『Manji ~白磁の美が伝えるもの~』

2023.09.12更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:サガテレビ)

人間国宝の陶芸家・井上萬二

『Manji ~白磁の美が伝えるもの~』

<9月19日(火) 26時25分~27時25分>

人間国宝・井上萬二の白磁に秘められた人生

人間国宝・井上萬二(94)。陶芸の道に入って、80年余り。土と語り、真摯(しんし)にろくろと向き合いながら究極の美を追求してきた。1点の曇りもなくゆがみもない造形美「白磁」には井上萬二の人生が映し出されている。原点は15才で海軍飛行予科練習生として受けた軍事教育と訓練にあった。特攻隊として仲間たちが飛び立つ姿を見ながら終戦を迎え、その後は故郷有田で陶芸家としての修行の日々。「白磁」からうかがい知ることのできる人間国宝たるゆえんと井上が描く未来とは。

「白磁」は形が美しいから「白磁」…究極の美を作り出す人間国宝・井上萬二(94)の人生と有田焼の未来

2023年3月に94才を迎えた人間国宝・井上萬二。「今年は9月にアメリカで個展をしたいと思ってるんです」その一言で今さらながらそのパワーはどこから来るのだろうと改めて興味がわいた。
柔らかく純白な肌に一切のゆがみのない造形…重要無形文化財(白磁)保持者、人間国宝・井上萬二が作る白磁には人々の心を包み込む美の世界が広がる。「白磁は白だから白磁ではない。形が美しいから白磁である」「形が美しい白磁には加飾はいらない」…94才にして今もなお現役でろくろと向き合う井上萬二の「白磁」に秘められたものとは何なのか。なぜ人を魅了するほどの造形美を作ることができるのか。そこには、人間井上萬二の人生そのものが映し出されていた。
1929年、昭和4年、井上萬二は佐賀県有田町で生まれた。家は職人が30人ほどもいる窯元で、幼いころは比較的裕福に育った。しかし当時の井上には家を継ぐことも陶芸家になることも全く考えてはおらず、海軍に憧れパイロットになることを夢見ていた。昭和の不況と戦争とが相まって窯は閉鎖。当時小学6年生だった井上少年は、海軍飛行予科練の試験を受け見事合格し、予科練修生として配属先の鹿児島県串良で厳しい勉強や訓練の日々を送ることとなった。のちに井上はこの時の経験が人生の原点となり、陶芸の仕事においても精神的な糧となっていると語る。井上はいつか特攻隊として国のために命をささげる日が来ることを覚悟しながら訓練を受けていたが、17才で終戦を迎え、ふるさと有田に帰ることになった。返ってきた井上は、父親から窯を継いでほしいと言われ、名工、十二代酒井田柿右衛門の門をたたき、修行の日々が始まる。仕事を教えてもらう身で給料をもらうべからずという父親の言葉通り、無給で働く日々。そんな中、「ろくろの神様」と称されていた初代、奥川忠右衛門と出会い、弟子となってろくろの技を習得。1995年66才で人間国宝の指定を受けるまでの間「器用な人ほど上達しない。不器用もダメ。普通の人がより努力さえすれば器用な人以上の技術を身につけることができる。何事も努力」をモットーに海軍予科練時代の厳しい訓練で身につけた精神力で頂点まで上り詰めた。これまで相当の努力の中でろくろと向き合ってきた井上だが、3年前の91才の時、自分の後継者として育ててきた最愛の息子の康徳(享年62)を病で亡くす。井上がいう佐賀弁で「よか息子」の死はあまりにもショックで、今でもしょっちゅう涙することばかり。
康徳の息子で井上の孫、祐希(35)。24才で陶芸の道に入った。現在は父という手本を失いながらも、自分の発想を生かしたデザインで道を切り開いている。井上は以前より、「デザインには一切口を出さない。ただし正しい技術を身につけること。そして、自分が生きている間は自分のものまねは一切してはいけない」と常々、息子や孫に伝えていた。自分の跡取りとなった祐希に惜しみなく技術を伝え、見守りながら、未来を描いている。
「50年後100年後にこれが平成の伝統、令和の伝統と言われるものを作りたい」
94才を迎えてなお、精力的に作陶を続ける井上。
番組では予科練時代、修業時代のエピソードをひもとき、井上萬二の人間国宝たるゆえんに迫る。
井上萬二が身を置く有田焼の未来像とは。そして白磁から伝わるものとは。

ディレクター・前田智恵美(エスプロジェクト 業務管理本部)コメント 

「井上萬二先生との出会いは10年ほど前。その頃から先生の言葉には全くブレなどなく、一貫しておっしゃる言葉がある。“努力”…人間は努力さえすれば何とかなる…そしてその“努力”するための精神力はどこからきているのか。それは15才の時に入隊した海軍飛行予科練で受けた厳しい教育と訓練にあった。特攻隊として仲間が飛び立ち若い命を落とす中、覚悟を持って3年間を過ごし強靭(きょうじん)な精神を身につけた。その“精神力”と“努力”の証が、完璧な造形美“白磁”である。井上萬二の“白磁”はその人生の奥深さを秘めている。私はいつも最善を尽くしているだろうか…萬二先生と会話するたびに自分に問いかけながら、94才の年輪をコロナ禍やウクライナ戦争のニュースが飛び交う時代に生きる方たちにも見て頂きたいと考え、制作した」

窯出し後、焼き物のチェックの様子
井上萬二

講演する井上萬二

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『Manji ~白磁の美が伝えるもの~』(制作:サガテレビ)
≪放送日時≫
<9月19日(火) 26時25分~27時25分>
≪スタッフ≫
ナレーター:中村凪沙
カメラ:花森 勇、宮原佑輔、林 一成、阿比留智也、川村英吾
音声:溝口勝秀、松永政道
照明:野元 智
編集・選曲:林 剛広
MA:坪上奈穂
美術:七田志織
構成・ディレクター:前田智恵美
プロデューサー:徳渕知子

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。