『58年 その先に -袴田事件と再審法-』

2024.06.26更新

報道・情報

第33回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ静岡)

自宅のソファで眠る袴田巖さん(88)

『58年 その先に -袴田事件と再審法-』

<7月3日(水) 27時10分~28時10分>

58年闘った姉と弟。いま願う再審法の改正

58年前の事件で死刑判決が確定した袴田巖さん(88)。2023年10月、静岡地裁でやり直しの裁判=再審が始まった。無罪の公算が大きいとされている。なぜ58年もの年月がかかってしまったのか。関係者の証言と過去の審理記録から見えてきたのは法の不備。「拘置所にいた弟の48年を何とか利用してほしい」。姉・ひで子さん(91)が改正を訴える『再審法』の問題点とは。

再審開始を認めた元裁判官「いまの刑事訴訟法ではえん罪被害者は救われない。再審法の改正は時代の責任」

1966年、当時の静岡県清水市でみそ会社の専務一家4人を殺害したなどとして死刑判決が確定した袴田巖さん(88)。事件発生から57年が経った2023年10月、戦後5例目となる死刑事件の再審公判=やり直しの裁判が静岡地方裁判所で始まった。2024年5月22日、弁護側は無罪を主張した一方、検察側は改めて死刑を求刑。判決は9月26日に言い渡される見通しだ。無罪の公算が大きいとされている。しかし仮に無罪となったとしてもそれで終わりではない。48年に及ぶ拘置所生活で袴田さんは精神を病み、法廷に立つことはもちろん、意思の疎通を図ることすら難しい。なぜ58年もの年月がかかってしまったのか。事件にかかわった裁判官・検察官・警察官・弁護士、それぞれの証言と過去の審理記録から見えてきたのは法の不備。いわゆる「再審法」は75年にわたって一度も改正されておらず、証拠開示に関する規定もなければ、審理の進め方について具体的に定めた規定もない。

福井県で開かれた講演でマイクを握る袴田ひで子さん(91)

特に問題視されているのが「証拠開示」についてだ。現在、通常の裁判(裁判員裁判)において、検察は証拠のリストを示すことが義務付けられている。しかし、再審にはそうした規定が存在しない。袴田事件の審理では、事件から40年以上たって、ようやく検察がそれまで明らかにしてこなかった証拠を開示。その中には、検察の主張と矛盾する証拠や、違法な取り調べを記録した証拠、再審開始を決定づけた証拠も含まれていた。

袴田さんの再審開始を認めた静岡地裁の村山浩昭・元裁判官は言う。「なぜこれだけの時間がかかったのか、それは法律の規定がないから。いまの刑事訴訟法では、えん罪被害者は救われない。法改正はこの時代の責任である」。

58年間、弟の無実を信じ続けた姉・ひで子さん(91)も口をそろえる。「弟の体をもとに戻せとは言わない。拘置所にいた巌の48年間を何とかいい方法に利用してもらわなきゃしょうがない」。無罪を勝ち取るために闘った姉と弟の58年、そしてその先に見据えるものとは。

75年間一度も改正されていない刑事訴訟法の再審規定=再審法

ディレクター:福島流星(テレビ静岡 報道部)コメント

「袴田事件の裁判を担当し、取材を進めていく中で「再審法の不備」が長期化の要因だとする声を耳にするようになりました。本当に不備があるのか?なぜ不備なのか?不備であるならば、なぜ今日まで改正されなかったのか?私自身、法律に興味があったわけでも、法学部出身でもありません。ただ、75年ものあいだ一度も法改正が行われていないという事実。死刑判決が確定した男が有罪か無罪か、事件から58年も経って結論に至っていないという事実。その原因が仮に法律にあるとしたら、法律の在り方を見直す理由としては十分だと感じ取材を始めました。この番組を見た人たちが再審法について少しでも目を向けるきっかけになってくれたら、この番組を通じて世論が動き、国がうごき、法律が変わり、いまえん罪被害に苦しんでいる人が一日でも早く救われる社会になってくれたら、そんな思いでこの番組を制作しました」

【番組概要】

第33回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『58年 その先に -袴田事件と再審法-』(制作:テレビ静岡)
≪放送日時≫
7月3日(水) 27時10分~28時10分 ※関東ローカル
≪スタッフ≫
ナレーション:佐藤 朱(青二プロダクション)
撮影:杉本真弓・小澤裕将・青島慶人(富士テレネット)
編集:高松大介(富士テレネット)
効果:山下実夏(富士テレネット)
デザイン:藤田有里加 (富士テレネット)
ディレクター:福島流星・落合健悟(テレビ静岡 報道部)
構成:橋本真理子(テレビ静岡 報道制作局)
プロデューサー:中川慎也(テレビ静岡 報道部)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。