FNSドキュメンタリー大賞

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2019.10.6更新

袋入れ作業をするティンクルの利用者

袋入れ作業をするティンクルの利用者

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
豊かさの行方~障害者支援施設はイマ~

10月16日(水)27時~27時55分

制度変更で揺れるB型事業所。豊かさとは…

就職が困難な障害を持つ人に仕事の場を提供する、就労継続支援B型事業所。
いま、利用者の「工賃向上」と「支援」という課題のはざまで揺れている。国からの給付金が主な収入となっているB型事業所。
厚生労働省が導入した新制度により、利用者の工賃を上げなければ事業所自体の運営が成り立たないおそれが出てきた。しかし、働ける利用者ばかりではない。
大切なのは“お金”なのか、それとも“生きがい”なのか。施設の意義を考える。

国の制度は<就労支援>、現実は<企業などへの就労は年1%>、理想は<障害者の居場所>。そのはざまで悩み続ける。
利用者に教える理事長 左から)利用者、後藤恵美子

利用者に教える理事長
左から)利用者、後藤恵美子

番組の舞台は、静岡県沼津市にあるB型事業所「プラザティンクル」。
ティンクルと出会ったのは、2015年。当時、ディレクターである私のところにティンクルから「社外就労(オートバイの分解や洗浄)に関する取り組み」というプレスリリースが届いたことがきっかけだ。
私は衝撃を受けた。障害者支援施設の取材といえば断られることがほとんどで、私の記者生活の中でもB型事業所からプレスリリースが届いたのは、後にも先にもこの時だけだったからだ。
「どんな事業所なのか?」。
見てみたい、知りたい。その衝動に駆られ、その取り組みを取材したことを覚えている。

あれから4年。施設長が代替わりしたと聞き、再びティンクルを訪れた。くしくも、国からB型事業所に対して支払われる給付金制度が改定されたタイミングと同じだった。
前の施設長である、ティンクルの理事長・後藤恵美子(62)は、目が見えず、身体障害と知的障害を持って生まれた次男・慶太(30)の将来を考えた時、彼のように重い障害を持つ人たちの“居場所”を作ってあげたいと願い、賛同した視覚特別支援学校の保護者と共に、2000年にティンクルを立ち上げた。施設長の座を継いだのは長男・譲治(33)。母の背中を見て育つうちに、自らも同じ世界に身を投じたいと思うようになり、24歳の時ティンクルに入った。

弟の手を引く施設長 左から)後藤慶太、後藤譲治

弟の手を引く施設長
左から)後藤慶太、後藤譲治

共に目指すのは、障害のある人たちにとっての“豊かな日々”。しかし、そのアプローチの仕方は大きく異なる。

「お金が無ければ生きていけない」と話す譲治。彼は利用者の工賃が向上するようにと、企業に点字名刺の導入を勧め、下請け作業を受注し、営業に必死だ。
一方の恵美子は「利用者が生きがいを感じ、働いている人と同じリズムで、同じスタンスで生活できるようにする」ことこそが自分たちの役割だと感じている。

多くのB型事業所は、国からの給付金を主な収入源として運営している。これまで利用者や職員の数で決まっていた給付金も、新制度により、利用者に支払う工賃の平均額に応じて、給付額が変動するようになった。言い換えれば、障害者の稼ぎに左右されるようになったのだ。
ティンクルの利用者の平均工賃は月1万7000円ほど。全国平均の1万5000円を少し上回る程度だ。工賃が向上することは、利用者の経済的自立につながる。逆に、工賃が上がらなければ結果的に国からの給付金が減り、事業所自体の運営が成り立たなくなるおそれもある。だから譲治は、利用者の仕事を探そうとがむしゃらになった。
しかし、現実的には働ける利用者ばかりではない。むしろ、ティンクルは利用者の増加に伴い障害が多様化し、支援の必要性が高い人も増えている。だからこそ、この親子は時として対立するのだ。同じ家に住みながら、3年近く口を利かなかったこともある。

B型事業所の運営者の中には「お金があっても幸せになれるわけではないが、お金がなければ必ず不幸になる」と話し、事業所側がもっと設備投資を行い、利用者が“稼げる”環境を作るべきだと主張する人もいる。だが一方で「障害のある人たちに成果主義は馴染まない」と話し「自分のペースで仕事が出来ることが重要」と主張する人もいる。

この番組では、じっとしていられない利用者、突然ズボンを脱ぎ出してしまう利用者など、現実を映し出すと共に、障害を持つ人たちを支援する職員の多忙な様子を伝える。そして、ティンクルという施設を通して、恵美子と譲治という親子を通して、いまB型事業所の置かれている立場、課題を社会に示す。国の制度と現実と理想のはざまで揺れ動くB型事業所。障害のある人たちにとっての“豊かさ”とは何か、制度の在り方、障害者福祉の在り方とは。考えるきっかけにしてほしい。

コメント

ディレクター・入口鎌伍(テレビ静岡 報道部)

「いまティンクルと同じように“工賃向上”と“支援”という2つの課題の狭間で揺れているB型事業所は少なくないと思います。B型事業所に投じられている税金は3000億円を超え、利用者の経済的自立と言う観点から言えば、国が平均工賃で事業所を評価することは、当たり前かもしれません。“就職へのステップ”と位置付けられているB型事業所ですが、実際に企業などへの就職に結びついた人の割合は年1%に留まっているのも現実です。事業所側の意識が低かったことも否定できませんが、一方で、障害が重い人たちにとってB型事業所は居場所であり、社会とつながる場所になっていることも事実です。世の中に完璧な制度はないと思いますが、制度をより良いものにすることはできると思っています。番組の主人公である恵美子と譲治、そして慶太を通して“B型事業所”“障害を持つ人たちを取り巻く環境”を、考えてもらう第一歩となればと願っています」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『豊かさの行方~障害者支援施設はイマ~』(制作:テレビ静岡)
放送日時
10月16日(水)27時~27時55分
スタッフ
ナレーション
竹本英史(青二プロダクション)
撮影
植田孝雄
編集
望月達也(富士テレネット)
効果
松坂史高(富士テレネット)
デザイン
長田唯(富士テレネット)
構成
  • 橋本真理子
  • 入口鎌伍
ディレクター
入口鎌伍
番組統括
橋本真理子
プロデューサー
舘石昌宏

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。