2024.08.19更新
報道・情報
九内さん家族。長男の誠洋さんは自閉症、次男の勇輝さんは自閉症と知的障害がある
左から父・康夫さん、長男・誠洋さん、次男・勇輝さん、母・知子さん
<8月23日(金) 26時55分~27時55分>
障がいのある子どもを持つ親の悩み。それは「親である自分が亡くなった後、誰が大切な我が子を見守ってくれるのか」ということ。現在日本では、障がい者が地域で自立して暮らすことを目指す「地域移行」の政策が進められている。この方針により、入所施設は年々減少し、地域の理解や障がいに対応できる体制は追いついていない。いつか必ず訪れる親の死。その時、安心して我が子を託せる場所はあるのか。障がいのある2人の子どもと暮らす家族の日々を見つめた。
障がいのある子どもを持つ親の悩み。それは「親である自分が亡くなった後、誰が大切な我が子を見守ってくれるのか」ということ。
広島市内に暮らす九内康夫さんは、2人の障がいのある子どもを育てている。長男の誠洋さんは自閉症、次男の勇輝さんは自閉症と知的障害がある。勇輝さんは一日の大半、部屋の中を飛び跳ね、歩き回る。家族はマンション暮らしのため、勇輝さんの生活音は周囲の部屋に響く可能性があるが、飛び跳ねることが勇輝さんにとって最も落ち着く行動だと知っている康夫さんは止めることができない。床にマットを敷き詰めるなど日々勇輝さんらしく過ごせるようにサポートをしている。
勇輝さんは以前、言葉の使い方などを学べる事業所に通っていたのだが、仲間とのコミュニケーションをとることが苦手で通えなくなってしまった。そのため、いまでは社会との接点も失い、家に引きこもっている。そんな勇輝さんの生きづらさを理解し、支えてくれるのは家族だけだ。
次男・勇輝さんは一日の大半、部屋の中を歩き回る
穏やかな家族だけの時間を楽しむ
左から母・知子さん、次男・勇輝さん
障がいのある長男・誠洋さんもまた、弟の将来を案じ、いずれやってくる2人だけの生活に備えて就職活動を開始する。しかし、民間企業による障がい者の採用試験は全て落ちてしまった。就職先を探すのも想像以上に難しい道のりだ。
親がこの先もずっと息子を支えることはできない。将来必ず訪れる“親の死”を考えたとき、2人の子どもはどうなってしまうのか。
現在日本では、主に重度の障がい者が入所する施設が全国的に不足している。広島県では施設への入所を希望する待機者が列をなしている状況だ。ここには「障がい者の受け入れを“入所施設”から“地域のグループホームや自宅”へ移行し、健常者と同じように障がい者が地域で自立して暮らす」という国が進めている政策が関係している。北欧などでは、入所施設から地域での暮らしを展開する地域移行の政策が、長い期間をかけて進められてきた。しかし、日本ではこれを短期間で進めようとしており、グループホームの数が追いついていないのに、入所施設は年々減少している状況なのだ。障がいに十分対応していける体制が整っていない中で、理念だけが先行する国の方針により、多くの家族が不安と向き合っている。
いつか必ず訪れる親の死。その時、安心して子どもを託せる場所はあるのか。寛容さをなくしつつある社会はこの家族をどう受け入れていくのか。障がいのある子どもを支える、家族の日々を見つめた。
「“この子より先には死ねない…”と話す親たちがいます。障がい者の入所施設は待機待ちで、すぐに入れません。共同生活を送るグループホームは、重い障がいのある人の受け入れが困難です。取材を進めていくと、安心して子供を託せない、日本の福祉制度に翻弄(ほんろう)される現実がありました。障がいのある子供を支える親たちは自分が亡くなった後の子供の将来に希望が持てていません。その現実をまずは知ってほしいと思います」
「障がいのある人たちを親の視点から考えたときに何が見えてくるのか?その漠然とした思いが取材を始めたキッカケです。いま翻弄(ほんろう)されている人たちだけでなく、これからも障がいのある子どもたちは生まれてきます。不寛容な社会が広がる中、障がいのある人たちの日々を見つめることで必要なこと、忘れてはいけないことが見えてくると思います」
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