『国に抗った男 ~ヤミ米屋 川崎磯信~』

2020.08.12更新

その他

第29回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:富山テレビ放送)

こだわりのトマトを収穫する川崎

『国に抗った男 ~ヤミ米屋 川崎磯信~』

8月19日(水)26時50分~27時45分

ヤミ米を公然と売りさばき、国を挑発

富山県の農家・川崎磯信(84)は、今から約30年前、コメの流通を国が管理していた時代に、法律違反のヤミ米を公然と販売し、自分を告発するよう証拠書類を携えて国に直訴するなどの異例の行動をとった。一農家だった彼がなぜこのような行動をとるに至ったのか。背景を追うとともに、84歳になった今でも生きがいとして農業を続ける川崎の「食べる物への信念」を伝える。

国との闘いに込めた思い 「ヤミ米騒動」から30年たった今、農業は…

東京へ遠征し、ヤミ米販売

平成のはじめの「ヤミ米」騒動。
コメの流通を政府が管理すると法律で定められていた時代に、川崎磯信(84)は、公然と法律違反の「ヤミ米」を売り、「オラを告発しろ!」と国に迫った。なぜ「ヤミ米」で消費者から支持を得ながら、霞が関に乗り込んでまで自らの告発を求めたのか…。当時のニュースのインタビューで川崎は「農政の実態をさらすため」と言っているが、規制緩和が狙いなのか、マスコミに注目されて自らの商売をPRすることを実は狙っていたのか、本当のところはよく分からない。川崎がかつてヤミ米を販売していた店舗で、いまも週に1度だけコメ屋を開いていると聞き、取材を始めることにした。

川崎は、1936年に富山県・婦負郡古里村に農家の長男として生まれ、1歳のときに戦争で父をなくし、実の母とはすぐに引き離されるという、不遇な幼少期を過ごす。そこで川崎の母代わりとなったのが、農業一筋に生き、息子を替わり戦争にとられたという経験から役人に対し強い不信感を持っていた祖母だった。川崎は祖母からコメづくりを徹底的に教えこまれ、祖母の気質を色濃く受け継ぐことになる。戦後間もない食糧難の時代、多くのコメを実らせる農民は、周囲から尊敬された。川崎もいかに収穫量をあげるか、栽培方法の試行錯誤に明け暮れた。川崎は村の農民グループのリーダーを務めるなど、村きっての篤農家(とくのうか)として青年期を過ごす。
しかし、川崎のコメ作りへの情熱とは裏腹に、主食としてのコメをめぐる環境は変化し始める。余剰小麦の処理が問題となっていたアメリカとの間で、1954年から3年連続で協定が交わされ、アメリカで余っていた大量の小麦を買うことになる。また、同時にアメリカの小麦を利用したパン食の学校給食や、キッチンカーと呼ばれるバスの巡回による小麦の料理を推奨する料理講習会が始まる。
小麦の消費量が増える一方、コメの消費は1963年をピークに減少に転じる。しかし、埋め立てによる新田開発や農家の努力もあって収穫量は増え続けたため、コメ余りが深刻化する。そこで、国が打ち出したのが減反政策。コメ農家にコメを作るなと命じた。

ヤミ米でヤミ酒をつくり、捜査に来た国税局の担当官ともみ合いに

川崎も当初はしぶしぶ減反に従っていたが、見通しもなくコメの作付け面積を減らされ続けることに怒りが爆発。1980年、減反を拒否し、コメを作り始める。すると、当時コメの流通を管理していた食糧庁の検査官は川崎のコメを買い取らなくなった。
川崎は自分で作ったコメや知り合いの農家から買ったコメを政府や指定業者を通さない「ヤミ米」として販売。
国は農家には減反を押し付けておきながらアメリカの小麦を輸入し続け、農家にコメを自由に売る権利すら与えない。農家が虐げられていると考えた川崎は、自らが告発されることによって、一貫性のない農政の実態を法廷の場で明らかにしようと考える。

ヤミ米販売だけに留まらず、ヤミ酒(無許可のどぶろく)の仕込みをマスコミに公開、家宅捜索に来た税務署の担当官にどぶろくをぶちまけた末、酒税法違反、ヤミ米を売った食糧管理法違反で起訴された川崎は法廷に手書きの意見書を携え、農政に対する思いを披露する。裁判ののち、食料管理法はなくなり、川崎が戦っていた食糧庁も2003年になくなる。

息子に引き継いだ田んぼを見つめる川崎

川崎の戦いから約30年たったいま、川崎のコメ屋を訪ねた。50歳以上年下のディレクター(28)を暖かく迎えてくれた川崎は、確かに役人嫌いではあるが、気さくで人と話すのが好きで、何より農業に一途な人物。川崎のように公然とではなかったものの、隠れたヤミ米販売は横行していると言われていたとされるあの時代、あえて国を挑発し、被告人になってまで訴えたかったことは何だったのか。

本人に話を聞くとともに、当時川崎の弁護をした弁護士、川崎のルポルタージュを執筆したフリーライター、川崎が目の敵にしていた食糧事務所の当時の所長への取材を通して明らかにする。また、今も変わらずに農作業に汗を流す川崎は、日本の農業に何を思うのか、農業一筋の男の声に耳を傾ける。

ディレクター・羽根大祐(富山テレビ放送報道制作部)コメント

「“農業はもうかるものじゃない”川崎さんはいつもこう切り出して、自分の手が回る範囲で、1つ1つの作業に手をかけて農作物を育てることが大切だと話していらっしゃいました。農業の大規模化がすすめられる昨今、“もうからなくてもいいから手をかける”という川崎さんの考え方は、本流とは外れた時代錯誤の方法に見えます。しかし、“費用対効果”“農産物の安さ”が重視されるあまり、非効率とされる小規模な農家や手をかける農家がいなくなってもいいのでしょうか。
日本のスーパーマーケットには様々な食べ物が並んでいますが、その多くを輸入に頼っています。農家の高齢化にも歯止めがかかりません。問題の改善には生産者側の工夫や努力だけではなく、消費者である私たち1人1人の意識が変わることも大切だと思います。農家のプライドをかけて国にあらがった男の姿から、何かを感じてもらえれば幸いです」

【番組概要】

第29回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『国に抗った男 ~ヤミ米屋 川崎磯信~』(制作:富山テレビ放送)
<放送日時>
2020年8月19日(水)26時50分~27時45分
<スタッフ>
制作統括:奥田一宏
プロデューサー:四津谷裕昭
ディレクター:羽根大祐
撮影・編集:小島崇義(ジャーナル)
構成:石井 彰(フリー)
ナレーター:深津麻弓
音効:スタジオはい!
美術:右近千代美
CG:大村真博 (xbear)

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。