『半歩でも前へ 信じて伝える ~津波を知らない子どもたちへ~』

2022.07.01更新

その他

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:岩手めんこいテレビ)

金野美惠子校長

『半歩でも前へ 信じて伝える ~津波を知らない子どもたちへ~』

7月8日(金) 27時35分~28時35分

津波を知らない児童へ伝える震災教育

東日本大震災で7人の児童が犠牲となった岩手県陸前高田市立高田小学校。学校では、つらい記憶を呼び起こさないよう、これまで震災当時の状況を伝える教育を避けてきた。今では児童や教職員のほとんどがあの日の津波のことを知らない。こうした中、2020年に母校へと転勤してきたのが津波で両親を亡くした金野美惠子校長だ。金野校長は自身の定年が迫る中で大きな決断をする。「被災地に生まれた子どもたちが何も知らないまま過ごしていいのか、被災した者だからこそ私がやるしかない」と、震災と向き合う教育への転換を図ったのだ。

震災から11年経った今だからこそ伝えるあの日 命と向き合った児童たちの1年

教育の転換を図った最初の年。震災当時赤ちゃんだった4年生は、長男を津波で亡くした女性の話を聞いたり、避難の大切さを伝える絵本を朗読したりして感じたことを授業参観で発表した。一方、親たちも、思い出すとつらくなるため、子どもたちに震災当時のことを伝えられないできた。しかし発表を聞いて、改めて子どもたちへ伝えていかなければならないと思いを新たにした。
2年目の2021年。震災直後の2011年度に生まれた4年生の児童たちは、地域の人たちから津波の教訓や街づくりにかける思いなどを聞き、逃げることの大切さ、そして地域の人たちの思いに支えられて自分たちが生きていることを学んだ。

震災遺構に登る児童

児童たちは、地域の役に立ちたいと、視覚的に避難経路を分かりやすく示した「逃げ地図」を作ることにした。自分たちだけではなく、お年寄りや足の不自由な人など、それぞれの立場を想定して避難にかかる時間や経路を自分たちの足で歩き、まとめあげ、保護者の前で発表した。地域のことを考えられるようになった子どもたちの成長した姿に保護者たちは目を細める。 

避難地図を学習する児童

この児童たちの成長は、金野校長が期待していたある理論に基づくものだった。つらいことを乗り越えて成長するPTG心的外傷後成長という考え方だ。自分を責め続けたりトラウマに対して強い拒否反応をし続けていたりすると、PTSD心的外傷後ストレス障害になるが、感謝の気持ちを持てば「人の役に立ちたい」など主体的な気持ちが生まれ、成長につながるという。
震災から11年となる2022年3月11日を迎えた。金野校長は、児童たちにあの日のことを伝えた。児童たちは金野校長の一言一言を精一杯受け止めていた。
「半歩でも前へ」と進めてきた震災教育で多くのことを学んだ児童たちは、半歩どころか確かな一歩を踏み出していた。

【コメント】
ディレクター・井上智晶(岩手めんこいテレビ 報道部)

「東日本大震災で陸前高田市ではおよそ1800人が犠牲となりました。岩手県では最も被害が大きかった場所です。高田小学校では、7人の児童のほか、保護者も60人近くが亡くなり、ほとんどの児童が知り合いや家族を亡くしていました。だからこそ児童の心の傷は深く、高田小学校では、つらい記憶を呼び起こすような当時のことを伝える授業はできませんでした。しかし、今後、大きな地震が起きる可能性もあることから、防災教育・震災を学ぶ教育は絶対に必要なものです。こうした中で、金野美惠子校長が決断した震災教育は、今後の教育現場の大きなヒントになるかもしれないと思いました。震災と向き合いながら成長するPTG心的外傷後成長という考え方を取り入れた授業のなかで、感謝や人のために役立ちたいという思いが、津波の怖さと向き合う強さ、命を守る行動につながっていることを児童の成長から伺えました。多くの人にこの学習の意義が伝わればと思います」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『半歩でも前へ 信じて伝える ~津波を知らない子どもたちへ~』(制作:岩手めんこいテレビ)
≪放送日時≫
7月8日(金) 27時35分~28時35分
≪スタッフ≫
プロデューサー:櫻 克宏(岩手めんこいテレビ 報道部)
ディレクター・構成・ナレーション:井上智晶(岩手めんこいテレビ 報道部)
撮影:舟野洋平(岩手めんこいテレビ 大船渡支局)
編集:今野賢也(岩手めんこいテレビ 報道部)

制作著作 岩手めんこいテレビ

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。