『忘れてはいけないこと~認知症受刑者が問いかけるもの~』

2021.09.23更新

その他

第30回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:OHK岡山放送)

刑務作業場の工場へ向かう高齢受刑者の列

『忘れてはいけないこと~認知症受刑者が問いかけるもの~』

9月30日(木)26時05分~27時

認知症介護の中で問われる贖罪(しょくざい)と更生

受刑者を収容し、刑を執行する刑務所。罪を犯した人間を更生させ、社会復帰させることを目的とする施設だ。しかし、その目的や存在意義が受刑者の認知症によって揺らいでいる。犯した罪を覚えていない受刑者にどう罪を償わせるのか。認知症介護の中で社会復帰に向けて何をさせなければならないのか。この現状に刑務所はどう向き合い、犯罪被害者遺族らはどう感じているのか。受刑者の高齢化が加速し、認知症という新たな課題を抱える刑務所の今を考える。

認知症介護の中で問われる贖罪(しょくざい)と更生 存在意義が揺らぐ刑務所の今を見つめる

刑期10年以上の受刑者400人余りを収容する岡山刑務所。半数以上が無期懲役の受刑者だ。殺人、死体遺棄、強盗殺人など、生命犯が大半を占める。塀の中では4人に1人以上が65歳以上の高齢者で、高齢化が年々深刻になっている。

高齢化に対応するため去年11月に養護工場を整備した。介助などが必要な高齢受刑者を集め、フルーツの保護ネット作りなど簡単な刑務作業が行われていた。しかし、途中で作業が分からなくなってしまう受刑者もいた。認知症の診断は出ていないが、物忘れの多い認知症予備軍の受刑者だという。矯正教育の一環で、介助は受刑者が行う。いわゆる“受受介護”である。トイレの介助を受刑者が2人がかりで行っている。まさに受刑者の高齢化を象徴している場面だ。

その中で特に深刻な問題になっているのが受刑者の認知症だ。法務省が2015年に全国で行った認知症を調べる簡易検査では、60歳以上の受刑者のうち、認知症傾向のある受刑者は約14パーセント、全国に約1300人いると推計されている。岡山刑務所には予備軍を含め認知症受刑者が約20人いるという。

岡山刑務所の80代前半の受刑者は数年前に認知症と診断された。殺人などの罪で無期懲役。刑務所内での点呼では、自分の番号が分からないと刑務官に告げる。私たちのインタビューにも応じたが、年齢が分からないだけでなく、自分がなぜ刑務所にいるのか思い出せない。刑務作業は養護工場ではなく病棟の自分の部屋で行っている。作業内容は紙を三角に折るというもの。社会復帰のための刑務作業だが、紙を三角に折ることがどれだけ更生につながるのだろうか。また認知症の進行を遅らせるため、非常勤の介護福祉士が訪れ、足腰を使った運動を指導したり、テレビを見せて脳に刺激を与えたりするなどの活動が行われている。その光景はまるで介護施設だ。

岡山刑務所最高齢の93歳の受刑者へのインタビュー
左)ディレクター・岸下恵介

刑務所の本来の目的は受刑者に罪を償わせ、社会復帰させること。しかし、認知症受刑者に対しては、認知症をケアしつつ、適切な介護を行い、同時に贖罪(しょくざい)と更生をさせなければならない。この状況について、岡山刑務所の所長は「対応に苦慮しているのが本音。刑を執行しつつ、憲法に基づいてどんな立場の人にでも最低限度保障されていることは守っていかなければならない」と説明する。

認知症の受刑者への対応について、様々な角度から意見を聞いた。刑務所で受刑者の贖罪(しょくざい)指導を行っている外部講師は「認知症になるということは人間の尊厳、人としての価値観がその人の中からこぼれていってしまっている状態。そういう人に罪の意識を負わせることはしづらいと感じる。非常に難しいテーマだ」と問題提起する。約10年前に最愛の娘を殺害された犯罪被害者遺族は「刑務所内での処遇が甘すぎるから認知症になるのだと思う。ぼけている暇がないくらい働かせて汗を流させて本当に自分がやってきたことに向き合うようなことをやらない限り、認知症の受刑者は増えるのではないか」と刑務所の受刑者への処遇に問題があるのではないかと話す。

刑務所の受刑者への処遇に憤りを感じると話す犯罪被害者遺族の加藤裕司さん。加藤さんは約10年前に最愛の娘を失った

また、これまで約50人の受刑者を介護してきた介護福祉士は「要介護の受刑者が3人生きていくためには税金が2000万円以上かかる。そういった受刑者は仮釈放で出して生活保護を受給してもらえば良いのだが、受け入れ先がない」と税金の問題と刑務所での長期収容に苦言を呈する。

国はどう考えているのか。法務省は「高齢化への対応で税金が増えてしまうことは仕方ない。認知症受刑者については個人差があるので、タイミングよく自分のしたことについて反省させる。それを粘り強くやっていく」と回答。果たして根本的な問題の解決につながるのだろうか。

刑務所が社会の安心安全のためにあるとしたら、塀の中の介護は私たち国民の問題でもある。刑務所はどうあるべきかを番組を通して考える。

ディレクター・語り:岸下恵介(OHK岡山放送 コンテンツ局コンテンツ推進部アナウンス室)コメント

「岡山放送では2005年に岡山刑務所の受刑者の過剰収容問題や、刑務官不足問題を取り上げた。2017年に受刑者の高齢化を取材するなど、メディアとして地域の刑務所の継続取材を続けてきた。番組で登場する介護福祉士の小野さんは、岡山放送のニュース特集を見て岡山刑務所の現状を知り、応募して刑務所で働き始めたという経緯がある。私は去年11月に高齢化への対応として養護工場が整備されるということで取材を始めた。高齢化は以前、我々が取り上げた時よりも深刻化し、想像をはるかに超えていた。その中で特に問題だと感じたのは受刑者の認知症だ。罪を償わせ、社会復帰させることを目的とする刑務所で、自分がなぜここにいるのか分からない受刑者がいることに驚いた。刑務所、犯罪被害者遺族、社会復帰を支える更生保護施設、介護福祉士、法務省…。それぞれがこの現状をどう見ているのか。刑務所運営はこのままでいいのか。番組を通じて皆さんと一緒に考えたい」

【番組概要】

第30回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『忘れてはいけないこと~認知症受刑者が問いかけるもの~』(制作:OHK岡山放送)
<放送日時>
9月30日(木)26時05分~27時
<スタッフ>
プロデューサー:太田和樹(OHK岡山放送)
アシスタントプロデューサー:早川祐貴(OHK岡山放送)
ディレクター・語り:岸下恵介(OHK岡山放送)
構成:梅沢浩一
撮影・編集:高原信仁(OHKエンタープライズ)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。