2024.07.19更新
報道・情報
「1日1回死にたいと思う」と話す虐待被害者のあやさん
<7月26日(金) 26時40分~27時40分>
“過去最多”を更新し続ける児童虐待。悲惨な虐待死が大きく報じられる一方、虐待を生き延びた人たちの実態はほとんど知られていない。虐待の後遺症として感情のコントロールが難しくなり、その後の社会生活で影響を受ける人もいるほか、結婚や子育てなどの人生の転機で困難を抱える人もいる。またトラウマを抱える親を支えるため子どもがヤングケアラーになるケースも。過酷な実態を取材するとともに動き出した支援を伝える。
子どもが虐待を受けたとして児童相談所が相談を受けて対応した件数は2022年度、21万9000件あまりで過去最多を更新した。国や自治体は親の孤立を防ぐといった予防的な対策に力を入れている。
しかし、忘れられている視点があるのではないか。それは被害者の「ケア」だ。虐待が増え続ければ、社会の中に被害者が増え続けていることになる。しかし、多くの人は虐待被害者の存在を知らず、社会はそのケアについて真剣に取り組んでいないのではないか。私たちは虐待を生き延びた人たちの取材を始めた。
北海道苫小牧市に住む、梢恵さん(41)。長年、原因不明の体調不良に悩んできた。拒食と体重減少、気持ちの落ち込み、突然感情のコントロールができなくなる。内科、婦人科などを転々としても原因がわからず、5年前に訪れた精神科で指摘されたのが、過去の虐待の影響だった。
梢恵さんは母親の同居男性から階段から突き落とされるといった身体的な虐待などを受けてきた。診断は「複雑性PTSD」。子ども期の虐待などが原因で、感情の制御や対人関係がうまくいかずに社会生活に支障が出るものだ。
虐待被害者の相談支援などを行う東京の一般社団法人「Onara(おなら)」は2023年9月に、虐待を生き延びた人たちにオンラインを通じて調査を行った。10代から60代以上の683人が回答した。9割以上の人が「死にたいと思うことがある」「過去に死にたいと思ったことがある」と回答した。虐待を受けていると気づいた年齢は「20歳以上」が半数を超えていて、適切なケアにつながれない背景が見えてくる。また、経済的に困窮している人も少なくない。これも医療へのアクセスを難しくしている可能性がある。
次世代にも影響が出る可能性があることも取材で見えてきた。帯広市に住むケイさん(仮名・30代)は養父母からの身体的・性的虐待を受けてきた。外出する際、養父母と同世代の人を見ると体験がフラッシュバックしてしまう。そこで買い物は2人の娘が付き添ううえ、ケイさんが体調不良時の家事を2人が担っている。虐待被害者だけでなく、家族を支える取り組みも求められる。
虐待を生き延びた人たちは、今を懸命に生き延びようとしている。虐待被害者の存在を知ること、トラウマ治療にアクセスしやすくすること。私たちが取り組まなくてはいけないことを、生き延びた人たちの声が教えてくれる。
あやさんの大学の卒業式に出席した丘咲さん
不調で座り込む梢恵さん
夕陽が怖いという梢恵さん
虐待の体験がフラッシュバックするケイさん
不調の母親にかわって家事をする姉妹
「2007年に入社して初めて担当した裁判は、母親が3歳の長男と1歳の三男を市営住宅の自宅に放置して三男を死亡させた事件でした。長男は1カ月後に帰宅した母親に“ママ、おそいよ”と伝えたといいます。不安や恐怖、裏切られた怒りが混じった言葉に聞こえました。彼が適切な支援や医療に結びつき、生きていってほしいと願いました。
虐待を生き延びた人はその後、どのような人生を歩むことになるのか。虐待件数が最多を更新する中、その“宿題”に取り組むことにしました。取材を通して見えてきたのは、被害者が社会の中で“見えない存在”になっている実態でした。後遺症で社会生活を送ることに困難を抱えているうえ、経済的な困窮から医療へのアクセスも十分ではないことも見えてきました。さらに、次の世代への影響が続くケースも。この番組がその生きづらさを知り、社会として支援について考えていくきっかけになればと願っています」
掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。