自分で作って見れば…」と言い返しました。もともと父が経営していた農機具を発明する会社に勤めていて、自らも発明好きだった彼は、それなら自分で上手くジャガイモを裏ごしできる道具を作ってみようと思い立ち、その後、色々な試行錯誤の末に生まれたのが「ムーラン・ア・レギューム」。発明者であるモントゥレ氏は、この野菜用ミルで、今まで経営していた会社を更に大きくし、後に、ムリネックスという家電会社を創設するまでに至ったのです。
今回、番組で紹介した「ポタージュ・オ・レギューム」は、たくさんの野菜を圧力鍋で茹で、このムーラン・ア・レギュームですり潰すだけという簡単なものでした。味付けは茹でる時に加えた塩味のみ。それでも、この道具で野菜をすり潰すだけで、たくさんの素材から旨みが出て、充分満足するポタージュに仕上がります。日本でいうスープの感覚は、出汁を取ったスープの中に野菜や肉の具を入れて作り、具から滲み出る旨みが加わったスープの味と、逆に、スープの味が染み込んだ具の味を楽しむというものが多いような気がします。特に汁物などは、そう言えるのではないでしょうか。これがフランスの場合、具を入れて煮込む場合は、かなり長時間煮込んでスープというよりも具の味を楽しむ場合が多く、また、スープ(汁)の味を楽しむ場合は、素材そのものをすり潰してスープやポタージュにしてしまう事が多いような気がします。カボチャのスープもそうですし、ジャガイモのスープ、今回の野菜のスープもそうです。スープを飲む時には、その素材の姿形は無く、すり潰してスープそのものにしてしまいます。つまり、汁と具を一緒に味わうのが日本なら、汁は汁だけで、具は具だけで味わうのがフランス流。こう考えれば、「ムーラン・ア・レギューム」のような道具が、スープを作る時には必ず必要になってくるのは当たり前のことなのかもしれません。
キッチンの些細な出来事から、この道具を生み出したジャン・モントゥレ氏。もし、彼の発明が無かったら、フランスの食文化は少し変わっていたかもしれませんね。

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