『空白の海~KAZUⅠ沈没 家族と捜索隊の1年』

2023.06.19更新

報道・情報

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:北海道文化放送)

引き揚げられた観光船・KAZUⅠ

『空白の海~KAZUⅠ沈没 家族と捜索隊の1年』

<6月26日(月) 27時30分~28時25分>

安全の空白による事故 家族と捜索隊の記録

2022年4月、乗客乗員26人を乗せた観光船KAZUⅠ(カズワン)が北海道知床沖で沈んだ。現場海域は捜索態勢や通信網などが未整備の「安全の空白地帯」だったことが事故後に明らかになる。さらに運航会社のずさんな安全管理が乗客の家族を苦しめた。そうした中、行方不明者の捜索を開始したのが、知床の漁業者らでつくる捜索チームだ。「絶対にあきらめない」その姿勢が苦しむ家族の支えになっていく。

「可能性はゼロではない」漁師らはヒグマの出没する知床半島を歩き始めた

北海道東部・世界自然遺産に登録されている知床。大自然を体験するために欠かせないのが観光船だ。知床岬付近は道路の建設が規制されているため立ち入りが出来ない。「秘境」に近づく唯一の手段が船なのだ。

「知床遊覧船」もそうした観光船を運航してきた。桂田精一社長は地元の名士だった父親から宿泊事業などを引継ぎつつ事業を拡大。2016年に「知床遊覧船」を買収。KAZUⅠなどの観光船を運航してきた。しかし、その経営の内実は「安全」を最優先しているとは言い難いものだった。コロナ禍でベテランの従業員を解雇し、要件を満たしていると虚偽の申告をして自らを「運行管理者」としていたのだ。

そして2022年4月、KAZUⅠは乗客乗員26人を乗せて沈没した。桂田社長は事故4日後に会見を開き「お騒がせした」と土下座した。しかし、家族への説明はその後行うことはなかった。

事故はいくつもの「空白」を浮き彫りにした。北海道にはヘリコプターから降下して救助を行う「機動救難士」が函館市に配備されているが、知床は450キロ以上離れていて、1時間以内に到着することはできなかった。救助の空白地だったのだ。さらに、監督官庁と観光船運航会社の緊張関係も失われていた。KAZUⅠは前年に2度事故を起こしているが、その「改善報告書」の書き方を国の運輸局が“指南”し、会社は「コピペ」して提出していた。安全管理の内実も「空白」と言っていいものだった。国交大臣は事故後、「会社は当事者意識が欠如している」と批判したが、それは国も同じだった。

十分な説明もなく苦しみ続けてきたのが乗客家族だった。7歳の子が行方不明になっている男性は今も息子が出てきた夢の内容をノートに書き記している。乗り物が大好きだった息子。安全だと信じていた乗り物が、これほどずさんに運行されていたことへの憤りは決して消えることがない。

そうした中、家族のために動き始めたのが、地元の漁師たちでつくる捜索ボランティアだった。漁師歴40年以上の桜井憲二さん(60)を筆頭に事故の10日後から沿岸を歩き続けた。ヒグマもいる危険な道。捜索の空白を作らないよう、丁寧に歩く。その結果、2人の遺体の発見につながる。ボランティアの存在は乗客家族にとって救いになっていく。

流氷に覆われていた知床の海にも春が近づく。漁師たちは再び捜索に向かった。一方、乗客家族の男性は事故を風化させないため、子どもの存在を広く伝えていくことを決めた。

プロデューサー・涌井寛之(北海道文化放送 報道情報部)コメント

「太平洋、日本海、そしてオホーツク海。3つの海に囲まれた北海道では毎年90隻ほどの船が海難事故にあっています。どんな事故も悲惨で、家族の悲しみは計り知れません。
一方で北海道の東部と北部に広大な救助の空白域(1時間以内に機動救難士がたどり着かない)があることは、多くの人が知らずにきました。また、監督官庁と運航会社が“なれ合い”とも言えるような関係にあり緊張感が失われていたことも、KAZUⅠの事故以前には知られていませんでした。こうしたことが乗客家族の無念をより強いものにしました。
こうした背景に早い段階で気づき、警鐘を鳴らすことができていたら…。取材する私たちの後悔も今回の番組には込められています。乗客家族のためにひたすら歩き続けた捜索隊のみなさんの姿は、自分にできることを最大限やるべきだ、というメッセージだと受け止めました。捜索チームへの敬意も込めて番組を送り出したいと思います」

行方不明の男児と母親

捜索を終えて戻った桜井憲二さん

【番組概要】

第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『空白の海~KAZUⅠ沈没 家族と捜索隊の1年』(制作:北海道文化放送)
≪放送日時≫
6月26日(月) 27時30分~28時25分
≪スタッフ≫
プロデューサー・構成:涌井寛之(北海道文化放送)
ディレクター:田中うた乃(北海道文化放送)
カメラマン:佐野力斗(STプロダクション)
編集:鈴木梨里紗(オーテック)
音効・MA:梅原浩介(パイルアップサウンズ)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。