『妻を迎えに ~女川の海に潜り続けて~』

2021.06.23更新

その他

第30回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:仙台放送)

妻の行方を探す高松康雄さん

『妻を迎えに ~女川の海に潜り続けて~』

6月30日(水)26時50分~27時45分

津波に流された妻を捜し、海に潜り続ける夫

2011年に発生した東日本大震災。今なお全国で2526人が行方不明となっている(警察庁まとめ2021年3月10日時点)。宮城県女川町の高松康雄さん(64歳)は、津波に巻き込まれ行方不明となった妻・祐子さんを捜すため、自ら潜水士の資格をとった。地震発生直後、祐子さんが高松さんに送っていた「帰りたい」というメール。今日こそ連れて帰ろうと、高松さんは海に潜り捜し続ける。

妻の残した「帰りたい」のメッセージ。海に潜り、捜し続ける夫の思い

宮城県女川町。2011年3月発生の東日本大震災では、615人が死亡、257人が行方不明となった。この町に住む高松康雄さんは、津波に巻き込まれ行方不明となった妻の祐子さん(当時47歳)を捜すため、潜水士の資格を取り、毎週海に潜り続けている。海上保安庁に頼るばかりでなく、自ら潜るきっかけとなったもの。それは震災から1カ月後に見つかった祐子さんの携帯電話だ。勤務先の屋上に避難していた祐子さんは、津波が押し寄せる中、高松さんにメールを送っていた。
「大丈夫?帰りたい」。
この言葉が、海に潜ることを強く推した。

潜水の準備をする高松康雄さん

初めて潜ったのは2013年。実際に潜り始めると、1度の捜索で潜れるのは20~30分程度。体への影響を考えると、1日に潜れるのは2回まで。限られた時間の中で、祐子さんの手がかりを見つけることは容易ではなかった。女川で行方不明者捜索の潜水をしていた人たちのチームに加わり、一緒に様々な場所の捜索を続けてきた。最近では、祐子さんと同じ場所から流された行方不明者が見つかったポイントを重点的に捜索している。そこは町の中心部から約4キロも離れていた。
津波工学を研究する中央大学の有川太郎教授は実験結果をもとに、「リアス式海岸に立地する女川町の地形では、津波の引き波で、より遠くの沖合まで流されてしまう」と指摘する。震災の行方不明者の約85%は、リアス式海岸が発達した三陸沿岸部で生活していた人たち。想像以上に遠いところに流されているのかもしれない。
高松さんが祐子さんにつながるものを見つけられずにいる中、宮城県内では、身元不明のご遺体の身元が分かり、親族のもとに返されるケースが続いた。身元不明のままのご遺体は現在6体。宮城県警の「身元不明・行方不明者捜査班」の菅原信一検視官は、「最後の1体までお返ししたいという気持ちに変わりはない」と捜査を継続する。

孫と過ごす高松康雄さん

一方、仙台市内の墓苑では、市内の住職が有志で身元不明の遺骨の供養を続けてきた。県内にはこうした遺骨が75柱確認されていて、各自治体で保管を続けている。時間の経過とともに身元の判明が難しくなる中、行方不明だった娘の遺骨が帰ってきた遺族もいる。亘理町(わたりちょう)の大久保三夫さん(68歳)と恵子さん(63歳)夫妻は、津波で娘の真希さん(当時27歳)が行方不明となっていた。2019年10月、隣町で漁船の網から「人の下あごの骨」が見つかり、DNA鑑定の結果、真希さんと判明した。8年7カ月が経っていた。遺骨が戻ることは、その人の死と向き合うことでもあったが、三夫さんは「本当にうれしい。遺骨の一部でも“帰ってきてくれた”という気持ちが湧いてきて、月日とともに楽になった」と話す。中村瑞貴住職は「骨を拾うことは日本人の死生観につながっている」と話す。

2021年3月11日、東日本大震災から10年が経った。
高松さんは、祐子さんと同じ職場で犠牲となった人たちの遺族とともに、海上で花を手向けた。「どこにいるの」。そう、声をかけた。外出していても、ふと海を見ると「このどこかにいるのだろう」という気持ちになる。今年で65歳。海に潜った回数は500回に迫ろうとしている。「迎えにいく、会いにいくという気持ちは変わらない。後は体力がどこまで持つか」高松さんは海に潜り続ける。

ディレクター・大山琢也(仙台放送 報道部)コメント

「東日本大震災から10年が経過しました。3月11日に向けて県内を取材する中で、私は改めて“2526人”という行方不明者の数について考えていました。そんな時、高松さんの行方不明者捜索に立ち会わせていただき、船の上から海に潜っていく様子を見た瞬間、本当に胸が打たれる思いだったことを今でも覚えています。“遺骨の一部でも連れて帰りたい”と話し、毎週海に潜り続ける強い思いをぜひ伝えたいと思いました。被災地では、復興工事が進み、キレイな街並みができ始めています。気持ちを前に向け、強く生きている方々もいます。しかし、“2526人”もの方々が見つかっていないという事実。その人の帰りを待ち続ける家族がいるということも被災地の現実です。全国的に南海トラフ巨大地震の危険性が叫ばれる中、改めて東日本大震災と、“2526人”の行方不明者について考えるきっかけにしていただければと思います」

【番組概要】

第30回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『妻を迎えに ~女川の海に潜り続けて~』(制作:仙台放送)
<放送日時>
2021年6月30日(水)26時50分~27時45分
<スタッフ>
ナレーション:野田圭一(青二プロダクション)
プロデューサー:菊地章博
撮影:佐藤 佑(東北共立)
編集:上池隆宏(東北共立)
CG:清野雅敏(仙台放送エンタープライズ) 
   菊地渉(仙台放送エンタープライズ) 
タイトル:小野寺貴文(仙台放送エンタープライズ)
MA:市原貴文(ヴァルス)
音効:角 千明(ヴァルス)
ディレクター・構成:大山琢也

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。