『かげる針路』

2025.08.22更新

報道・情報

第34回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:福島テレビ)

かげるメガソーラー

『かげる針路』

<8月29日(金) 27時15分~28時15分>

原発事故の教訓 掲げられた理想と広がる現実

「“脱原発”のある程度のコンセンサスはできていたように感じた」。原発事故の教訓から「原子力に依存しない社会づくり」にかじを切った福島県の元知事は、そのように当時の社会情勢を振り返った。再生可能エネルギーの“先駆けの地”を目指す福島県では、各地で急速にメガソーラーが拡大する一方で、あつれきが顕在化。再エネへの“逆風”が強まっている。原発から再エネへ。14年前に掲げられた理想と、いま広がる現実を追った。

原発から再エネへ “先駆けの地”を目指す福島で強まる逆風 針路にかげり・・・ 

世界最悪レベルの原発事故に直面した福島県は、原子力発電から再生可能エネルギーに大きくかじを切ることになった。掲げたのは「2040年頃までに、県内のエネルギー需要に対して100%の再生可能エネルギーを導入する」という目標。議論をリードしてきた専門家でさえ「達成できる可能性は非常に低かった」と振り返る程の高いハードルだったが、現在は54.9%まで拡大。達成に向けて着実に近付いている。
その主力を担っているのが、太陽光発電だ。福島県の発電能力は他県を大きく引き離し、全国1位を誇るまでに成長した。原発事故で避難を余儀なくされた被災地には、農地を転用する形で広大な青いパネルが設置された。「反対する人は誰もいなかった。みんな賛成だった」事業者に用地を提供した住民の1人は、そう話した。
一方で、メガソーラーの建設をめぐり県内各地で“あつれき”を生んでいた。住民説明会で事業者が強調した「防災工事を優先する」という約束は果たされず、土砂の流出が繰り返された西郷村の建設現場。福島県への情報公開請求で入手した資料に記載されていた、福島県と事業者のやり取りから見えてきたのは工期優先の姿勢だった。ある工事関係者は、こう指摘した。「工期最優先、ようは利益最優先だ」。

メガソーラーの建設で削られた山肌

原発事故の被災地に広がるメガソーラー

さらに県庁所在地の福島市では、地域のシンボルの山が大きく削られ景観の悪化が顕在化。地域住民による反対運動が広がるだけでなく、行政がメガソーラーの規制強化に乗り出す事態に発展していた。事業者との対話を重ねる地元住民の1人は、言葉に力を込めた「泣き言は、もう言いたくない」。そこには原発事故の時に経験した“後悔”があった。
「再エネの先駆けの地」を目指す福島で、強まる再エネへの“逆風”。一方、政府は2025年2月に新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定し、原発の「最大限の活用」を打ち出した。福島第一原発の廃炉作業が難航し、国と東京電力が目標とする「2051年までの廃炉完了」の実現に向けた見通しが立たないなかで、“原発回帰”は鮮明になっている。
原発から再エネへ。原発事故の教訓から掲げられた理想と、いま広がる現実。“脱原発”を進めた当時の関係者の証言や、再エネを引っ張るメガソーラーに翻弄(ほんろう)される福島から見えてきた、これからの私たちの針路は・・・。未曾有の事故から14年余り。福島が、投げかけている。

コメント
プロデューサー・構成 井上明(福島テレビ 報道制作局報道部)

「福島市内を捉えた情報カメラが、巨大な“はげ山”を映すようになったのは2024年春でした。山が削られ景観の悪化が深刻となり、初めてメガソーラーの建設が進んでいることに気が付きました。取材を進めると、県内各地でメガソーラーをめぐる“あつれき”が生まれていました。本社だけでなく支社も巻き込み“取材チーム”を結成し、この問題を追いかけました。浮き彫りになったのは、メガソーラーにより姿を変えた福島でした。一方、未曾有の原発事故と向き合うことになった福島県は、ある“理想”を描いていました。脱原発と再生可能エネルギーの導入推進です。旗振り役だった元知事などから話を聞くと、それは“二度同じような事故は起こしてはいけない”という、社会的なコンセンサスを形にしたものだったと思いました。ターニングポイントとなった日から14年余り。鮮明になる原発回帰と、強まる再エネへの逆風。私たちの針路に、かげりはないでしょうか。」

【番組概要】

第34回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『かげる針路』(制作:福島テレビ)
≪放送日時≫
8月29日(金) 27時15分~28時15分 ※関東ローカル
≪スタッフ≫
プロデューサー・構成 :井上 明
ディレクター :古川 峻
取材 : 石山美奈子 宮下真結子 丹野裕之
撮影 :「かげる針路」チーム
ナレーター :古賀ひかる
編集 :小野靖晃(福島映像企画)
MA :新國伸太郎(福島映像企画)
CG :川上理佐(福島映像企画)
題字 :玄侑宗久(芥川賞作家・福聚寺住職)
制作著作 :福島テレビ

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。