FNSドキュメンタリー大賞

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2019.10.3更新

だから、歩く ~クアオルトが描く未来~

「楽しく歩く」がモットー

「楽しく歩く」がモットー

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
だから、歩く ~クアオルトが描く未来~

11月19日(火)26時35分~27時30分

伸び悩むクアオルト(療養地)事業、課題は?

高齢化や人口減少などに頭を悩ませていた山形県上山市。
この上山市が地方再生の目的で始めたのがクアオルト(療養地)事業だ。
毎日の里山を歩く健康ウォーキングが柱で、市民の健康増進や交流人口の拡大を目指す。しかし参加者はここ4年ほどは横ばいで、ほぼリピーターの利用にとどまっている。
番組では、クアオルト事業に中心的にかかわってきたガイドと元上山市職員を通して見えてきた、その問題点と今後の展望を探った。

自然に恵まれた温泉地、山形県上山市
里山歩きの様子

里山歩きの様子

四方を山に囲まれた県内有数の温泉地、山形県上山市。
四季折々の自然と食、観光資源は豊富なのに、人口はおよそ3万人にまで減り続け、その4割以上が65歳以上の高齢者となっている。膨らむ医療費は1人当たり年間40万円で、山形県内の自治体の中で10年以上トップクラスだ。こうした状況を変えようと、上山市は治療から予防への意識改革を図ろうと打開策を模索していた。
再生のヒントは意外な場所で見つかった。1994年ドイツと友好都市になろうとしていた上山市。ドイツについて詳しく調べたところクアオルトにいきついた。クアオルトはドイツ発祥の健康づくりの総称で、もともとは温泉療法から始まったもの。ポイントは国が認定した療養地で、病気やけがの治療、そして健康づくりを行った人に医療保険が適用される。クアオルトはドイツ国内に374カ所。ウォーキングコースは森のいたるところにある。イタリアなど周辺の国からも療養のために人々が訪れ、ドイツの町の経済を潤している。しかし、調べれば調べるほど温泉施設やプールなど様々な施設が必要で、日本の温泉地で活用するのは難しいことがわかった。そこで上山市が目指したのは自然との共生。身近にある山を活用していく道を選んだ。健康という視点で見れば“ただの山”“ただの森”が体に良いものになり、健康な人を増やすとともに、上山市の価値を上げ、交流人口を増やす地域再生の切り札にしようと考えたのだ。
上山市はクアオルトの第一人者から運動療法を学び、上山版の「健康ウォーキング」の総合プログラムを完成させた。そして日本ではなじみのない健康ウォーキングを市民に理解してもらおうと実証実験を始めた。実際市民に山歩きをしてもらい効果を実感してもらおうと考えたのだ。そこに参加したのがのちにクアオルト事業を推進することになるガイド。ガイドの男性は自分が愛する地元の山を活用し、たくさんの人に喜んでもらいたいと考えていて、クアオルト事業にのめりこんでいくことになった。

「市民無料化」に向けたガイド組織の準備風景

「市民無料化」に向けたガイド組織の準備風景

雪山歩きの様子

雪山歩きの様子

この後、国民の健康づくりのモデル指定を受けた上山市は国の補助金を使って日本で初めてミュンヘン大学認定の8つのウォーキングコースを整備した。一方、ガイド組織「蔵王テラポイト協会」が設立され“毎日ウォーキング活動”を始めた。こうして上山市のクアオルト事業がスタートした。ウォーキングの参加者は当初300人程度だったが7年目には1万3000人を超えた。参加者の医療費は、参加していない同い年の人に比べ年間平均で8万4000円減らす効果を生んだ。しかし参加者はここ4年間横ばいでそのほとんどがリピーターとなっている。上山市内からの参加は4年間減少を続けている。県内外の自治体が始めたクアオルト事業も同様の状況に陥っていた。温泉施設やトレーニング施設などを整備し、いったんは参加者が増えるものの、その後伸び悩んでしまうのだった。
上山市のクアオルト事業も新たな試みで参加者増を狙うことにした。より市民目線でウォーキングを楽しんでもらおうと「蔵王テラポイト協会」が運営を市から引き継いだ。またJRの駅近くに温泉健康施設を整備し、温泉とウォーキングをミックスし、新しいコースも作ろうとしている。一方、温泉旅館や飲食店が健康増進を目的に開発した滞在型プランが全国で初めて“ヘルスツーリズム認証”を受けた。地域再生をめざして始められた上山市のクアオルト事業の現状と今後とは?

コメント

ディレクター・井上晃一(さくらんぼテレビ 報道部)

「今回、番組づくりのきっかけとなったのは、ウォーキングガイドの徳正強さんとの出会いでした。2017年2月、自分が情報番組のディレクターをしていた時に“樹氷トレッキング”の魅力を伝える取材の案内をしてもらったのです。猛吹雪の中、クルー全員の息が上がる中、平然と前を行く徳正さん。そのエネルギーの源は何か、その時はわかりませんでしたが、1年が経ち、大きな事故に遭われた徳正さんがクアオルトの中心にいたと知った時、何もかもを理解しました。
なぜ徳正さんは生還できたのか。取材した医師は、これまでの“生き方”にあると話しました。生まれてからどのような環境の中で生活し、何を食べ、人や物と接してきたか。その歩みの全てが生還につながることがあると。番組は、個人の再生と地域の再生を重ねあわせながら進行させました。ともに、どのような復活を遂げるのかは分かりませんが、取材を続けられる限り、見つめ続けていくつもりです」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『だから、歩く ~クアオルトが描く未来~』(制作:さくらんぼテレビ)
放送日時
11月19日(火)26時35分~27時30分
スタッフ
プロデューサー
峯田昌洋
ディレクター
井上晃一
ナレーション
塩山由佳
撮影
高橋慎太郎
MA
市原貴広
音効
角千明
CG
佐藤哲哉

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。