FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2019.6.25更新

「早期避難」実現のために今必要なこと

2018年7月多くの人の命を奪った西日本豪雨災害

2018年7月多くの人の命を奪った西日本豪雨災害

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
まさかと言わないために~ビッグデータで読み解く広島豪雨災害~

7月5日(金)26時55分~27時50分

あの豪雨災害を“他人事”としないために…

広島県内で多くの犠牲者を出した去年の豪雨災害。自宅や外出先、帰宅途中で大雨に見舞われた人たちは、その時、どういう行動をとったのか?番組では、当時被災地周辺にいた人の携帯電話の位置情報を分析。研究機関と共同で避難行動の可視化を試みた。また、SNSに投稿された文章の内容にも注目。そこから浮かび上がったのは、“避難することへのためらい”だった。命を守る「早期避難」を実現するために、必要なことを探った。

データ分析から見えてきた“避難”するまでの行動心理
豪雨のさなか人々はどういうメッセージを発信したのか

豪雨のさなか人々はどういうメッセージを発信したのか

広島県内で130人を越える死者・行方不明者を出した2018年7月の西日本豪雨災害。なぜ、これほどまで大きな被害を出してしまったのか?被災地で取材を重ねていくと、多くの人が口を揃える言葉があった。「まさか、自分のところで起きるとは…」。番組では、新たな方法でこの豪雨災害の全体像を捉えようと、“ビッグデータ”に注目。携帯電話関連企業の協力を得て、災害時に携帯電話が記録した位置情報や、SNSに投稿されたコメントなどの膨大なデータを集め、研究機関と共同で分析を進めた。

「土砂災害防止法」にもとづき、土砂災害のリスクが高いとしてあらかじめ指定されている「土砂災害警戒区域」。去年7月6日の19時~20時、各地で次々と災害が発生し始めたこの時間帯に、広島県内の「土砂災害警戒区域」にいた人数は、位置情報データからの推計で約23万人。これは、1週間前の同じ時間帯の人数とほぼ同じ。日中から避難情報等が出されていたにも関わらず、ふだんと変わらない人数が残っていたのだ。気象庁から「大雨特別警報」が発令されたのが、19時40分。“ただちに命を守る行動”を促すものだが、1時間ごとの「土砂災害警戒区域」内の人数の変化を見ると、23時を過ぎてからようやく通常より減り始め、避難行動に移ったことがデータから見えてきた。

ではなぜ、人々は逃げようとしなかったのか?当時ツイッターに投稿された文言を分析すると、「特別警報」が出た時刻に、“警報”という言葉を含むツイートが急増。そして、“避難”という言葉を含む投稿も増えていった。しかし、具体的に見ると、「今から避難しようか悩む」「車を出すのが怖い」など、“避難する”というよりは、“避難をためらう”心理状況が明らかになった。「特別警報」というインパクトのある言葉には反応しながらも、避難行動にはなかなか踏み出せなかった被災者たち。番組では、防災の専門家など学識経験者に集まってもらい、独自の防災検討会を開催。被災者が“避難しない”状況への対策を協議した。専門家は、「ひとりで判断して“逃げる”行動を決定する人は少ない。ほかの人と話をする中で“逃げないといけないのでは?”という疑いが確信に変わり、初めて行動する」と指摘した。“ほかの人との会話”が、実際に早期避難につながった例があった。土石流で住宅に大きな被害が出た東広島市のある地区では、普段から隣近所で声をかけるコミュニティー活動を行っていた。あの大雨の際には、危険なエリアに住む人同士で「逃げましょう」と声をかけあい、災害発生する前日までに避難を終了。“逃げる意識”を共有することが迅速な行動につながったのだ。

大学生が最新技術を駆使して挑む!高齢者への新たな“避難指示”とは?
防災システム開発に取り組む大学生

防災システム開発に取り組む大学生

しかし、“逃げたくてもすぐに逃げるのが難しい”高齢者の問題も今回の災害ではクローズアップされた。その避難をどう助けるか、最新技術を使って挑む若者たちがいた。広島市立大学情報科学部。この大学では、土砂災害の危険がある場所をカメラで24時間監視するシステムを開発。その画像をインターネット上で公開する取り組みをすでに始めている。しかし、高齢者の多くはパソコンやスマートフォンを使えない。その問題点をクリアしようと、学生たちが新たに目を付けたのは、ほとんどの高齢者世帯にある“テレビ”。テレビに小型の専用コンピューターを接続し、近くに危険が迫った際には自動的に画面が、河川やダムの映像に切り替わるというものだ。学生たちは、さらに改良をほどこし、近い将来の実用化を目指している。毎年訪れる雨の季節。災害は決して“他人事”ではない。二度とあのような犠牲者を出さないよう、教訓から学びこれからの防災に生かすため、いま私たちに必要なことを見つめた。

ディレクター・菱野将史(テレビ新広島報道部)コメント

「豪雨災害の取材現場でよく聞いたのは、“まさか自分のところでこんなことが起きるとは”という言葉でした。しかし、広島ではこの4年前にも70人以上が犠牲になる豪雨災害があったばかり。日々のニュースで防災を訴えてきたつもりでしたが、多くの人にとっては“他人事”のままだったんだなと痛感しました。どうしたら“自分ごと”として考えてもらえるのか。そのためには、限られた地域での被害、限られた被災者の話ではなく、全体像を見てもらいたいと考え、“ビッグデータ”の活用を思いつきました。データが示されて思ったのは、“やっぱり逃げないんだな”ということ。人は、どういうメッセージなら反応し、行動するかということなどを、さらに研究していけば今後にも生かせると思います。毎年雨の時期はやってきます。“自分の命は自分で守る”という基本を、いまいちど“自分ごと”として考えてほしいです」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『まさかと言わないために~ビッグデータで読み解く広島豪雨災害~』(制作:テレビ新広島)
放送日時
7月5日(金)26時55分~27時50分
スタッフ
プロデューサー
横川慶治
ディレクター
菱野将史
構成
平和紘
ナレーター
  • 衣笠梨代(テレビ新広島アナウンサー)
  • 加藤雅也(テレビ新広島アナウンサー)
撮影・編集
藤本敏司(TSSプロダクション)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。