『テレビで会えない芸人』

2020.07.14更新

その他

第29回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品(制作:KTS鹿児島テレビ)

芸人・松元ヒロ

『テレビで会えない芸人』

7月21日(火)27時05分~28時

芸人とテレビ、見えてきた“モノ言えぬ社会”

密かに注目を集めるお笑い芸人がいる。テレビに出演することはない。
主戦場は舞台、その公演は満員で、チケットは入手困難だ。
芸人の名は…松元ヒロ、鹿児島生まれの66歳。
“政治”や“社会”を“笑い”で斬るその芸はテレビでは会えない…なぜか。
2019年春から1年間、松元ヒロに故郷のカメラが密着した。テレビで会えない芸人から今の世の中をのぞいてみる。
その先には“モノ言えぬ社会”が浮かび上がってきた。

芸人・松元ヒロは権力を“笑い”で斬る。 しかしテレビでは会えない・・・、その先に今の社会が見えてきた。

多くの人々が行き交う東京・渋谷。故郷・鹿児島出身の芸人・松元ヒロ(66)に出会ったのはちょうど1年前、2019年春のことだ。“「政治」や「社会」を笑いにし、密かに人気を集める。ただ、テレビでは会えない”、一体どんな芸人なのか―。
約束の場所に現れた松元ヒロに話を聞こうとすると、いきなり話を遮られた。目の前には点字ブロックを探す目の見えない女性がいるが、誰も見向きもしない。ヒロは女性に近づき優しく声をかけた。松元ヒロとはそういう芸人だった。
 
大学時代にチャップリンの映画を見て、芸の道を志した。パントマイムから始まり、コミックバンド、その後、結成した社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」でブレークした。数々のテレビ番組に出演し人気を集めていたが、ちょうど20年前、46歳の時に脱退した。“自分の思ったことを言いたい”とソロ活動へ、そして同時にテレビを捨てた。
松元ヒロの舞台はスタンドアップコメディーだ。政治や社会問題をネタに庶民の立場から権力をあざ笑う。本や映画も題材に取り入れ、世の中で大切なモノを笑いで包んで語りかける。

紀伊國屋ホールでの春公演を控えていた。愛妻のおにぎりを頬張りながら、ネタ作りに悩む。今回のメーンの演目は難病患者のお話、うまくいかない。何を伝えるべきなのか。松元ヒロに“笑い”について聞いた。
「弱者の立場からモノを言いたいんです。世の中を笑い倒したいんです。多数派の意見で作られていく今の世の中、テレビもそう。だからこそ、小さな声に耳を傾けることに意味があると思うんです」―松元ヒロが、テレビを捨てた理由だ。

日本国憲法を擬人化した演目「憲法くん」を演じる

舞台当日、400人の席は満員だった。ステージに立ったヒロはパワー全開、いつものように“政治”を“社会”を、“笑い”にする。規制に縛られる既成のメディアがなかなか取り上げない、声なき声をすくい上げては、笑いで一言モノ申す。自主規制は無し、不寛容な社会に言いたい放題だ。
メインの演目に差し掛かった。ヒロは物語の主人公の言葉で観客に投げかける。
「社会に迷惑をかけたっていい。必要なことは人に手伝ってもらうこと。みんな、助け合いながら生きている」。
会場は、やがて静まり、涙する。そして、拍手喝采に包まれた。
落語家・立川談志はヒロの芸をこう言った。「他の人が言えないことを代わりに言ってやる奴が芸人だ!お前を芸人と呼ぶ」。

故郷・鹿児島 桜島を前に

1年ぶりに鹿児島に戻った。桜島を見て、あの日の自分を思い出す。故郷を離れて50年、松元ヒロには会えない人がいた。高校時代の恩師、大学進学を支援してくれた人だった。大学を中退したヒロは、涙ながらにざんげの思いを話す。恩師は優しくほほ笑み、受け入れてくれた。「人を許す優しさ、人を受け入れる優しさ」…松元ヒロの原点だ。
テレビを草創期から支え、「上を向いて歩こう」の作詞家として知られる永六輔から託されたバトンがある。「9条をよろしく」。平和じゃなければ笑いも無い。

松元ヒロは言う。「私はテレビで会えない芸人です」。なぜ、会えないのか、会えないほどの芸とはいかなるものなのか、何がそうさせているのか。
2019年春から1年間、故郷のカメラが密着。テレビで会えない芸人から、今の世の中を少しだけのぞいてみた。「一人の芸人がテレビから消えた」、それだけの話かもしれないこの物語にやがて、気づかされる。“気がつけばモノが言えなくなる社会”。
2020年春。日本が、世界が、新型コロナウイルスに揺れる。政治に経済、混沌(こんとん)とした時代が続く。その中で、松元ヒロはまた理不尽な社会を“笑い”で斬る。

「テレビで会えない芸人」、
その優しさあふれる笑いとユーモアから、今の社会を見つめてみた。

プロデューサー・四元良隆(鹿児島テレビ 制作部)コメント

「“不寛容な時代”と言われています。異質なモノ(意見)を攻撃し、排除する風潮。この社会を反映するかのように、今のテレビの世界にもその波は押し寄せています。少しでも、世の中と合わない意見や表現方法をすれば、すぐにバッシングにさらされ、取り除かれていく…。いつしか“批判されないようにする”ことが最優先になり、コンプライアンスの名の下、この流れは加速する一方です。結果、何となくモノが言いづらい社会になっているような気がします。そうした中、一人の芸人と出会いました。テレビではなかなか取り上げない話題をネタにしては“笑い”で不寛容な社会へ問いかけます。会場は満員、しかし、テレビでは会えません。“なぜなのか”、故郷のカメラが見続けました。そして“大切なコト”を教えてもらいました。テレビで会えない芸人が今の世の中へ贈るプレゼント、この先に、表現の自由、寛容な社会が待っていることを望むばかりです」

【番組概要】

第29回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『テレビで会えない芸人』(制作:KTS鹿児島テレビ)
<放送日時>
2020年7月21日(水)27時05分~28時
<スタッフ>
制作:野元俊英
プロデューサー:四元良隆
ディレクター:牧 祐樹
撮影:鈴木哉雄
MA:万善弘美
構成協力:岩井田洋光

掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。