2025.06.02更新
報道・情報
クリスマスに乾杯する藤井康弘さんと妻・三恵子さん
<6月9日(月) 26時45分~27時45分>
高齢化が急速に進む中、家族などの介護を理由に仕事を辞める介護離職が社会問題となっている。政府は「介護離職ゼロ」を掲げたが、年間約10万人の介護離職者が減る兆しは見えていない。認知症の妻の介護のため退職を余儀なくされた男性を約3年にわたり取材。妻と2人きり、終わりなき介護という現実を映し出すとともに、家族が背負わざるを得ない日本の介護、そしてその象徴とも言える介護離職の実像を探る。
大阪市に住む藤井康弘さん(61)と妻の三恵子さん(62)。康弘さんは、若年性認知症の三恵子さんの介護のために、2021年、大手電機メーカーの子会社を退職した。康弘さんは当初、仕事との両立を模索した。しかし、三恵子さんは常に見守りが必要な一方、身体機能に異常はないため要介護度は低く、仕事との両立を可能にする介護保険サービスは存在しなかった。このままでは勤務先に迷惑をかけるという思いもあったという。結果的に、退職するしか道が残されていなかった康弘さん。
「介護を理由に手ぬるい仕事をするのは社会が許容しない」
あきらめにも似た康弘さんの言葉は、今の社会の現状なのかもしれない。離れて暮らす1人娘に迷惑をかけたくないと、退職金を取り崩しながら在宅介護を続ける康弘さん。三恵子さんは「言葉」を発するが、それを会話と呼べるかどうかは難しい。それでも康弘さんは、三恵子さんのそばに居続ける。
「愛情じゃなくて情ですよ」と淡々と話す康弘さん。しかし、その口調とは裏腹に、三恵子さんへのまなざしは優しい。
しかし取材を始めておよそ2年がたった昨年の夏、康弘さんは「第二章が始まる」と告げた。がんが見つかり、手術をしなければ命が危ないと宣告されたのだ・・・。康弘さんは言う。「僕も嫁も社会的にはいらない人間。重荷にしかなっていない」
約3年の夫婦の歩みを通して、家族が背負わざるを得ない日本の介護、そして、その象徴ともいえる「介護離職」の実像を探る。
酔った藤井康弘さんと妻・三恵子さん
ナレーター・本上まなみ
「介護の当事者が、日々直面している現実を知る機会は多くないため、非常に大切なテーマの番組だと思いました。介護という問題を取材する際は、家庭の中に入っていくことになりますが、3年間という長い年月をかけて取材されているとのことで、ご家族の本当の日常が映っていると感じました。介護しているご主人が“愛情ではなくて情”とおっしゃったのが印象に残っています。奥さんのご様子から、症状は進行しているものの、お人柄はそのまま残っているんだろうなと思います。サポートをすることが増えているけれど、ご夫婦の関係性そのものが変わったわけではない。そんな夫婦のかけがえのなさが映っていて、心に響きました。
人生を重ねていくと、いつか誰かの助けを借りなくてはならない。このことは、皆に等しく訪れるものだと思います。家族の中だけで解決できる問題ではない介護を、制度として国や行政が下支えしていくべきだと感じました。高齢化が進む中で、決して他人事ではなく、ますます身近になっていくテーマです。介護に悩む方たちのサポートに国がかじを切るよう促すために何ができるのか、考える機会になりました。介護が家族に丸投げになっているお宅はすごく多いと思います。ましてや、ご主人の康弘さんは働き盛りで、まさに“これから”ところで離職をされたのですから本当に重い決断だったでしょうし、社会全体で見ても経済的損失も大きいはず。このような方が職を手放さなくてもいい世の中になってほしいです。介護離職は経済成長の面でもマイナスです。だからこそ支援を通じて国全体が豊かになるという視点で、真剣に考えるべきだと思います。
これはかけがえのない日常の大切さが感じられる作品です。私自身、昨年体調を崩して療養した経験があるので、介護離職されたご主人に体調不良が見つかる場面は、他人事とは思えませんでした。“自分が支えなければ”と奮闘されるご主人が病にかかった時、支えてくれる人があまりに少ない現実は、つらいものがありました。しんどい人・つらい状況を“ないもの”にしないで、手を差しのべられる温かな社会であってほしいと願います。一人一人が見て、考えることが、やさしい社会への一歩になるのではと思います。ぜひ多くの方にご覧いただきたいです」
「“介護のことを人に知られたくない”とちゅうちょする人が多い中、康弘さんは自宅の中で長期間に渡ってカメラを回すことを、快く受け入れてくださいました。淡々とした語り口の中で、ふとした瞬間に語られる思いが胸に刺さりました。確かに、介護保険制度をはじめとするさまざまなサービスが存在しますし、仕事と介護の両立に関して、職場の理解を深めようと国も動いています。しかしながら、最終的には家族が背負わなければならないのが、今の日本の介護の現実ではないかと思います。〝いらない人間〟とまで思わせてしまっている、今の社会の在り方は本当にこのままでよいのか、仕事をしながら介護をすることが当たり前として捉えられるような社会になるために何が必要なのか、この番組を通して考えていただければ幸いです」
掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。