『ダムは誰のために ―山鳥坂ダム 40年目の予定地変更―』

2022.10.07更新

報道・情報

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ愛媛)

山鳥坂ダム建設予定地

『ダムは誰のために ―山鳥坂ダム 40年目の予定地変更―』

<11月14日(月) 27時25分~28時25分>

山鳥坂ダム 突如発表された建設予定地の変更

建設計画が持ち上がり40年が経った今も完成をみない、愛媛県大洲市肱川町の山鳥坂ダム。
国は2021年、ダム本体の建設予定地の変更を発表した。予定地の周辺に暮らす住民は、人生の大半をこのダム事業と共に生きてきた。さらなる計画変更で、工期・費用とも拡張する現実。
ダムは一体誰のためのものなのか。近年の気候変動を背景にダム建設へと風向きが変わる、全国のダム。山鳥坂ダムが担う、治水ダムとしての効果を見つめる。

地元住民が当初から指摘していた予定地の地盤のもろさ。国直轄の第3のダム「山鳥坂ダム」の治水効果は一体…

肱(ひじ)川支流・河辺川に建設される山鳥坂ダムは、1982年、建設の可能性を探る予備調査を機に計画が持ち上がった。建設予定地がある愛媛県大洲市肱川町岩谷地区は、山あいに民家が点在する山間の集落だ。ダムで水没するエリアに住む住民33人は、すでに立ち退いた一方で、ダムより高い場所や水没しないエリアに住む約80人は、今なおこの地区で暮らしている。

住宅の取り壊しや水没する県道の付け替え工事か進むなど、岩谷の景色を一変させるダム建設。しかし、未だダム本体の工事は始まっていない。こうしたなか予備調査から40年が経とうとする2021年、国は突如、この山鳥坂ダムの建設予定地を400メートル上流に変更することを発表した。ダムの本体工事を前に行った地質調査で、周辺に大規模な地すべり面が見つかったためだ。変更に伴って完成は2026年から2032年に延長。総事業費も850億円から1320億円に増え、国は大幅な事業変更を迫られた。40年間変わることのなかった予定地。岩谷地区の住民は、計画初期から、予定地の地盤のもろさを指摘していたという。当時、山鳥坂ダム工事事務所の所長に質した元町議の証言。旧肱川町民が建設省職員から受けた説明。予定地変更の経緯と共に背景を追った。

愛媛県では、2018年の西日本豪雨での甚大な浸水被害により、治水対策への関心が高まっている。一方で、山鳥坂ダムそのものの治水効果を示す具体的なデータは公開されていない。本番組では、山鳥坂ダムの治水効果を考える上で、大洲市肱川町の鹿野川地区に着目した。この地区は、肱川本流にある既存の鹿野川ダムから約500メートル下流にある“全国有数のダム直下の町”。そして、肱川と山鳥坂ダムができる支流・河辺との合流地点に位置する、“2つのダムに挟まれる町”でもある。西日本豪雨では4メートル強の浸水被害を受け、専門家からは、肱川と河辺川とのバックウォーター現象が指摘される。山鳥坂ダムの完成がもたらす影響は一体。

肱川水系河川整備計画では、既存のダムと山鳥坂ダムに加え、河川整備など流域全体での治水対策で災害を防ぐ方針が示されている。大規模な公共事業は、これからを生きる人々の暮らしを守り、豊かにしていくためには必要なものだ。一方で、西日本豪雨を通して、ダムや河川整備といったインフラ整備の限界も知った。山鳥坂ダムが完成するまであと10年。改めてこの事業を見つめ直した。

山鳥坂ダム建設により水没地域にあたる公民館

旧肱川町時代に町議会議員を務めていた下石勲さん

ディレクター・原大地(テレビ愛媛報道部)コメント

「建設予定地がある岩谷地区は高齢化が進み、水没エリアの人が立ち退いたことで、過疎化に拍車がかかっています。こうした状況を背に今回、地区の住民を取材すると、“ダムに振り回された一生だった”、“ダムよりも、生きているうちに道路を早く整備してほしい”など、未だ完成を見ないダム事業と共に、人生の大半を過ごしてきた人たちの言葉の重みをひしひしと感じました。西日本豪雨を機に、河川整備計画が加速するなかで、治水対策の一翼を担う山鳥坂ダム。しかし、ダム単体の治水効果を示すデータがないことに疑問を持ち、専門家などへ取材し分析しました。そこで見えてきたのが、流域全体で治水を進める重要性と、その反面、インフラ整備自体の限界でもありました。
本番組を通して、地元住民だけでなく国や自治体・工事関係者など、多くの人が長期間関り続けるダム事業について、一人一人が考えるもらうきっかけになればと思います」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ダムは誰のために ―山鳥坂ダム 40年目の予定地変更―』(制作:テレビ愛媛)
≪放送日時≫
11月14日(月) 27時25分~28時25分
≪スタッフ≫
ナレーター:橋本利恵
撮影・編集:友近晶二     
デザイン:外田 武
CG:後藤 舞
アニメーション:武田今日平(バンブーデザイン)、石水修司(フィジカルアイ)
ディレクター:原 大地
プロデューサー:水沼智寿子

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。