『異界と共に生きる~「遠野物語」新時代の語り部・富川岳~』

2024.08.28更新

報道・情報

第33回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:岩手めんこいテレビ)

『遠野物語』の解説本を自費出版した富川岳

『異界と共に生きる~「遠野物語」新時代の語り部・富川岳~』

<9月4日(水)26時55分~27時55分>

異界の存在を当たり前に信じる遠野の人たち

柳田國男の『遠野物語』の魅力をクリエイティブな表現で伝える岩手県遠野市在住の作家・プロデューサーの富川岳(37)。物語の舞台をめぐるスタディーツアーや、遠野の民俗芸能「しし踊り」と音楽家たちのライブセッションなどさまざまな企画で遠野に人を呼び集める。『遠野物語』の解説本も自費出版した富川だが、8年前、29歳で遠野に移住するまで『遠野物語』の存在すら知らなかった。目に見えない異界のものたちの存在を当たり前に感じながら生きる遠野の人々。『遠野物語』に共鳴するクリエイターたち。さまざまな出会いと別れを経験しながら、富川はまた新たな企画に挑んでいく…。

『遠野物語』の舞台・岩手県遠野市に移住したプロデューサー・富川岳が編み直す「異界」の物語

1910年に出版された柳田國男の『遠野物語』。カッパ、天狗(てんぐ)、ザシキワラシなどお馴染みの妖怪や精霊が登場する全119話の物語は、遠野出身の佐々木喜善が語った民話を柳田が聴き取り、美しい文語体でまとめたものだ。日本民俗学の夜明けを告げる名著と言われ、出版から100年を超えて読み継がれている。とはいえ、多くの人にとっては、名前は聞いたことはあっても読んだことはない一冊だろう。2016年、東京の広告会社のプロデューサーを辞めて、岩手県遠野市に移住した新潟県長岡市出身の富川も読んだことがなかった。移住の翌年、郷土史研究家の大橋進(80)と出会ったことで、富川は『遠野物語』の魅力に気づく。『遠野物語』は、ある場所で実際に起こった話を集めているため、その場所を訪ねれば物語の世界、つまり“異界”に入り込むことができるという。大橋の案内で、異界に足を踏み入れた富川は、『遠野物語』を軸に地域の文化をクリエイティブな表現で発信するプロデューサーとなった。商品開発やスタディーツアーの開催など次々とプロジェクトを立ち上げていく。

師匠の大橋進と共に講義を開いた富川岳
左から)富川岳、大橋進

富川が『遠野物語』の中で最も注目しているのが、遠野の郷土芸能「しし踊り」についての記述だ。鹿の角をつけた面をかぶり、笛や太鼓の音に合わせて勇ましく舞う「しし踊り」。柳田が見たという「張山しし踊り」を撮影するため、練習場所を訪ねた富川。いつの間にか、自分もしし頭をかぶり舞手になっていた。
ししになった富川に、多くのクリエイターやアーティストたちが共鳴しはじめる。そして、2021年、『遠野物語』の新時代が幕を開ける。

しし踊りを舞う富川岳とコムアイ
左から)富川岳、コムアイ

富川は、編集者でキュレーターの塚田有那や映画監督の坂本麻人と連携し、遠野で異界のものたちを感じるツアー型イベント『遠野巡灯篭木(トオノメグリトロゲ)』を開催。死者の魂を身近に感じて暮らす遠野の風習が、新たな表現方法によって、多くの若者たちを引きつけるコンテンツとなって発信された。

遠野を視察する塚田有那
手前)塚田有那

プロデューサー・富川の異界の旅に終わりはない。2023年、初の単著『本当にはじめての遠野物語』を刊行。2000部を自費出版する。
多種多様な仕事に取り組みながら、日常はおもしろく穏やかに過ぎる。富川の事務所には、今日も“異界”の住人たちがやってくる…。地域の文化をどうやって守っていくのか。郷土芸能が持っている役割とは何か。その土地に眠る物語を取り戻そうとする若者を追いかけた。

ディレクター・工藤哲人(岩手めんこいテレビ 番組制作部)コメント

「3年前、岩手で活躍する編集者を特集した情報番組の企画の取材で、富川岳さんに初めて会いました。ニマニマしながら“異界”について話す若者に興味を持って、ドキュメンタリー取材を始めました。すると、今まで岩手で見たことがない企画が次々と立ち上がり、さまざまな“異界”の人たちが遠野にやってくる様子を目の当たりにしました。私も『遠野物語』を真面目に読んだことがなく、新潟県出身の岳さんのおかげでおもしろさを発見できました。編集を終えて、土地の物語と死生観を私も取り戻したいという気持ちが湧いてきました。岳さんはよく“接続する”という言葉を使います。土地と接続して生きている遠野の人たちには、死は恐ろしくないのかもしれません。番組を通して、みなさんの土地にもきっとある物語についても思いを巡らせていただけたらと思います」

【番組概要】

第33回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『異界と共に生きる~「遠野物語」新時代の語り部・富川岳~』(制作:岩手めんこいテレビ)
<放送日時> 
9月4日(水)26時55分~27時55分 ※関東ローカル
<スタッフ>
ナレーター:久慈暁子
プロデューサー:近谷利政(岩手めんこいテレビ コンテンツ推進局)
ディレクター・構成:工藤哲人(岩手めんこいテレビ 番組制作部)
撮影:佐藤貴広(岩手めんこいテレビ 番組制作部)
CG:吉田葉子(めんこいエンタープライズ)
  小笠原聡子(めんこいエンタープライズ)
MA:山内智臣(めんこいエンタープライズ)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。