FNSドキュメンタリー大賞

2019.10.18更新

集落が消えゆく前に…10年間の「証明写真」

過疎と高齢化で存続が危ぶまれている長野市中条地区日下野集落。
せめて、今、暮らしている人々の“まめったい”＝“元気な”姿を後世に残したいと住民の発案で10年前から「写真集」作りが始まった。
しかし、その間には、この世を去る人、集落を去る人も。厳しい現実に直面しながらも必死に前を向き、活動が進められてきた。
山あいの地で肩をよせあい懸命に暮らしてきた住民の「証明写真」。小さな集落の10年間の物語だ。

平均年齢は85歳。“まめったい”＝“元気な”高齢化した集落。

長野市中条地区日下野、山の上の方の一帯にある小さな集落「通称・6区」。
2017年8月、中山間地域の今後を考えるイベント「地域まめったいサミット」を訪れた。会場に入るとすぐに、力強くそれでいて温もりのある素敵な写真が目に飛び込んできた。
「仲むつまじい夫婦…」「畑仕事の合間に…」「ちょっとはにかんで…」
山あいの集落で暮らすお年寄りたちの日常を記録した写真の数々。
「6区」では、住民の発案で10年前から集落の記録写真が撮られ「写真集」作りが進められていると聞き、なぜこうした活動がはじまったのかを伝えたいと思ったのが番組作りの出発点となった。

今から50年前には200人以上が暮らし、子どもたちの元気な声が響き渡る活気ある集落だった「6区」。しかし、現在住民は23人、全員が65歳以上で平均年齢は85歳。中条地区の中でも特に過疎化と高齢化が進み、存続が危ぶまれる集落へと一変した。
まず「写真集」の発案者で住民の滝沢静子さんに会った。住民が減り、変わりゆく景色を眺めながら、こう話した。
「集落が消えゆく前に、せめて今の“まめったい”暮らしを記録に残したい」。
“まめったい”とは、この地域の方言で“元気な”という意味。滝沢さんは「6区」の“まめったい”姿を撮影し、後世に残したいと「写真集」作りを始めたと話してくれた。集落の様子を取材していると、せっせと畑仕事に精を出している住民と出会った。ちょっとはにかんで写真に写っていた90代のおばあちゃんだ。話しかけてみると「腰は曲がっているけど、元気だわい。1人暮らしだけどなんでもできます」と力強い言葉がかえってきた。“まめったい”とはこのことかと。

滝沢さんの活動に賛同し一緒に活動してきたのは、祖父母が「6区」に住んでいた小山奈々子さん。そして小山さんの友人でプロの写真家の服部貴康さん。3人は、10年にわたり一軒一軒をまわり、住民と触れ合い「まめったい暮らし」の記録写真を撮り続けてきた。しかしその間には、この世を去る人、集落を去る人も…この10年で住民は半数以下に。服部さんは「そこに生きている人、生きた姿を撮っているが、結果的に生きていた時の最後の姿に」と“限界集落”で記録写真を撮ることの難しさを実感。また、小山さんは「生きていたという“証”を残すことが、周りの人を元気にする」と話す。「高齢化」というあらがえない厳しい現実に直面しながらも、3人は「写真集」作りの重みをかみしめ、必死に前を向き活動に取り組んできた。

そして2018年12月、ついに10年間の集大成「写真集」が完成した。心待ちにしていた住民たちから満面の笑みがこぼれた。
「まめったい暮らしを後世に…」。
「写真集」作りの活動を追いかけると共に、集落の現状や住民の暮らしぶりを「ありのまま」に伝えたいと考え、制作に取り組んできた。
「いつしか、集落が…」。これは長野県にある一集落だけのものではなく、日本のあらゆる地域で起きうる課題。山あいで懸命に生きている人々の姿や3人の活動を通して、今後こうした課題にどう向き合っていくのか、考えるきっかけになればと思っている。

コメント

ディレクター・漆澤謙治（長野放送報道部）

「“年齢と共に不便さを増す山あいでの暮らし”。
取材当初は、そう思っていました。しかし、住民と会話すると“楽しいよ”“住めば都”という言葉がかえってきました。畑仕事にマジック、詩吟など、慣れ親しんだ地で好きなことを楽しみながら暮らしているお年寄りたち。通うごとにパワーをもらい、集落の“まめったい”魅力に引き込まれていきました。高齢化という“待ったなし”の現実。“写真集”作りを通して、地域に“絆”が深まったと感じている滝沢さん。小山さんは“前は10年、20年で集落がなくなると思っていたが、小さくても残るのかもしれない”と“一筋の光”を見出しました。
“6区”では“写真集”の第2弾の発行に向けて、活動が始まろうとしています。集落の存続に向けた新たな挑戦！皆さんの情熱を見習うとともに、今後も活動を見守っていきたいと思っています」

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