『命のバトン~移植医療後進国ニッポン~』

2022.07.22更新

報道・情報

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:テレビ新広島)

心臓移植を待つ森原大紀さん

『命のバトン~移植医療後進国ニッポン~』

7月29日(金) 27時35分~28時35分

日本で進まない移植医療、その実態と背景は

臓器移植法(1997年10月16日施行)がスタートして25年の日本。欧米諸国と比べ、依然として移植医療は進んでいない。関心を持つ人が少ない一方、切実に臓器提供を待ち続ける患者がいる。番組では、近親者の臓器提供を決めた家族や、医療関係者などの声を幅広く取材。移植医療を取り巻く問題を明らかにし、日本での臓器移植を「普通の医療」にするためには何が必要か、考える。

臓器提供を待つ人、大切な家族の臓器提供を決めた人、それぞれの葛藤は

広島市の高校教師・森原大紀さん。学生時代からレスリングに打ち込むなど体力には自信があったが、26歳の時に突然体調を崩す。告げられた病名は、1万人に1人と言われる難病「特発性拡張型心筋症」。生きるために残された道は、心臓移植しかない。体に埋め込んだ「補助人工心臓装置」で命をつなぎながら、移植の順番を待つ長い日々が始まった。

「補助人工心臓装置」のコントローラーが入ったカバンを常に持つ

日本で心臓移植を待つ人は年間約900人。それに対して臓器提供者(ドナー)は50人程度。肺や腎臓など他の臓器も含めると、年間約1万5000人がドナーを待つという厳しい現実がある。「臓器移植法」施行から25年が経つ中で、欧米諸国と比べると日本は、移植医療が極端に進んでいない。

亡くなった人からの臓器移植には、ドナーが「心停止=死亡」した場合と「脳死」した場合の2つがあるが、日本では「脳死は臓器提供する場合に限り“人の死”とする」とされている。つまり、「死」の定義が2つあるのだ。これが、残された遺族を苦しめる。

実際に、家族を亡くし、その臓器を提供した人たちがいる。悲しみのなかで、その決断を後押ししたものは、故人の「生前の意思表示」だった。数年前、夫の臓器を提供した米山順子さんは、「“脳死は人の死じゃない”と言われることはやはりある。だったら私が夫を殺したんだと思いますね」と、家族の葛藤と重圧を語り、「“人の死”は医療側が決めてほしい」と願う。
「当事者になるまで、自分も関心はなかった」という森原さんは、心臓移植を待ちながら、自分が生きるため、そして自分と同じように移植を待つ患者のために、移植医療への理解を広める啓発活動を始めた。一方で、森原さんの母・ゆう子さんは、「本人には元気になってほしいけど、ドナーにも家族がいる。そこには悲しみもあるので、すべてバンザイではない」と複雑な心境ものぞかせる。

番組では、患者・医療従事者・ドナー家族などを幅広く取材。日本の移植医療が進んでいないのはなぜか、問題点と課題を探った。そこから見えてきたのは、自らの死に向き合い、「人生の最期」について考えることの大切さ。「命のバトン」をつなぐことのできる社会にするため、私たち一人一人ができることとは。

葛藤と重圧を打ち明けるドナー家族

街頭で啓発活動をする森原さん

ディレクター・石井百恵(テレビ新広島報道部) コメント

「始まりは、夕方のニュース番組の企画でした。国や関係機関が発表する臓器提供に関する調査では、“臓器提供や意思表示カードに対する国民の関心は高まっている”という結果が出ています。しかし、取材を通して一般の人から感じるのは、“他人事”感。調査結果とは乖離(かいり)した関心の低さでした。一方、患者やドナー家族の方々は、異口同音に“まさか自分が…”と口にします。“当事者になるまで、他人事だった”という声に触れるたびに、誰が当事者になるか分からないからこそ、多くの人に考えてもらうために番組を制作する必要性を感じました。新型コロナの感染拡大で、予定していた取材ができないという壁に何度もぶつかり、紆余(うよ)曲折しながらの制作となりました。なぜコロナ禍に取材が難しい医療ネタをわざわざ取り上げるのか、そんな声もありましたが、新型コロナでドナーが減り失われる命が多いからこそ、“今伝えなければ”という思いで完成させました」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『命のバトン~移植医療後進国ニッポン~』(制作:テレビ新広島)
≪放送日時≫
7月29日(金) 27時35分~28時35分
≪スタッフ≫
ディレクター・ナレーター:石井百恵(テレビ新広島報道部)
構成:地蔵堂充(TSSプロダクション)
撮影:高山祐一(TSSプロダクション)
編集:山本憲治(TSSプロダクション)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。