『母と妻と娘と－あなたが愛した伊豆山－』

『母と妻と娘と－あなたが愛した伊豆山－』

７月22日（金） 27時25分～28時25分

熱海土石流　怒りと悲しみを使命に変えて

2021年７月、熱海市伊豆山を襲った土石流では27人が死亡し、１人の行方が分かっていない。遺族や被災者は自然災害ではなく“人災”と主張している。母を亡くした瀬下雄史さん（53）は、「同じ悲劇を二度と繰り返さない」という使命感のもと、被害者たちの先頭に立って戦い続けている。最愛の妻を失いながら前を向き生きようとする男性、幼い孫を残して逝った娘のため原因究明を訴える女性、瀬下さんは被災者の声を届け続けると誓った。問題ある盛り土は全国に存在するから。

「無能な行政・おとなしい住民が揃うと悪徳業者は必ずはびこる」。同じ悲劇を繰り返さないために、母を失った男は訴え続ける。

2021年７月３日、静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流。災害関連死を含め27人が死亡、いまだ１人の行方がわかっていない（2022年５月20日現在）。今回の土石流について遺族や被災者は違法な盛り土と静岡県・熱海市による行政対応の失敗が招いた“人災”と主張している。８月８日「熱海盛り土流出事故被害者の会」が発足。「責任追及」「原因究明」「再発防止」３つの命題を軸に、土石流の起点・盛り土が造成された土地の新・旧所有者を殺人罪などで刑事告訴した。損害賠償を求めた民事訴訟も起こし、2022年５月18日には第１回公判も始まっている。

被害者の会の会長として先頭に立つのは土石流で母・陽子さん（77）を亡くした瀬下雄史さん（53）。「同じ悲劇を二度と繰り返さない」という使命感のもとメディアの前に立ち続け、悲しみを抱えた遺族に寄り添うことはもちろん、業者・行政の問題点を指摘し、地元住民は何をすべきだったのか問い続けている。どんな場所でも表情を変えない瀬下会長。一見、強く見えるが、あの日、遺体安置所で対面した母親の姿が今もなお頭から離れない。病気を抱えていた父も、母のあとを追うようにしてこの世を去った。相次ぐ家族の死に直面し、もがき苦しんでいた。

瀬下会長は言う。「無能な行政とおとなしい住民がセットになると必ず悪徳業者がはびこる」と。自分の身の回りに危険な盛り土はないか、今一度考えてほしい。隣近所で話し合い、必要であればハザードマップを確認してほしい。そして行政関係者には、悪徳業者と対峙（たいじ）して被害を未然に防ぐ努力を怠らないでほしい。そう願い活動を続けている。何よりの支えは、妻と娘だった。母を守れなかった分、妻と娘は必ず守る、そう自分に言い聞かせていた。

土石流の責任を追及する被害者の会
左から）加藤博太郎弁護士、母・陽子さん（77）を亡くした瀬下雄史会長（53）、娘・友紀さん（44）を亡くした小磯洋子さん（72）、瀬下幸史さん（46）（瀬下会長の弟）

土石流で妻・路子さん（70）を亡くした田中公一さん（72）。妻との思い出をたどる。

番組では瀬下会長のほか、最愛の妻を失いながら必死に前を向き生きようとする男性、10年以上前に造成された盛り土の存在をなぜ大半の住民は知らなかったのか、幼い孫を残して逝った娘の死に報いるため、声をあげ続ける女性を通して、遺族・支える家族の思いに迫る。

あなたはなぜ、命を落とさなければならなかったのか。どうしたら、土石流を止めることができたのか。
あなたが愛した街を再び愛せる日が来るのか。真の復旧・復興とは何なのか。問い続ける日々が続く。

ディレクター・福島流星（テレビ静岡報道部） コメント

「住宅を破壊しながらすさまじい勢いで流れ下る土石流。そこには信じられない光景が広がっていました。自宅が流され、妻と、妹と、連絡がとれない男性。命からがら救助された男性。遺族を、被災者を取材するにつれ聞こえてきたのは“違法な盛り土”の存在を指摘する声でした。これは自然災害ではないのか？異例の展開でした。“必ず追及して下さい”その声が私を突き動かしています。
主人公の瀬下雄史さんは、母を亡くした遺族として、被害者の会・会長として違法な盛り土と戦うと決意しました。常に冷静な瀬下さんですが、娘を愛する“父親の顔”を見た時、どこにでもある家庭を突然悲劇が襲ったんだと実感しました。問題のある盛り土は全国で1000カ所を超えます。皆さんの近くにも危険な盛り土があるかもしれない、自分も土石流に巻き込まれるかもしれない、そう感じてほしいと、この番組を制作しました。遺族の痛みが続く限り、取材を続けていく覚悟です」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『母と妻と娘と－あなたが愛した伊豆山－』（制作：テレビ静岡）

≪放送日時≫

７月22日（金） 27時25分～28時25分

≪スタッフ≫

ナレーション：山本圭一郎（青二プロダクション）
撮影：川船昌雄（テレビ静岡）
　　　山内章仁（富士テレネット）
　　　小澤裕将（富士テレネット）
編集：高松大介（富士テレネット）
効果：松阪史高（富士テレネット）
デザイン：大村風薫（富士テレネット）
ディレクター：福島流星、落合健悟（テレビ静岡報道部）
構成：橋本真理子（テレビ静岡報道部）
プロデューサー：橋本真理子（テレビ静岡報道部）

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