2021.05.25更新
その他
亡くなった高畑瑠美さん(当時36歳)
6月2日(水)26時50分~27時45分
なぜ警察は救ってくれなかったのか。なぜ警察は過ちを認めないのか。
2019年10月、福岡・太宰府市で起きた暴行死事件。佐賀県基山町の主婦・高畑瑠美(こうはたるみ)さん(当時36歳)が知人の男女2人に監禁された上、1カ月間にわたり激しい暴行を受けて亡くなった。
なぜ普通の主婦があまりにも無残な死を遂げたのか―。
1年半に及ぶ調査報道で明らかになったのは、事件前に11回も相談されながら、まともに耳を傾けなかった佐賀県警の怠慢だった。
山本美幸被告(当時40歳)、岸颯(つばさ)被告(当時24歳)
2019年10月20日早朝。福岡県太宰府市にあるインターネットカフェの駐車場で、佐賀県基山町の主婦・高畑瑠美さんの遺体が見つかった。傷害致死などの罪で起訴されたのは、瑠美さんの知人だった山本美幸被告(当時40歳)と、その交際相手の岸颯(つばさ)被告(当時24歳)。一審判決によると2人は、瑠美さんを1カ月近く監禁し、木刀やバタフライナイフなどを使って虐待行為を繰り返し、その末に瑠美さんは外傷性ショックで亡くなってしまう。なぜ家族思いだった普通の主婦が、あまりにむごい死を遂げることになったのか―。
家族が瑠美さんの異変に気が付いたのは、事件の3カ月前の2019年7月。
瑠美さんが仕事を2カ月以上無断欠勤していること、交通事故を偽装して家族から400万円近くの金をだまし取っていたことがわかったのだ。その背後に山本被告がいることに気が付いた家族は、佐賀県警鳥栖(とす)警察署にかけ込み「瑠美が洗脳されている」「山本被告を引き離してほしい」と何度も訴えた。しかし、警察は証拠がないことを理由に動かなかった。
状況は加速度的に悪化していく。瑠美さんは夫や子供を残して被告らの家で同居生活を始めるなど、完全に取り込まれてしまった。そして、山本被告はさらに金を搾り取ろうと、夫の裕さんに「瑠美の借金を返せ」と毎日のように脅迫電話をかけた。
高畑瑠美さんの夫・裕(ゆたか)さん
「この状況をなんとかしてほしい」。
瑠美さんが亡くなる1カ月前の2019年9月25日、暴力団を名乗る男にも脅された家族は、脅迫電話を録音し被害届を出したいと鳥栖警察署を訪ねた。しかし、対応したA巡査の対応は予想もしないものだった。
(遺族が録音した音声より)
A巡査「自分は5分間くらいしか聞いてないんですけど、今のところ脅迫だと断定はできない」
遺族側「一般人が言うのと反社会的勢力が言うのでは意味が違うでしょ」
A巡査「暴力団関係者だというのは、自分でもできる話」
遺族側「なんで被害届を受理せんと?」
A巡査「どうしようもない状況って感じではないので…」
鳥栖警察署は3時間ある録音をわずか5分しか聞かず、被害届の受理を断ったのだ。相談回数はあわせて11回。家族のSOSもむなしく、瑠美さんはこの1カ月後に無残な死を遂げた。
県議会で答弁する佐賀県警・杉内由美子本部長
主張と矛盾する内部資料
「あのとき佐賀県警が動いていたら命は救えたのではないか」。
質問状を提出した遺族に対して、佐賀県警の幹部2人は「対応した警察官の知識が不足していて、他の職員とも連携が取れていなかった」などと謝罪した。…しかしこの時、遺族の戦いはまだ始まってすらいなかった。テレビ西日本がこの問題を報じると、佐賀県警は「内部調査の結果、対応に問題はなかった」と主張を一変させたのだ。次々に明らかになる県警の主張を覆す内部資料や音声データ。それでも絶対に対応の不備を認めようとしない県警。警察は誰のためにあるのか。その存在意義を問う遺族の戦いを追いかけた。
「取材当初の目的は“何度も相談を受けながら事件を防げなかった佐賀県警の怠慢を明らかにすること”でした。しかし追及を続けるうちに、この問題の本質は“県警が無謬(むびゅう)主義に陥っていること”だと気が付きました。“無謬”とは“判断が間違っていない”という意味、言い換えれば“1度出した結論は絶対に正しく、それ以降は何があっても過ちを認めない”ということです。県警は、録音音声や内部資料などを用いて対応の問題点を指摘されても“問題はなかった”という結論に沿うように過去の発言の解釈を変えたほか、県議会の場でも質問とは無関係な答弁を繰り返すなど、この問題に真摯に向き合うことを避け続けました。“瑠美の死をせめて教訓にしてほしい”という遺族の願いが、せめて現場の警察官一人一人の良心に届いて欲しい。そして市民が警察官に期待している役割について見つめ直して欲しい。そう願いながら制作しました」
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