『幾千のときを超えて ハンセン病患者はなぜ解剖されたのか』

2023.08.23更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:OHK岡山放送)

入所者遺族は解剖録の公開を希望
左)遺族・木村真三さん

『幾千のときを超えて ハンセン病患者はなぜ解剖されたのか』

<8月31日(木) 27時25分~28時25分>

90年のときを超えて出現した解剖録

岡山県の2つのハンセン病療養所で亡くなった入所者を解剖していたことを示す「解剖録」の存在が明らかになった。長島愛生園では、入所者の遺族が現れ、強い希望で解剖録の一般公開が始まった。もう1つの療養所・邑久光明園では、人権擁護委員会が検証を行い、園での解剖は重大な人権侵害であったと結論づけた。番組では、長く閉ざされたハンセン病療養所という空間で、なぜハンセン病患者は解剖されなければならなかったのかを探る。

岡山の2つのハンセン病療養所で見つかった入所者の解剖の記録 長く閉ざされた空間で何が行われたのか

岡山県にある2つのハンセン病療養所で、亡くなった入所者を解剖していたことを示す「解剖録」の存在が明らかになった。長島愛生園では1931年から25年間の1,834人分。医師が大切に保管していた。一方、邑久光明園の解剖録は1,123人分で、園の人権擁護委員会は、直ちに検証に乗り出した。解剖は平成の時代まで続き、100%に近い割合で行われ、取り出した臓器が長期間保存されていたことも分かった。
解剖に立ち会った医師の証言では、解剖して全ての臓器を取り出して保存することは、違和感があったと振り返る。検査技師の証言では、当時園の方針は解剖が第一。朝から夕方まで解剖を行い、その後ようやく日常業務に戻る。遺族の中には、解剖に同意しない人もいて、執刀医は、研究のために役立ててほしいと遺族のもとで頭を下げお願いをしたという。偶然、解剖の様子を見たことがある入所者もいた。冷たい流しの上に遺体は表向きに置かれ、魚と一緒だと思ったと。専門家は、ハンセン病患者の解剖は明治時代からひどい状態で行われたと話す。強制収容された患者には原則身寄りがなく、身寄りがあっても縁が切れている状態で、遺族の同意も必要ないといった、人道に反した解剖だったと指摘した。

番組では、全国14カ所のハンセン病療養所に聞き取りを行った。解剖を行っていた施設は11カ所。解剖録が残っていたのは6カ所。解剖についての検証を実施、または検証中と答えた施設は3カ所あった。そのうちの1つ、熊本県の菊池恵楓園では、入所者の遺体から骨格標本が作られていたことが分かっていて、約7年かけて検証が行われた。検証作業の中で、少なくとも389人が解剖されていたことも分かった。新たに戦時中、陸軍が研究した薬の人体実験が行われていたことを示す資料も見つかった。園では、貴重な資料を残すことの意義を訴えている。
国の誤った隔離政策により、ハンセン病の偏見や差別は、入所者だけでなく、家族や遺族にも向けられている。そんな中、長島愛生園をある入所者の遺族が訪れ、解剖録の開示を求めた。ハンセン病問題を自分事として捉えてほしいと、遺族は解剖録の一般公開を願い出た。

90年のときを超えて解剖録が姿を現したのは、くしくも医療従事者や感染者の誹謗(ひぼう)中傷が問題となったコロナ禍。ハンセン病の歴史を繰り返してはならない。解剖録をめぐり多くの人の思いが交錯する。解剖録は私たちに何を問いかけているのか。そのメッセージをひもとく。

ディレクター・竹下美保(OHK岡山放送 報道部)コメント 

「番組の本格的な取材活動は2022年9月、全国で初めてハンセン病元患者の遺族が解剖録の開示を求めたというスクープから始まりました。私たちの放送エリアには合わせて3つのハンセン病療養所があります。マスコミとして、この問題に向き合う心構えは持っていたつもりでしたが、90年以上の長い歴史と人権問題、にわか勉強ではとても追いつかない深い理解が必要でした。私は、数カ月間入所者やその家族の元に通い、一生をかけてこの人たちと関わり活動を続ける覚悟を決めたのです。難しい取材交渉でしたが、元患者や家族の皆さんは私を受け入れてくれました。あなたたちマスコミが正しく伝えてくれなければハンセン病に対する偏見・差別はなかなか解消されないと、大きな期待をかけてくれました。私に託された嘆きの声や社会への願いとともに、正しく伝え深い理解を促す…その一心でした。この番組『幾千のときを超えて』には、その信念と決意を込めました」

長島愛生園で見つかった解剖録、その数32冊に及ぶ

解剖録とともに公開された入所者の写真。1941年に亡くなった木村仙太郎さん

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『幾千のときを超えて ハンセン病患者はなぜ解剖されたのか』(制作:OHK岡山放送)
≪放送日時≫
<8月31日(木) 27時25分~28時25分>
≪スタッフ≫
構成:梅沢浩一(フリー)
音効:桧山賢至(メディアハウスサウンドデザイン)
MA:黒須智貴(メディアハウスサウンドデザイン)
撮影・編集:浦上順司(OHKエンタープライズ)
CG:加藤裕理(OHKエンタープライズ)
ディレクター・語り:竹下美保(OHK岡山放送)
プロデューサー:小林宏典(OHK岡山放送)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。