FNSドキュメンタリー大賞

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2019.9.26更新

被災地に実りの秋が訪れた

被災地に実りの秋が訪れた

第28回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
実りの秋よ いつまでも

9月18日(水)27時05分~28時00分

熊本地震に余命宣告…米農家の生き様
嶋田一徳さん

嶋田一徳さん

2016年4月に発生した熊本地震。震度7の揺れに2度襲われた上益城郡益城町にはコメを作る嶋田一徳さんの姿があった。家は壊れ、農機具を失いながらも震災直後から田植えに挑んでいた。その裏には、限られた時間と向き合わなければならない理由が。それは、余命宣告。後を継ぐ息子に教えるにも時間がない…。来年もコメ作りをしたい…。父として、コメ農家として、いまを懸命に生きた嶋田さんの3年間の記録だ。

2年半の余命宣告、コメ作りに命を懸ける
長男・康徳さんにコメ作りを教える

長男・康徳さんにコメ作りを教える

熊本地震直後の益城町。
家々が倒壊し、道路は凸凹…そんな色を失ったかのような町で、こいのぼりが気持ちよさそうに泳いでいた。持ち主は嶋田一徳さん。被災し不安を抱く孫たちを喜ばせたいと、全壊した納屋の前にこいのぼりを立てていたのだ。そんな優しいおじいちゃんはコメ農家。地震直後から家族総出で田植えの準備を開始した。例年通り田植えを行うも、自宅は半壊、必要な農機具も壊れ、嶋田さん自身も完璧な状態ではなかった。

「あと3年生きたかね…。俺の時間じゃなくて、息子に農作業を教える時間が欲しい」「時間が足りない…」
そう漏らす嶋田さん。実はガンを患い、長くて2年半と余命宣告を受けていたのだ。共に農作業に汗を流す長男・康徳さんは震災の年から本格的に作業を手伝うようになるも、すぐに父のようにできるわけではない。田植えは1年に1回、稲刈りも1年に1回。1年に1回しか実践のチャンスがないだけに、父は必死になる。一つでも多くの作業を息子に教えたい、1回でも多くコメ作りがしたい、そう思いながらも1年が過ぎていく。

町の復興が進むということは、時間が経過しているということ。時間が経過するということは、余命の期日が近づいているということ。命の終わりを感じながらも希望を捨てない嶋田さんは、震災から2年が経った春に全壊した納屋を再建し、農機具も新調した。また壊れた自宅からみなし仮設へと引っ越し、新しい家を建てる準備を始めた。
しかし地震後3度目の稲刈りを控えた初秋、容体が悪化。病院のベッドで「田んぼが見たい。コメが見たい」と気にかけ続けるも、それがかなうことはなかった。
余命を告げられた時、自分はどのように残された時間を過ごすだろうか?また、大切な人が余命宣告を受けたとき、支える家族はどんな思いで過ごすだろうか?どんな運命をも受け入れ、いまを生き抜き、文字通りコメ作りに「命を懸けた」嶋田さんの姿を、今回はあえてナレーションをつけず、制作者の考えを押し付けない手法で描いた。
嶋田さんが声を荒らげ息子に指導するシーンひとつ取っても「時間がない焦り」と捉えるか、「自分で作業ができないことにイライラしている」と捉えるか、また「万全の体調でなく心身ともにまいっている」と捉えるかなど、受け手の感じ方は様々。そうした余白をさまざまに感じてほしいと制作した。

コメント

ディレクター・浜田友里子(テレビ熊本 報道部)

「“地震に負けないで”そう励ましてくれたのは“こいのぼり”でした。被災地取材に明け暮れ気持ちが沈んでいた私に、青空を気持ちよさそうに泳ぐこいのぼりが元気をくれたのです。
震災後初の田植えを撮影し少しでも明るい話題を届けたいと始めた取材でしたが、嶋田さんと会話をするうちにガンを患っていることが判明。しかも余命宣告まで受けていると打ち明けられ、私が動揺したのをいまでも覚えています。そして“あと3年生きたかね…”と漏らした嶋田さんの生き抜く姿を追いかけてみたいと思うようになりました。
地震後の後片付けや農作業、さらにベストな体調ではない中、取材を受け入れてくださった嶋田家の皆さん、そして何より天国の嶋田さんに心より感謝を申し上げます。あの優しい笑顔を忘れません」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『実りの秋よ いつまでも』(制作:テレビ熊本)
放送日時
9月18日(水)27時05分~28時00分
スタッフ
撮影
渡邉俊一朗
編集
可児浩二
MA
森仁(U2)
題字
永野ちひろ
ディレクター
浜田友里子
プロデューサー
古閑康弘
制作統括
徳永幹男

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。