2023.09.28更新
報道・情報
父・黒木史人さんと息子・嘉津才さん、並んでろくろを回す
(左)黒木嘉津才さん(右)黒木史人さん
<10月6日(金) 26時50分~27時50分>
大分県日田市の山間に伝わる「小鹿田焼」。日常雑器ながら300年にわたる伝統技法が評価され、国の重要無形文化財に指定されている。この伝統を守るのはわずか9軒の窯元。2022年春、この里に9年ぶりとなる若き陶工が誕生した。高校を卒業した黒木嘉津才さん。しかし、器作りは簡単なことではなかった。自分の器には何が足りないのか。黙々とろくろを回しながら土と会話を続ける日々。そして、歴史を紡ぐということとは。父と子が師匠と弟子として歩み始めた
1年3カ月に密着。窯の煙を絶やさぬようこの里を継いでいく若き陶工の本音に耳を傾けた。
始まりはプライベートで訪れたことがきっかけである。水郷・大分県日田市。うねる山道を抜けた先に、今回の舞台「小鹿田焼の里」がある。およそ300年の歴史を持つ焼き物の里は、一歩足を踏み入れると、まるで時代が止まったかのような独特な空気を感じる。静寂の中、響き渡る、唐臼の土をつく「音」、焼き物を焼く窯の「匂い」、漂う「風情」。そして、黙々と作業を続ける陶工たち。機械に頼らず、手仕事で生み出される焼き物は、素朴さの中に人々を魅了する温かみを兼ね備えている。この里に息づく人々の思いに触れてみたい。そうした取材の中で知り合ったのが、黒木史人さんだった。そこで目にしたのは、史人さんのものとは少し見栄えが異なる器。「実は最近、息子がデビューしまして…」。 そこから、若き陶工・嘉津才さんへの密着取材がスタートした。
小鹿田焼の特徴のひとつが、家族単位で窯を守り、一子相伝で技術を受け継いでいるということ。現在9軒の窯元があり、多くは長男が後を継いでいる。嘉津才さんも例外ではない。「父と子」から「師匠と弟子」という新たな関係が始まった。とは言え、感覚がものを言う世界。一朝一夕にできるものではないと理解しつつも、なかなか思い通りにいかない嘉津才さんにとっては、もどかしい日々が続く。一方、それは師匠としては新米である父も同じ思いだった。そんな中、ある出来事を契機に、器作りに向き合う嘉津才さんの表情から迷いが消えた…。
若き陶工の誕生に喜ぶ傍らで、里も過疎化や少子高齢化の波にさらされつつある。実際、若手の陶工は10代から30代までで嘉津才さんも含め3人しかいない。時代の変化とともに、長男が家業を継がなければならないということはなくなってきたが、それでも里に残り伝統を守り伝えていく決断をした彼らは、何を思いながら土をこね、ろくろを回し、窯で焼き上げていくのか。伝統の技が光る器作りと共に、明日に向かって歩み続ける彼らの思いに迫る。
「“地元にこんな美しい場所があったんだ”。初めて訪れた小鹿田焼の里は、驚きと感動のあふれる場所でした。水の力で土を砕く“唐臼”の音が心地よく響き、焼き物の里ならではの“匂い”がする。9軒の窯元が肩を寄せ合う集落は、少し時代をさかのぼったかのような特別な空間でした。そんな里に、9年ぶりとなる10代の陶工が誕生しました。彼は、師匠である父に、伝統の技や陶工としての感覚を学ぶ日々を送っています。言葉数は少ないものの、親子ならではの阿吽(あうん)の呼吸で、黙々と作業を進める2人の姿を四季を通じて追いかけました。取材を続ける中、そんな親子が手掛ける器の魅力を知りたくて自宅の器を一新。すると驚いたことに、盛り付けたどんな料理も美しく輝くのです。“用の美”と表現される魅力を実感した瞬間でした。
全国的にも愛好家の多い小鹿田焼ですが、長い伝統を繋いでいくことは簡単ではありません。見えない苦労が多くあるからこそ、里や焼き物の存在がより大切に思え、同時に伝えていきたい気持ちは強くなるばかりでした。変わりゆく時代の中で、生き続けている唯一無二の存在『小鹿田焼』。この番組を通じて“この里に行ってみたい”“嘉津才さんの器を、小鹿田焼を使ってみたい”そう感じて頂ければ幸いです」
窯焼の炎を見つめる嘉津才さんと父・史人さん
(左)黒木史人さん(右)嘉津才さん
窯焼時に薪(まき)をくべる嘉津才さんを見守る父
(左)黒木嘉津才さん(右)史人さん
掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。