2020.11.18更新
その他
町民を交えて立ち上げた検討議会の様子
12月11日(金)27時55分~28時50分 ※日本シリーズ延長のため、放送日時が変更になりました
農業を主な産業とした人口約2万1000人の山形県庄内町。
2018年の町議会議員選挙で、16人の定数に対し15人しか立候補せず、定数割れに陥ってしまった。
なぜ議員のなり手不足が起きてしまったのか。
少子高齢化、人口減少、政治への関心の薄れ、議員報酬の低さなど様々な要因がある中、議員と町民が一緒になって、なり手不足解消のための検討が行われた。そして出された結論は…。
多くの地方が抱える問題点と、その解決策を模索する人々の姿を追う。
山形県庄内町。
「え、聞いたことない?」「庄内平野って習わなかった?」。
人口約2万1000人、コメどころ、風が強い、霊峰月山の頂がある、そんなイメージ。住む人々はキツい“庄内弁”を話すけれど、みんな情に厚くて優しく、山形県内を騒がせる出来事なんてめったに起こらない。そんな素敵な町。
でも2018年6月、久しぶりに庄内町が県内のマスコミをにぎわせた。
「庄内町議会議員選挙 定数割れに 県内選挙では平成以降初」。
町は騒ぎになったが、一番騒がしかったのは当の「議員」たちだ。なぜなら彼らには「戦う議会」としてのプライドがあったからだ。
庄内町議会は2005年の合併以降、議会改革で全国的に知られる存在になっていた。議会の視察も相次ぎ、鼻も高々。さらに改革、“これもやろう”“あれもやってしまおう”“全ては町民のため。ネットで配信されている議会中継を一度見てほしい”。町の執行部とも丁々発止、おかしなことは絶対に許さない。これぞ「二元代表制の自負」、なかなかの気概と迫力をもった議員たちなのである。どこぞやの議会のように本会議中に「鼻ちょうちん」などを見せつける議員などひとりもいない。
こうした中で起きた突然の「定数割れ=なり手不足」に議員たちは本気で頭を悩ませた。そこで考えたのが、町民代表6人を交えた全国的にも珍しい「検討会議」の立ち上げである。別に議員たちが解決策を出すことを放棄したわけではない。本当に理由が分からなかったのだ。でも理由はすぐに分かることになる。町民代表の委員から「忌憚(きたん)」ない意見が相次いだからだ。ああ、耳が痛い。大好きな人のために色々としてあげていたことが、実はさほど感じ取ってもらっていなかったような、あれだ。つまり議員たちが思うほど、町民とは「相思相愛」でもなかったということだ。
最後にまとめた報告書
検討会議が結論を導き出す9カ月間、議員と町民は“生の議論”を続けた。そこに1人、庄内町議会の最古参議員・小野一晴(おの・かずはる)さんの姿があった。農家と議員のかけもちで22年間働いてきた男性だ。議員のなり手不足はいま全国的な問題となっているが、特に深刻な町村議員では非常に多い「兼業スタイル」でもある。
この男性を含め庄内町議会の議員たちはとにかくよく働く。しかし現実は「働けど働けど」の状態なのである。一番は報酬の問題。庄内町議会は山形県内35市町村で最も議員報酬が少ないとして知られている。じゃあ上げればいいじゃないか。そんな簡単にはいかないのだ。地方財政が厳しさを増す中で、簡単に上げてくださいと言えないのも「町民のため」なのである。全てが町民のために良かれと思ってやってきたことが「否定」されようとしている。議員たちはその葛藤の中で、様々な模索をしていくことにある。
庄内町議会の最古参議員
小野一晴
町村議員のなり手不足が広がりを見せる中で議員の高齢化も間違いなく進んでいる。若い世代や女性のなり手をいかに増やしていけるかが大きな課題となっている。
始めに言っておこう。解決策はひとつではない。庄内町議会の検討会議が今回出した結論も、「これで大団円」と言える“幸せな結末”かと言えばいささか疑問は残る。ただし今回の取り組みを一つの契機に、住民理解の醸成や若者・子育て世代のやる気につなげていけるのならばこれで一定の成功と言えるのかもしれない。主人公である最古参のベテラン議員の働く姿や葛藤から何かを感じ取ってもらえれば幸いであるし、「いや、そうじゃないでしょ!こうした方が良い」と自分なりに反ばくしてもらえれば、なおさら作り手としては幸いなのである。
都市部から見れば山形の小さな町の出来事かもしれないが、実は地方が抱える多くの問題をはらんでいるのだ。また報酬と仕事量のバランスは一般企業の中でも課題になる出来事でもある。
“せんせい”目指しませんか?
この問いかけにどう応えるのか、私たちもいま問われている。
「“会議は踊る、されど進まず”。10回に渡った検討会議のおおまかな印象です。何度古びた議場の天井を見上げながら、“大丈夫かなあ”と思ったか分かりません。しかしそれもこの問題の根深さ難しさと思い、非常に真面目な議員や町民なのでなんとか解決にまで持っていけると途中からは感じるようになりました。思い描く結論に達しないのも、ドキュメンタリーのひとつの側面です。
会議が出した結論は十分なものでもありませんし、果たして解決策になるのか不安も残ります。また仮に全て実行すれば、その負担は再び大きくなることでしょう。ただ33ページという厚みのある報告書は、この問題の根深さと解決の難しさをそのまま表現していると感じています。今回出した結論をどうしていくか、決めるのは議員たち本人です。その正しさは来年行われる予定の補欠選挙、再来年の本選挙で自らが証明してくれるはずです。期待を込めて今後も取材を進めていきたいと思います」
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