『行商がつなぐもの~地方創生の未来とは~』

2023.07.30更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:さくらんぼテレビ)

「まるみつ」の店主・古沢健也さん

『行商がつなぐもの~地方創生の未来とは~』

<8月4日(金)27時55分~28時50分>

山間の町で“心をつなぐ”鮮魚店

山形県西川町の「まるみつ」は新鮮な魚介類をトラックに乗せ「行商」をする町内唯一の鮮魚店だ。待ち受ける客のほとんどは自分で買い物に行くことができない高齢者。行商の普段の様子から見えてくるのは、増え続ける一人暮らしの高齢者や解決策の見えない空き家問題など、さまざまな町の課題。国が「地方創生」を掲げもうすぐ10年が経つが、その成果は本当に地方に届いているのだろうか。

行商の日々から垣間見える人口減少と高齢化 「朝から晩まで…」厳しい商売でも続けるわけ

町内の鮮魚店「まるみつ」の店主・古沢健也さん(62)は週に4日、新鮮な魚介類や惣菜をトラックに載せ町内を売り歩く。代々続く行商を始めて43年になるが、10軒近くあった業者は「まるみつ」だけになってしまった。車もなく買い物は行商頼みの人はもちろん、重い荷物を運んでほしい人、古沢さんとの会話を楽しみにしている人など・・・古沢さんが支えているのは食だけでなく、お年寄りの暮らしだ。
早朝から市場で仕入れをし、行商は夜まで続く多忙な商売。古沢さんは「なんでこんな商売をやっているのだろうか」と弱音を吐くことも。それでも客からの「行商のおかげで生活できる、無くなったら困る」との声を励みにハンドルを握る。行商を続ける原動力は、こうした必要とされる喜び、そして客との触れ合いという生きがいだ。
木村勝男さん(72)は「まるみつ」の常連客。妻に先立たれてから約20年、一人暮らしを続けている。畑で実った野菜を使い、料理を作るのも楽しみの1つ。そんな木村さんもまた、食卓を彩る魚を買おうと古沢さんが来るのを心待ちにしている。子どもたちは隣の宮城県で暮らし、帰ってくるのも1年に数回。それでも「ご先祖様の土地を守る」と健気に、そして力強く暮らしている。

舞台となる山形県西川町は人口4700人。2022年に生まれた赤ちゃんの数はわずか10人、一方で亡くなった人の数は120人にも上る。高齢化率も県内で最も高い47%だ。今後の町の方針を決める「総合計画案」では、「このままでは地方創生の観点から、地域が再び活気づくことが困難になる人口も割り込む」と懸念が示された。町が、地方創生の観点から課題解決の要と考えたのが「関係人口」。定住する人でも、観光客でもない、町外に住んでいながら何度も町を訪れ活性化に関わっていく人のことだ。町ではまず、関係人口と町民をつなぐ役目として、地域おこし協力隊を大幅に増員。さらに、除雪ボランティアの学生を「協力隊インターン」として県外から呼び込み地域の人との交流の場を設けるなど、関係人口の発掘に力を注ぐ。その結果、最近では町内を若い人が行き交う姿を目にすることも多くなった。さらに協力隊と地域の人が連携し活動を始めるなどにぎわいも生まれてきた。それでも取り組みが始まってから、まだ1年ほど。地域に暮らすお年寄りの中には、その変化を感じることも、知ることもできない人が多くいるのも現状だ。

こうした中、空き家となっていた古沢さんの実家を譲渡してほしいという話が舞い込んでくる。関係人口をさらに増やすため、協力隊の活動拠点にしたいという。引き渡しの日、古沢さんは協力隊側に「今の取り組みを中途半端に終わらせず、ずっと続けてほしい」と伝えた。常連客の中にも、町の盛り上がりから取り残されているお年寄りが多いことを知っているからだ。古沢さんは、思い入れの強い場所を町の未来につなげることを決めた。

この春、西川町は「つなぐ課」を新設し関係人口の増加に向け活動を加速させる。つなぐ課には協力隊インターン生だった深野まどか(21)さんが臨時職員として働いていた。「町の人が感じない魅力を伝えたい」と、今後は町外の目線を生かした町おこしに関わっていく。
国は地方創生を掲げ、少子高齢化、人口減少、東京一極集中の是正を目指した。さまざまな政策が推し進められたものの、その明確な成果を私たちが実感できる状況にはない。本当に地方の暮らしは守れるのか。地方は生き残れるのか。地方の縮図ともいえる山形県の小さな町から地方創生の現在地と未来を探る。
※年齢は山形での放送当時(2023年5月26日)

ディレクター:髙橋信太郎(さくらんぼテレビ 報道部)コメント

「いつも“朝から晩まで働き詰めで嫌になる”と話す古沢さんですが、行商先は常に笑顔があふれます。そんな毎日からは、必要とされ生きがいを感じられるという当たり前のことを、地域のつながりを通して感じているように見えます。しかし高齢化が進み常連客は減るばかり、新しい客が増えることはなく“いつか廃業しなければいけないのでは”と複雑な思いを抱きながら商売を続けています。西川町は関係人口が増えどんどん活気づいてきました。しかし盛り上がっていけばいくほど、その輪に入れない人が出てくるのも事実。古沢さんは何とかその輪をもっと多くのお年寄りに広げてほしいと考え、大事な場所を協力隊に託しました。地方創生が始まり10年近くがたったいま、成果はどのように地方に行きわたったでしょうか。そして私たちは今後、どのように地域を維持し、活性化に関わっていけるのでしょうか。それを考える1つのきっかけになればうれしいです」

行商車の周りには常連客が集まる

毎朝仕入れた鮮魚を調理

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『行商がつなぐもの~地方創生の未来とは~』(制作:さくらんぼテレビ)
≪放送日時≫
8月4日(金)27時55分~28時50分 ※関東ローカル
≪スタッフ≫
プロデューサー:太田 健
ディレクター:髙橋信太郎
構成:太田 健
取材:髙橋信太郎
撮影:鈴木 相、大友信之、竹田 誠
編集:髙橋信太郎
音効:相田恵美子(サウンドリング)
MA:金 材泫(アートプラザ虎ノ門)
CG:佐藤哲哉
ナレーション:山本百合子(青二プロダクション)
制作:さくらんぼテレビジョン

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。