FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2019.7.13更新

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『幸せを呼ぶ音色 ~がんと闘うチンドンマン~』

7月7日(日)26時05分~27時

平均年齢70歳のチンドングループ、大船渡市の「チンドン寺町一座」。アマチュアの大会で日本一にもなった実力派グループだ。そんな寺町一座の要・ちんどん太鼓を叩く新沼健一(66)さんに2017年8月大腸がんが見つかった。
新沼さんは、かけがえのない仲間、そして最愛の家族に支えられながら、長野県の宿場町でちんどんを演奏するという夢を抱いた。がんと闘いながらちんどんに人生をかけた新沼さんの夢は実現するのか。

取材しようと思ったきっかけは、主人公の新沼健一さんから、末期がんを患ってしまったにもかかわらず、一つの夢を叶えたいという思いを聞いた事だった。その夢とは、幼い頃から何をするにも一緒だったかけがえのない仲間、寺町一座のメンバーと一緒に、長野県の宿場町で演奏し、最高の思い出を作りたいというものだ。

66歳の新沼さんをはじめ、寺町一座5人の平均年齢は70歳。病気や体の衰えなども当然ある。それでも、夢を語り、チンドンに青春している寺町一座の姿があった。新沼さんを突き動かす情熱や病気に負けない精神はどこからくるのか、そして、これまでどんな事を大事にして生きてきたのか知りたいと思い、去年5月から取材を始めた。

寺町一座が活動の拠点としているのは岩手県大船渡の小さな集落、長安寺地区。この地で、生まれ育った寺町一座は、幼い頃から何をするにも一緒。20代の頃には、郷土芸能として長安寺太鼓も一緒に創設した。2003年、50代となって新たに挑戦しようと旗揚げしたのがチンドン寺町一座だった。練習に一生懸命励み、アマチュアの大会では日本一になるほどの腕前となった。東日本大震災以降は、全国からチンドングループを呼んでちんどんまつりを開き、復興を後押しした。

これからさらに活躍の場を広げていこうとしていた矢先の2017年8月、新沼さんに大腸がんが見つかった。しかも肺や肝臓にも転移し、手術は難しいと診断された。

活動の継続も危ぶまれた中、新沼さんは、大好きな坂本龍馬の言葉「死ぬときはたとえドブの中でも前のめり」と語り、その言葉の通り、少しでもチンドンを長く続けるため、完治ではなく、延命治療を選択した。

そんな新沼さんと周りの人たちとの絆も番組の見どころの一つだ。新沼さんは、人々を笑顔にしたいからこそ、チンドンへの思いが強く、常に向上心を持って練習に励んでいた。その思いは、寺町一座の他のメンバーも一緒。同じ志をもった仲間がいることは大変心強い。そんな仲間たちと、初めて自分たちのためだけに演奏した長野県での演奏は夢を叶えた瞬間だ。全員が最高の幸せを感じ、新沼さんは生きる力を得た。また、群馬県前橋市のアマチュア大会では、最優秀賞を受賞した。新沼さんは、どんなに辛い状況に立たされても、仲間を思いやり、また、仲間もそんな新沼さんの回復を信じて支え続けた。

なかでも、看護師である妻の律子さんの存在は大きい。献身的なケアで、病院ではなく、最後まで自宅で生活することができた。また、娘の淳さんが、孫を連れてちんどんまつりの応援に駆け付けた時は、新沼さんもとびきりの笑顔を見せて喜ぶなど、温かい家族の絆があった。

そして、地域と寺町一座の繋がりも深い。寺町一座は地域のためにボランティアで草刈りをし、地域の住民たちは寺町一座のために、復興・大船渡全国ちんどんまつりの運営を手伝い、全国のチンドングループを手料理でもてなした。ある人は「日本の古き良き姿がある」と感激していた。仲間・家族・地域の絆があったからこそ、最後まで自分らしく生きた新沼さんの姿があった。

2018年12月、仲間たちや家族の祈りも届かず、新沼さんは天国に旅立った。葬儀へと向かう親族の列、そこに聞こえてきたのは、仲間たちが新沼さんへの思いを込めたチンドンの音色だった。
幸せを奏でるはずの音色がこの時はもの悲しく聞こえる。仲間の思いが込められた音色だ。

深い悲しみに包まれるなか、寺町一座はどうなってしまうのか。仲間たちは新沼さんの意思を継いで、続けることを決意した。幸い、寺町一座が卒業した長安寺太鼓から、応援にかけつけて、新沼さんの代わりにチンドン太鼓を叩く若手も加わった。人々を笑顔にする寺町一座のチンドン演奏は、これからも変わらずに、新沼さんがいる天まで届くようにと響きわたる。

この番組では、新沼さんが、がんとの闘病を通して、何を思い、何を感じたのか。また、周りで支える仲間、家族に、新沼さんは何を残したのか。人生で本当に大切なものは何かを語り掛ける。

コメント

ディレクター・井上智晶(岩手めんこいテレビ報道部)

「地方は都会にくらべて、仕事はなく、賃金も安いといった不満や、地方には娯楽など何もないといった声はよく聞きます。しかし、金銭的な指標では測れない豊かさが新沼さんや寺間一座の皆さんの生き方にはあると思います。
がんの闘病生活をしながらも、自分らしく生きた新沼さんをみて、熱中できるものがあることはつくづく幸せな事だと思いました。ただ、それは一人では成り立たなくて、強い絆で結ばれた仲間がいるからこそ、楽しみが何倍にも増しますし、家族の理解、家族の支えがあるからこそ、全力を注げます。また、自分の生まれた地域を大事にするからこそ、やりがいも増すのではないでしょうか。
新沼さんのように、自分らしく生きることは、さまざまなしがらみがあり、簡単なようで簡単ではないと思います。人生の幸せとは何か?多くの人にとって少しでもそのヒントが見つかればとの思いで制作しました」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『幸せを呼ぶ音色 ~がんと闘うチンドンマン~』(制作:岩手めんこいテレビ)
放送日時
7月7日(日)26時05分~27時
スタッフ
プロデューサー
一戸俊行(岩手めんこいテレビ報道部)
ディレクター・構成・ナレーター
井上智晶(岩手めんこいテレビ報道部)
撮影・編集
今野賢也(岩手めんこいテレビ報道部)
MA
山内智臣(めんこいエンタープライズ)
CG
芳賀秋位(めんこいメディアブレーン)
広報担当
大場薫(岩手めんこいテレビ編成業務部)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。