『灰色の法 ―時速194km死亡事故と危険運転―』

2025.08.18更新

報道・情報

第34回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ大分)

時速194kmの車による死亡事故の現場(大分県大分市 2021年2月)

『灰色の法 ―時速194km死亡事故と危険運転―』

<8月25日(月) 26時45分~27時45分>

時速194kmの事故が過失なわけがない

2021年2月大分県大分市の県道で起きた時速194kmの車による死亡事故。交差点で車同士が衝突し、小柳憲さん(当時50歳)が亡くなった。警察は危険運転致死傷罪の疑いで男を書類送検したが、検察は過失運転致死傷罪で起訴。2つの法律は法定刑の上限が異なり、罪の重さに大きな違いがある。遺族は声を上げ、危険運転致死傷罪の適用を求めて署名活動などを行う。その結果、危険運転致死傷罪に起訴内容が変更される異例の判断がされ、裁判が行われることになった。

「危険運転」の適用を求める遺族は他県にも。なぜ法律の適用が難しいのか。法律と市民感覚との乖離(かいり)

「危険運転」と認められない事故のケースは他にもある。栃木県の佐々木多恵子さんは2023年2月、宇都宮市の国道で、バイクに乗っていた夫を時速160km以上で走行していたとされる車に追突され失った。宇都宮地検も、大分地検と同様に当初は男を過失運転致死傷罪で起訴。「衝突するまでまっすぐ走れていた」と判断された。危険運転致死傷罪の適用が難しいのは、ハードルが高く設定された構成要件に理由があった。構成要件は「飲酒運転」や「妨害運転」など8つあるが、「猛スピード」による事故で要件となりうるのが「進行を制御することが困難な高速度」。法律の制定に関わった弁護士は、人権保障の観点から「スピードオーバーによる事故」と「危険運転による事故」を明確に区別する必要があったと話す。危険運転と認められるには、猛スピードだけではなく道路の客観的な状況が考慮されることが重要で、法律は厳格にできていて、曖昧さは1つもないと強調する。

初公判後、記者会見に臨む大分市の事故の遺族(2024年11月)

命日に事故現場で手を合わせる、大分市の事故の遺族(大分県大分市2024年2月)

しかし法律と市民感覚に乖離(かいり)が生じ、遺族には家族を失った苦しみとは別の苦しみが生まれていた。
大分の死亡事故で、中心となって声を上げてきた被害者の姉・長 文恵さんは、署名活動などを続けるうち「危険運転致死傷罪」のあり方に疑問を感じ、栃木の佐々木さんなど、他県でも同じような苦抱える抱える遺族の力になれるよう活動を始める。「危険運転致死傷罪」の適用の難しさを多くの人に知ってもらうため、法改正も含めて声を上げる遺族たち。国も2025年3月から法制審議会で本格的に議論を開始した。遺族たちは数値基準を設けることを求めているが、専門家からは、数値基準は危険運転の適用を際限無く広げる可能性があるという声も。制定から約25年、厳格につくられた危険運転致死傷罪はいま、そのありようを問われている。

コメント
ディレクター・山路謙成(テレビ大分 報道制作部)

「私たちは遺族の声を届け、社会に問題を投げかけることが大きな役割の1つです。しかし取材を進めていくと、危険運転致死傷罪は、制定時に多くの議論がなされ、裁かれる人の人権も考え厳格につくられた法律だと知ることができました。遺族に寄り添うことはもちろん大切ですが、公平中立な立場で取材し客観的に考えることこそが、問題の本質にたどり着く道なのだと学びました。一方で大切なご家族を失った悲しみは、いくら寄り添おうと努力しても、同じ境遇でない限り、完全に理解することは難しいということも改めて感じました。私たちにできることは、2度と交通事故で悲しい思いをする人が生まれないように、遺族の声に耳を傾けて問題の本質を取材し社会に投げかけること。この番組を通して視聴者の心に問題意識や関心が芽生え、交通事故抑止につながっていくことを願います」

【番組概要】

第34回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『灰色の法 ―時速194km死亡事故と危険運転―』(制作:テレビ大分)
≪放送日時≫
8月25日(月) 26時45分~27時45分 ※関東ローカル
≪スタッフ≫
構成・ディレクター・ナレーター : 山路謙成(テレビ大分 コンテンツプロデュース局報道制作部)
撮影・編集 : 藤原輝譲(トスプロ)
MA : 佐藤大輔(トスプロ)
プロデューサー : 油布良平(テレビ大分 コンテンツプロデュース局報道制作部)
チーフプロデューサ- : 園田雅之(テレビ大分 コンテンツプロデュース局報道制作部)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。