FNSドキュメンタリー大賞

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2019.6.21更新

液状化現象で変わり果てたマチ 里塚地区

被災直後に液状化被害が出た札幌市清田区里塚地区

被災直後に液状化被害が出た札幌市清田区里塚地区

第28回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
傾き続ける我が家~がんばるべぇ さとづか~

7月3日(水)26時50分~27時45分

2018年9月6日、北海道で初めての震度7。震源から60キロ離れた札幌市清田区里塚地区では液状化現象により多くの住宅が傾き、地面が陥没。元の街並みが消えた。住民が去り、寂しさを増す住宅街で冬の間も家々は傾き続けていた。札幌五輪のころに宅地造成された里塚地区。責任はどこに…。経済的な壁に直面し住民のいら立ちが募る。一方、町内会は自らパトロールし、餅つき大会も開催。「がんばるべぇ さとづか」を合言葉に。液状化現象がどんな影響を及ぼすのか。住民の姿を通じて現実を見つめる。

「もし地震が起きたら、自分の家の地盤が液状化し被害にあう」と考えて生活をしている住民がどれだけいるだろうか。2018年9月に死者43人を出した北海道胆振東部地震では、震源から遠く離れた札幌市清田区里塚地区を中心に、これが現実となった。番組では全国どこでも起こりうるという液状化現象の現実とメカニズム、それがもたらすコミュニティーへの影響を住民の生活を通じて浮き彫りにしていく。

春を迎えた札幌市清田区里塚地区の住宅街。今年は子どもたちの元気な声が聞こえてこない。あの地震をきっかけに一部住民が引っ越すなどして住み慣れた故郷を去ったためだ。あの日、全域停電した夜が明けて住民が目の当たりにしたのは、大切な我が家が傾き、道路が陥没、周囲が土砂に見舞われる変わり果てたマチの姿だった。

責任の所在はどこに・・・住民の思いがあふれた札幌市の住民説明会

責任の所在はどこに・・・
住民の思いがあふれた札幌市の住民説明会

地震一週間後に札幌市が開いた住民説明会は4時間にわたり紛糾。答えの出ない苛立ちがあった。液状化現象は、1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災など大きな地震のたびに発生。沿岸部で起きてきた印象だが、なぜ内陸部で…。里塚地区は、札幌冬季五輪時期の人口増加に合わせ造成された宅地。山を切り崩し谷を埋める形で進められた。専門家は、この盛り土に使われた“土の種類”が液状化の一因になったと指摘する。ただ、この土地は札幌市が作成した「大規模盛り土マップ」にも記載されておらず、全国各地に、あるいわば“どこにでもある土地”。造成した業者、許可した札幌市の責任を問う住民の声への答えは…。

地震後被災地では撮影に訪れる人などが現れる観光地化に加え、沈み続ける地面が住民を悩ませていた。家の傾きが増し、地面の亀裂が広がる…。冬から春にかけて住民からは「こんなに傾くなんて」、「体調にも異変が」という声が聞かれるようになった。経済的事情や高齢などを理由に傾く家での生活を続ける住民もいるが、被害が大きかったエリアでは地震後2カ月で住民の約4割が引っ越すことに。夜には住宅の明かりが消え、寂しさが増していった…。治安への不安を機に自主パトロールをしてきた町内会では、「一日でも早く元の生活を」と願い、12月に恒例の餅つき大会を開催。里塚を離れた住民も駆けつけ再会を誓った。

札幌市は全国初の道路と宅地を一体化した地盤改良工事に着手することを決めた。しかし行政側と住民側が想定する支援の範囲には開きがあるのも事実。故郷への思いはあるが、立ちはだかる支援の限界の壁も感じることになる。

2年前に今後20年住み続けられるようにとリフォームしたばかりの中川さん夫妻は自宅が被災し、みなし仮設暮らしを続けている。春を迎え、自宅は16センチ傾きが出ていることが判明。自宅の壁紙の隙間が広がり、周辺の土砂も大きく陥没しているのが確認された。ショックは隠せないが、長年住んできた故郷への思いは消えない。傾きを直す場合の見積もりを依頼した業者から提示された金額への決断は…。ある日マチが液状化現象に見舞われたら、コミュニティーへどんな影響が出るのか。里塚地区を離れた住民、戻るまで待ち続ける住民の姿から考える。

変わり果てた故郷に立ち尽くす中川さん親子(左:娘・夏海さん、右:母・抄子さん)

変わり果てた故郷に立ち尽くす中川さん親子
(左:娘・夏海さん、右:母・抄子さん)

傾き続ける我が家の現実(春になった中川さんの自宅敷地)

傾き続ける我が家の現実
(春になった中川さんの自宅敷地)

番組では、東日本大震災を宮城県で体験した入社1年目の新人アナウンサーが取材とナレーションを担当。困難な状況に直面する現場で出会った住民一人ひとりの心の移り変わりを聞き取り、表現に挑戦する。

コメント

ディレクター・川上椋輔(北海道文化放送アナウンス部)

「3.11の被災経験から“震災報道に携わりたい”という思いの中で迎えた社会人一年目。2018年9月6日、私は液状化で多くの家が傾いた里塚地区にいました。札幌市の危険度調査で“危険”と判定された家。しかし、そこに住み続ける人々がいました。“我慢すれば住める”多くの人が口にしていた言葉です。しかしそう話していた多くの人が冬を前に街を離れました。取材に行くたび人通りが減っていることを実感する日々にもどかしさを感じました。
“被災地は2回被災する。1回目は発災した時。2回目は世間から忘れられた時”。これは3.11で被災した男性が私に話してくれた言葉です。里塚の人々もテレビで“北海道は元気です”という言葉を見るたびに、里塚が忘れられているのではと口にしていました。こうした姿を前に“里塚から伝えていくべきことがある”と思い取材を続けてきました。里塚の今を通し、各地で起こりうる液状化について考える契機になれればと思います」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『傾き続ける我が家~がんばるべぇ さとづか~』(制作:北海道文化放送)
放送日時
7月3日(水)26時50分~27時45分
スタッフ
プロデューサー
篠原巨樹(北海道文化放送)
ディレクター・語り
川上椋輔(北海道文化放送)
ナレーション
田辺桃菜(北海道文化放送)
構成
武田浩(構成作家)
撮影
  • 髙谷響(ノーステレビスタッフ)
  • 橋本政明(オーテック)
VE
斉藤慎(ノーステレビスタッフ)
編集
浜潟淳(オーテック)
ライン編集
横井良昌(オーテック)
音効・MA
小﨑悠平(パイルアップサウンズ)
CG
  • 小泉真魚(トップクリエーション)
  • 櫻井彩乃(トップクリエーション)
TK
青木志保子(ユープロダクション)
制作著作
北海道文化放送
広報担当
天羽司(北海道文化放送編成部)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。