『秘境の牛医』

2022.11.04更新

報道・情報

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ宮崎)

決断の時

『秘境の牛医』

<11月11日(金) 27時30分~28時30分>

「生きるだけじゃダメ…」。迫られる命の選択

日本三大秘境・宮崎県椎葉村。この山深い村に牛専門の女性獣医師がいる。幼い頃の悲しい記憶から「獣医師になって帰ってくる」という思いを持ち続け、3年前に娘を抱えて帰郷。険しい山道を駆け抜けて緊急診療に追われる日々の中、“農家の生活”と“牛の命”の狭間で心は揺れていた。やがて彼女に選択の時がやってくる…。「救える命も救えなくなってしまう」その言葉に秘められた現実とは。秘境の牛医に、未来はあるのか。

日本三大秘境・宮崎県椎葉村に生きる牛専門の女性獣医師に密着

宮崎市内から車で約3時間かけてようやくたどり着く山里・椎葉村。標高1000メートルを越える山々に囲まれ、空さえも狭く感じるこの地は“秘境”と呼ぶにふさわしい場所だ。ここに、牛専門の獣医師として奮闘する女性がいる。椎葉村で生まれ育った宮下絢香先生、32歳。そもそも“牛専門の獣医師”とはどのような仕事をしているのだろうか。そんな素朴な疑問の答え探しから番組は始まった。

気にかけて村を見てみると、想像していた以上に牛農家数は多かった。母牛を飼育し、子牛を産ませてセリに出す。子牛1頭が約60万円と考えても、決して職が多くはない山村で牛は貴重な収入源となっているのだ。そのため、牛専門の獣医師の仕事は命を助けることだけではない。発情管理から種が付いているかの確認など、分べんまでのサポートを何でも請け負う。生物を相手にしているため、時間に制限はない。ある時は体調を崩している牛の治療、またある時には夜中の出産、中々収入に結び付かない牛のケアなど農家にとっての最善策全てが獣医師の仕事なのだ。

牛農家を営む家で育った宮下先生は、幼い頃から「村に獣医師が定住しない」ことが気がかりだったと言う。獣医師がいないことが原因で死んでいく牛たちの側で涙を流す父や農家の姿を見て、「私が獣医師になって椎葉村に帰ってくる」と決意。その意志を貫き、3年前に娘を連れて帰郷した。夫の兼一さんは鹿児島県で牛農家を営んでいる。獣医師として成長していく妻に対して、夫がしてあげられることは何なのか。“新しい家族の形”を選択することになった妻・夫・娘が今思うこととは。

牛の命を救うために帰ってきた宮下先生だったが、その考え方だけでは農家の望みをかなえられないことを実感する。収入源となる牛は「ただ生きる」だけでは許されない。農家の生活と牛の命の狭間で心が揺れ続ける先生に、どちらかを選択しなければならない瞬間がやってくる。

さらに宮下先生は「このままだと救える命が救えなくなる」と子供たちにも訴えかける。広い山村であるがゆえに抱える問題、そして秘境の牛医に迫りくる危機とは何なのか。

思いは父から娘へ
左から)宮下絢香さんの父・椎葉勇さん、宮下絢香さん、宮下瑚々乃さん

新たな命

ディレクター・結城葵(テレビ宮崎制作部)コメント

「絢香先生は今まで出会った女性の中で一番強くてたくましい。それが出会った頃の印象でした。ベテラン農家に的確な指示を出し、より多くの収入が得られるよう臆せずアドバイスをする。村の期待を背負って帰郷した先生は自信に満ちあふれていた…ように見えていました。しかし、密着する中で見えてきたのは、牛と村民を同じだけ愛するがゆえに悩む姿でした。私だったら目を背けたくなるような選択からも決して逃げず命と向き合う姿勢に、どれだけの覚悟を持って先生がこの仕事をしているか気付かされました。
自らの夢を優先した先にあった夫婦別居という生活。番組を見た人の目にどう映るかは正直分かりません。しかし、少なくとも私は、女性が進みたい道を自分でつかみ取っていくことが“新しい家族の形”なのではないかと感じました。人間関係が希薄になりつつある都市部ではなく、密接なつながりが残る村でこの選択をしたことに大きな意味があると感じます」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『秘境の牛医』(制作:テレビ宮崎)
≪放送日時≫
11月11日(金) 27時30分~28時30分
≪スタッフ≫
プロデューサー:阿部祐也
ディレクター:結城 葵
撮影・編集:魚住忠宏
ナレーター:児玉泰一郎
撮影助手:中村 駆
題字:黒木美希

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。