『自助の国に生きる ~ヤングケアラー、その先に~』

2022.06.17更新

その他

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:北海道文化放送) 

介護する佐藤謙太郎さんと母親の仁美さん

『自助の国に生きる ~ヤングケアラー、その先に~』

6月24日(金) 26時55分~27時55分

孤立を超えて ヤングケアラー支援の輪

家族などを介護する子どもたち、ヤングケアラー。その実態は過酷だ。学校にいても祖母から助けを求める電話がくる、夜中も母親の介助をする…。介護一色の暮らしは学業や人間関係に影響を与える。
北海道の福祉関係者には専門領域ではないヤングケアラーの問題にも積極的に関わっていこうとする動きがある。
子どもたちの将来のために”境界”を乗り越えていく取り組みを見つめる。

とぼしい公助…ヤングケアラー支援の鍵は「つなぐ力」 地域で生きるために

介護する佐藤謙太郎さんと母親の仁美さん

北海道帯広市の佐藤謙太郎さんは、17歳の時から難病の母親・仁美さんの介護を続けている。仁美さんは徐々に筋肉が動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されていて、トイレへの移動やベッドに移動する際などには謙太郎さんが頼りだ。
特にヘルパーがいない夜から朝にかけては仁美さんが痛みを訴えるたびに駆けつけて介助をする。ただ、うまく症状や思いを伝えられない時もあり、謙太郎さんがいら立ちを隠せない日もある。
市営住宅の一室で暮らす二人。もともと人間関係が苦手な謙太郎さんと、病気で外出できない仁美さん。周囲との関係は次第に希薄になり、孤立を深めていった。
そんな親子のために動いたのが、仁美さんの介護プランを作るケアマネージャーらだ。
自治会の役員や市営住宅の住民、市の職員、民生委員などを一同に集めて会議を開き、地域で見守っていくことを決めた。
コロナ禍のため、親子はオンラインで参加。「謙太郎君、顔を見せて」。気さくに呼びかけてくれた住民の前ではにかんだ笑顔を見せる謙太郎さん。「自分たちを知ってもらってうれしかった」という。

左から)病院から帰る雫さん(仮名)と祖母の敬子さん(仮名)

旭川市の女子高校生、雫さん(仮名)は祖母・敬子さん(仮名)の介護を続けている。祖母は背中と腰に強い痛みがあり、時に動けなくなることも。学校から帰ると食事づくりやトイレの介助、入浴のサポートをする。祖母は痛みが激しくなると、学校にいる雫さんに電話をかけてくる。「早く帰ってきて」。電話を受けると雫さんは帰宅し、祖母と病院に行って痛みを和らげる注射を打ってもらうのだ。

調理をする雫さん(仮名)

小学生の時に母親から虐待を受け、祖母の家へ。介護の生活は中学生から始まった。
多忙ななかで宿題ができず、病院の付き添いのために学校に遅刻することもある。しかし、中学校の教師からは心無い対応をされたという。「介護は関係ないです」。
そうしたなかで、雫さんの家庭に介入したのは本来高齢者支援を専門にする「包括支援センター」の職員だ。祖母から介護保険サービスの利用希望があったために家庭を訪問。その際に雫さんが介護を一手に引き受けていることや生活が困窮していることを把握した。
その後、学校や児童相談所などのほか、市の生活保護担当などを集めて会議を開き、それぞれの立場から家庭に関わっていくことを決めた。
自助を強調される国で、子どもたちを救うためにどうするのか。地域の共助を活用し、公助をつないでいく取り組みが求められる。

【コメント】
プロデューサー・涌井寛之(北海道文化放送 報道情報部)

「病院の待合にいる女子高校生の疲れ切った様子、母親の思いが理解できずいら立つ少年。ヤングケアラーの子どもたちは、ふとした時に大人のような表情を見せました。大人が担うべき重い責任を担っていることが伝わってきました。一方、ヤングケアラーを“同情すべきもの”とする考え方には疑問もあります。取材に答えてくれた雫さんは祖母の介護の経験を活かして介護士を目指したいと話してくれました。また、ヤングケアラーの概念はあいまいで、介入が必要かどうかは難しい面があります。番組で取材した包括支援センターやケアマネージャーの担当者は子どもの思いを丁寧に聞き取りながら、家庭を地域や他機関へとつなげていました。“介護は家族で担うべき”という“自助”の考えが根強いなか、公助・共助をどのように広げていくべきか。そうしたことを考えていただくきっかけになればと願います」

【番組概要】

第31回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『自助の国に生きる ~ヤングケアラー、その先に~』(制作:北海道文化放送)
≪放送日時≫
6月24日(金) 26時55分~27時55分
≪スタッフ≫
プロデューサー・構成:涌井寛之(北海道文化放送)
ディレクター:長岡伶奈
カメラマン:近藤広伸(ノーステレビスタッフ)
編集:宮本雄太(オーテック)
音効:早川歩希
MAミキサー:鳥羽隼輔(TSP)

制作著作 北海道文化放送

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。