『生涯教師-自分らしく生きる意味-』

2023.07.05更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ静岡)

魂の講演活動に励む榛葉達也さん

『生涯教師-自分らしく生きる意味-』

<7月12日(水) 27時10分~28時10分>

突然の余命宣告…あなたならどうしますか?

吉原工業高校の教師・榛葉達也(当時30)。2022年2月、彼の人生は一変した。体の異変を心配した家族の勧めで検査を受けたところスキルス胃がんが発覚。宣告された余命は、治療した場合でも約1年だった。誰もが絶望し、悲観するような状況。それでも達也は前を向いた。「教壇には立てなくても、教師として出来ることはないか?」と、今は思いの丈を講演という形で伝えている。
若き教師が病魔と闘う中で見つけ出した自分らしく生きる意味とは。

家族のため、そして生涯教師であるために… 前を向き、自分が自分のことを一番好きでいられるように

早期発見が難しく、発症の原因もいまだ解明されていないスキルス胃がん。胃がんの中でも厄介なタイプとして知られ、転移しやすいとも言われている。静岡県牧之原市に住む高校教師・榛葉達也(しんば・たつや)は、30歳にして突然、その病に罹患していることが発覚し、自分の命があと1年前後しかないことを告げられた。一人娘は当時、まだ2歳になったばかり。達也は限られた時間を思い残すことがないようにと、すぐに休職を願い出て、家族との旅行や友人との飲み会に明け暮れた。同じ状況に立たされた時、おそらく多くの人が彼と同じような行動をとるのではないだろうか。
しかし、達也は余命宣告から数カ月ほど経った時、「今のままで良いのか?」と、己の生き方に疑問を持った。家族はもちろん、知人、友人は誰も達也が死ぬなんて思っていない。治療も順調で、元気な状態も維持できている。何より、生徒に対して常に「苦しい時に出る姿こそ本当の自分」という言葉を投げかけて来た自分が「いざ体が動かなくなり、死が近くに感じられる状況になった時、この生活を続けていて後悔しないだろうか?」と自問自答した。そして妻にこう言った。「死ぬまで教師でいたい」と。

生徒のストレートな質問にも正面から向き合う

父は元校長で、母も元教師。小学生の頃から教師という仕事にあこがれ、誇りを持ってこの仕事に向き合って来た。“教師”とは、学校現場に限らず、様々な立場でモノを教える人という意味がある。だからこそ、休職の身で教壇に立てなくても、スキルス胃がんや抗がん剤治療の実態を伝えることはできる。闘病で得た経験や思いを伝えることはできると講演活動を始めた。そして、妻のため、娘のため、同じ病気で苦しむ人たちのため、がんと闘った証を残そうとYou Tubeでの発信も始めた。

家族全員が有段者という剣道一家に育ち、競技歴20年以上の達也。高校時代は主将としてインターハイの団体戦にも出場した経験を持つ。体調や時間の許す限り、剣道部の前顧問として、教え子たちの練習や試合にも顔を出すと決めた。休職中のため、本来、部活動を指導することは許されていない。でも、達也は「自分が指導できなくなった時に、しておけばよかったと思いたくない。できる時にできることをすべて伝えたい」と率直な思いを口にした。批判があるのは覚悟の上だが、そんな達也のことを、教え子も、保護者も信頼している。

当初は、達也の活動に後ろ向きだった静岡県教育委員会の後押しも得られるようになり、妻の美咲も達也の意思を尊重し、そっと支えている。

最愛の家族と共に迎えた初日の出

達也は、闘病を経て「時間を大切にすることの本当の意味」を考えるようになったと話す。その中で導き出した答えは「自分の夢や目標に向き合い、叶うよう努力すること」だった。一度は見据えることをあきらめた“未来”。しかし「大切な人がいるのに1年で死んでいいわけがない」と、今は1年という時間に縛られることなく、少しでも長く生き続けられるよう体力・気力の維持に努め、抗がん剤治療に向き合い、5年生存率が0.1%でも高まるよう日々を送っている。そして「本当の努力や挑戦に失敗はない。仮に自分に死が訪れたとしても、その姿を見た人たちは必ず自分の分まで頑張ろうと思ってくれるはずだ」と断言し、「確率や数字を恐れて、努力することや挑戦することから逃げるな」と伝えている。

時には痛みも伴う抗がん剤治療

年明けには抗がん剤の副作用で脱毛が始まり、坊主頭にした。腹膜への転移により腹水がたまり、お腹の膨らみも目立つようになった。なかなか効かない抗がん剤。それでも達也が歩みを止めることはない。「自分が自分のことを一番好きでいられるように努力してほしい」と子供たちに呼びかけ、「こんな姿になって、今こうして人前で話している自分が好きで、榛葉達也らしい」と胸を張る。これまでに行った講演は実に25回(2022年5月時点)。剣道の試合会場に顔を出し、檄を飛ばす姿も相変わらずだ。若き教師・榛葉達也の情熱と生き様を記録した。

熱のこもった剣道の指導

ディレクター:入口鎌伍(テレビ静岡 報道部)コメント

「私が榛葉さんと初めて会ったのは2022年7月、その時のことは今も深く心に刻まれています。それは彼の眼に末期がんで余命1年と言われたとは思えないほどの強さと決意が宿っていたからです。目の前に座る4歳下の青年に、ある種の尊敬の念を覚えました。
魂の講演会、熱のこもった剣道の指導、就職に向けた模擬面接に付き合う姿など、榛葉さんの取材を重ねるうちに“私も学生時代にこんな先生と出会いたかった”と思うようになりました。
もちろん、榛葉さんが治療に専念するために“休職している”という立場を考えれば、彼の行動を否定的にとらえる人もいるかもしれません。
ただ、こんなにも己に、そして生徒に真摯に向き合う教師がいること、これこそ静岡県にとって宝であると私は思います。
彼の姿は、言葉は、多くの人に勇気を与え、困難に直面していなくとも自らの生き方を見つめ直すきっかけになるのではないかと思い、番組の制作を提案しました」

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『生涯教師-自分らしく生きる意味-』(制作:テレビ静岡)
≪放送日時≫
7月12日(水) 27時10分~28時10分 ※関東ローカル
≪スタッフ≫
ナレーション:のぐちゆり(青二プロダクション)
撮影:黒田健斗(富士テレネット)青島慶人(富士テレネット)
小澤裕将(富士テレネット)
編集:川合秀樹(富士テレネット)
効果:松阪史高(富士テレネット)
デザイン:鈴木春香(富士テレネット)
構成:橋本真理子(テレビ静岡 報道部)入口鎌伍(テレビ静岡 報道部)
ディレクター:入口鎌伍(テレビ静岡 報道部)
プロデューサー:橋本真理子(テレビ静岡 報道部)
≪お問い合わせ≫

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。