『母なる海はどこへいく-ウミガメの声なきこえ-』

2023.08.28更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:TSKさんいん中央テレビ)

片足のアカウミガメ「リブ」

『母なる海はどこへいく-ウミガメの声なきこえ-』

<9月4日(月) 27時30分~28時25分>

片足のウミガメ それは母なる海からの使者

島根県の離島、隠岐の島町で瀕死(ひんし)のアカウミガメが保護された。網に絡まった右の前足は壊死(えし)、さらにフンからは複数のプラスチックごみも。海洋ごみ問題を象徴するかのような存在だ。片足のウミガメの保護をきっかけに、ある女性はごみを拾い集め、ある男性はこの悲劇を訴える絵本を描き始めるなど、島の人々が動き始めた。
日本海に浮かぶ離島で起きた物語を通じて、世界共通の課題・プラスチックごみの海洋汚染問題を見つめる。

“人間を代表して謝りました” 海を愛する隠岐の島の母

2020年夏、隠岐の島の住民から「片足を失ったメスのアカウミガメがいる」との情報が届いた。島の人々の支援もあって、このウミガメは見事に復活、生きる希望という願いを込めて「リブ(=Live)」と名付けられた。
そして1年後、すっかり町のアイドルとなった彼女は惜しまれながら自然の海に旅立った。しかし単に海にかえて良かったという話で終えていいのだろうか。片足を失った原因は人の捨てた網、人間の身勝手な振る舞いが海に生きる命をむやみに翻弄(ほんろう)したわけである。リブが何を思っているかは正直わからないが、彼女の声なき声があるのではないか、取材を始めた。

この無言のメッセージを強く受け取った女性がいた。リブを保護したダイビングショップのインストラクター・安部由起。「人間を代表して謝りました」と網を捨てたわけでもないのに何度もリブに謝っていた。ダイビング歴25年で3児の母、隠岐の海とそこに生きる命に深い愛を注ぐ彼女にとって人間の捨てたごみで傷ついたウミガメはわが子と同じくらい見過ごせなかったのだ。仕事の合間をぬってはごみを拾い、さらにはリブの悲劇を伝える絵本製作を企画、約2,000冊の絵本が全国の学校や図書館などに寄贈された。

リブのフンから見つかった小さなプラスチックごみも大きな意味を持つ。海に流れ出たプラスチックごみは波や紫外線の影響などで砕け小さくなり、海の生きものは誤って食べてしまう。さらに肉眼ではみえない特に小さなマイクロプラスチックは人間の体にも取り込まれ、悪影響を及ぼすのではないかと指摘されている。まだ未解明な部分も多いが、楽観視できない研究結果が出ているのだ。

片足のウミガメは私たちに何かを伝えようとしていたのかもしれない。旅立ったリブに思いを馳せながら前へ進む母の3年間を追った。

海岸でごみを拾う安部由起さん

自然の海にかえるアカウミガメ「リブ」

ディレクター・安部大地(TSKさんいん中央テレビ)コメント 

「私も隠岐の島の母、安部由起さんと一緒に海岸のごみを拾いました。ただ、拾っても次々と流れ着く無数のごみに私はやる気を失いかけました。一方の由起さんは“生きものが住みやすくなるなら楽しい”と笑ってごみを拾い続けます。母の心は海のように広い。番組のテーマが決まった瞬間でした。海岸に流れついたごみを拾う清掃活動は、海洋汚染を防ぐ上でも有効です。しかし、それだけでは対処できないスピードでプラスチックごみによる汚染は広がり、やがて未知なる公害として襲いかかってくるのではないか、そんな危機感を感じます。全世界が一体となって対処しなければならない問題ですが、解決の糸口は明確に見えません。それでも日本の片隅にある離島の人々は、母なる海を守ろうと、自分たちにできることを日々積み重ねています。海も、カメも、ごみも、何も言いません。私たちがくみ取らなければならないことはたくさんあるはずです」

安部さんたちが製作した絵本「リブと海」

プラスチックごみであふれる隠岐の島町の海岸

水族館で絵本の読み聞かせをする安部さん
(左から)来館者の親子、安部由起さん

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『母なる海はどこへいく -ウミガメの声なきこえ-』(制作:TSKさんいん中央テレビ)
≪放送日時≫
<9月4日(月) 27時30分~28時25分>
≪スタッフ≫
プロデューサー:奥村亜希(TSKさんいん中央テレビ)
ディレクター:安部大地(TSKさんいん中央テレビ)
構成:関 盛秀
ナレーション:鈴木 渢
撮影:野田 貴、斎藤一志、山根 収
MA:上松紗弓(スタジオヴェルト)
音効:金子寛史(フローレス)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。