FNSドキュメンタリー大賞

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2019.9.30更新

故郷・徳之島の夕景と徳田虎雄

故郷・徳之島の夕景と徳田虎雄

第28回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
トラオの夢 病院王・徳田虎雄とその時代

10月2日(水)26時15分~27時10分

聖か俗か?善か悪か?奄美の男の正体に迫る
演説中の徳田虎雄(当時44歳)

演説中の徳田虎雄(当時44歳)

かつて日本医療界の革命児と言われた男・徳田虎雄。昭和50年代「生命だけは平等だ」との理念を掲げ「24時間・365日オープン」という診療方針で病院を全国に拡大し、各地の医師会と対立した。その後、奄美群島区から衆院選に立候補すると「保徳戦争」と呼ばれた金まみれの選挙戦を展開し、耳目を集めた。
モーレツに生き、キワモノ扱いされ、今は静かに眠るように生きる徳田の半生を追うと戦後日本の縮図が見えてくる。令和が始まった今こそ徳田の功罪を考え直すことに意義がある。

記憶から消えない“ひっかかる男”
ALS発症後の徳田虎雄(当時72歳)

ALS発症後の徳田虎雄(当時72歳)

“ひっかかる男”がいた。今の私には何の関係もないのに、その人の記憶が消えない。男の名は徳田虎雄。この番組の主人公だ。

徳田虎雄に関する私の最初の記憶は、小学生の頃だ。ある日、劇画タッチ300ページ超の漫画の単行本が、自宅ポストに投げ込まれていた。タイトルは「トラオがゆく」。徳田の自伝漫画だ。当時、私の故郷、鹿児島県鹿屋市には、徳田が経営する徳洲会病院の進出計画があった。計画に反対する地元医師会は、議会に圧力をかけて学校の健康診断をボイコットした。漫画は市民を味方に付けるため、徳田とは何者で徳洲会とはどんな組織か、子供にも分かるように伝えるプロパガンダだった。当時、小学6年生の私は「世の中には気前よくただで漫画を配る人がいるんだ」という程度の認識しかなかった。

それから時が過ぎて、鹿児島テレビに入社。報道部配属となり2年目。奄美群島のひとつ、徳之島、伊仙町長選挙を取材した。
異様だった。開票所の周囲に機動隊が盾を持って立ち住民とにらみあう。何かをきっかけに住民が開票所になだれ込み、機動隊ともみ合いになった。当時衆議院議員となっていた徳田が、奄美群島でライバル議員と繰り広げた「保徳戦争」の代理戦争の1コマだった。

それから、さらに10年以上の時が過ぎる。報道部を離れサラリーマン生活を送っていた私はテレビに釘付けとなった。そこには変わり果てた徳田の姿があった。10万人に1人の難病になり、体が動かない。表情もほとんどなく、時折、にやっと笑う。何のニュースかと思えば、沖縄・普天間基地の移転問題で窮地に追い込まれた当時の鳩山総理が徳田に相談に来た、という内容だった。まるで“フィクサー”ではないか。

そして―
平成が終わり、令和が始まった今年。“ひっかかる男”をそのままにしてはいけない気がしていた。理由は分からない。ただ、徳田虎雄とは何者だったか、何を目指したのか、何が徳田を突き動かしたのか、それを自分なりに理解しないかぎり、前に、新しい時代に進めない気がした。
取材を始めてみたが、関係者の口は重かった。徳田は今も生きていて、それに、いわゆる「徳洲会事件」で親族が次々と逮捕されてから、ほとぼりが冷めていないこともあった。しかし、時代の節目ということもあってか、徳田の実像を知ってほしい、徳田の功罪を改めて考えてほしいという関係者に会うことができた。

この番組で徳田の全てを語り尽くしているとは到底言えない。最近の「角栄ブーム」のように徳田を再評価してほしいとも思わない。ただ、もう一度、思い出してほしいだけだ。
昭和から平成にかけ「モーレツ」に生き「キワモノ」扱いされた男がいた。男を無視してはいけない。男が活躍した時代の地続きで現在がある。過去を知ることは、今を、そして、未来を知ることだ。
「徳田虎雄を知ることは未来を知ることだ」と言ったら言い過ぎだろうか。

コメント

ディレクター・川村健大(鹿児島テレビ放送報道部)

「今回の取材で、徳田虎雄本人に面会することはかないませんでした。面会したとしても難病が進行していて、意思疎通を図るのは無理だったでしょう。代わりに番組に登場しない人も含めて多くの関係者に会うことができました。1人1人が語る徳田はまさに十人十色でした。ある人は神様のように語り、ある人は口汚くののしりました。人の評価なんて、そんなものです。取材を通じて、ひとつ確信できたことがあります。人にはそれぞれ、この世に生を授かった意味“使命”があるということです。自分の“使命”に気づいた人は他人の評価を気にしません。私はというと…。44歳の今も自分の“使命”が分かりません。同い年の頃、徳田虎雄はとっくに自分の“使命”に気づいていた(あるいは“使命”だと思い込み)突っ走っていたというのに…」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『トラオの夢 病院王・徳田虎雄とその時代』(制作:鹿児島テレビ)
放送日時
10月2日(水)26時15分~27時10分
スタッフ
プロデューサー
金子貴治
野元俊英
ディレクター・構成
川村健大
編集
鍬田峻史
ナレーター
庄村奈津美
カメラ
西村智仁
AD
前島大樹
有馬賀奈子
スーパー
生田緑

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。