FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2019.8.28更新

若月元樹館長

若月元樹館長

第28回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
僕のプールにサメがいる ~室戸のキセキ・廃校水族館~

8月30日(金)27時05分~28時

廃校に子供の声…「むろと廃校水族館」を追う
混雑する水族館

混雑する水族館

高知県室戸市。電車も通らない海沿いの小さな港町に去年、小さな水族館がオープンした。
その名も「むろと廃校水族館」だ。
25メートルプールに泳ぐのは子供…ではなく、サメやウミガメ。
廃校になった小学校をうまく活用したことは瞬く間に全国で話題となった。
一方で漁師の人手不足や相次ぐ廃校と、深刻な問題は山積みだ。
廃校水族館は室戸市の一筋の光となるのか―。
水族館をとりまく人々を取材し、室戸市の今を伝える。

2018年のゴールデンウィーク、県内ナンバーを見ることすら少ない漁師町に大渋滞ができた。その正体が「むろと廃校水族館」だ。どうしてこれだけ人を集めるのか。魅力の秘密は何なのかということを取材し始めると、室戸市の現状が明らかになってきた。

廃校水族館は、1874年(明治7年)から2006年まで132年にわたって地域の子供たちを見守ってきた椎名小学校を室戸市が改修してできた。
一番の特徴は小学校をそのまま残したこと。廃校になる前、子供たちが泳いでいた25メートルプールには、サメやウミガメが悠々と泳ぐ。ペンギンやジンベエザメはいない。サバやブリのような食卓に並ぶ魚が大水槽を我が物顔で泳いでいる。夏休みには夜間学校と題し、宿題に追われる子供たちのために館内を開放。家庭科室では水族館らしからぬ魚をさばくイベント、校庭では干物を販売するイベントまで行ってしまう。
県庁所在地から車で2時間半という立地条件で、当初の年間来館目標は4万人と設定していたが、わずか3ヵ月半で達成。オープンから1年あまりで、室戸市の人口の10倍をゆうに超える20万人が来館した。全国から議員視察も相次ぎ、たびたび雑誌や本にも取り上げられた。
この水族館の仕掛け人は、日本ウミガメ協議会の理事もつとめる若月元樹さん。広島出身の若月さんは、沖縄大学1年生の時に産卵に遭遇したことをきっかけに、ウミガメの魅力にはまった。大学卒業後、3年間はサラリーマンをしていたが、その後29歳でNPO法人日本ウミガメ協議会に入り、ウミガメと生きることを決断したのだ。
そんな若月さんと廃校水族館の原点は、室戸から1400キロ以上はなれた沖縄の離島にあった。石垣島からフェリーで30分、沖縄の八重山諸島のひとつ「黒島」。そこにあるのは地元の魚だけを展示する、コストをかけずに作ったミニ水族館だった。若月さんは、黒島の研究機関と高知を行き来しながら、20年近くウミガメの研究をしていた。
当時の室戸市長がこれに目をつける。黒島まで足を運び「これなら室戸でも水族館ができる」と確信し、若月さんに室戸でもこのような水族館ができないかと相談した。しかし、室戸市議会や市役所の職員は大反対。その理由は深刻な人口減少だった。2019年、市制60年を迎えた室戸市だが、市が誕生した1959年には3万人を超えていた人口は、現在半分以下の1万3千人になった。2018年には病院が閉院。駅はない、高速道路もない。「観光客誘致に効果を上げないナンセンスな事業」「無駄な投資」という声があがり、誰もが反対した。
そう、一見華々しいサクセスストーリーに見えるが、廃校水族館は計画当初大きな苦悩があったのだった。少なく見積もっても数十億円がかかる水族館建設だが廃校水族館にかけられるお金は、わずか5億円。しかし若月さんには、ローコスト水族館を作るための武器があった。それは廃校というツール。廃校を全面に押し出し、ノスタルジックで楽しいアイデアを次々に生み出した。

漁師の安岡幸男さん

漁師の安岡幸男さん

そしてこの廃校水族館のスタッフの奮闘に最初にこたえたのは、意外にも当初は反対の声をあげていた地元の漁師たちだった―。
若者がどんどん減り学校もなくなっていく室戸で、廃校水族館は希望の光となりうるのか。全国で少子高齢化が進み、年間500校も廃校となっていく中、新たなモデルケースである水族館が私たちに伝えることとは。

普段、ドキュメンタリーをあまり見ない人にもぜひこの番組に触れてもらいたいとの思いから、ナレーションは高知県出身の人気声優・小野大輔さんに依頼した。少年のような楽しいフレーズやぬくもりある語りをお楽しみいただきたい。

コメント

ディレクター・構成:正木麻由(高知さんさんテレビ報道制作部)

「小学校の頃、私はプールの授業中に“ここでサメが泳いでいたらどうなるかなあ”と想像したことがあった。この子供の空想のような世界を実現させたのが“むろと廃校水族館”だ。
足を一歩踏み入れると誰もが童心にかえることができる。廃校に老若男女の声が響くというのはなんとも不思議で愛しい現象だ。“廃校は寂しい、つらいだけのものではない。元々は子供の声がたくさん聞こえた学校なのだから”と、ひょうひょうと話す廃校水族館の若月元樹館長は、ものの見方はひとつじゃないということを教えてくれた。そして、館長を支える地元漁師たちは、物事を柔軟に考え受け入れることの大切さを周りの人に懸命に伝えている。
廃校が“お荷物”ではなく地域の可能性を秘めたワクワクする場所になった。むろと廃校水族館の物語には毎日が楽しくなるような様々なヒントが詰まっている。ぜひ肩の力を抜いて、小さな漁師町に起きた奇跡を一緒に楽しんでいただけたらと思う」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『僕のプールにサメがいる ~室戸のキセキ・廃校水族館~』(制作:高知さんさんテレビ)
放送日時
8月30日(金)27時05分~28時
スタッフ
プロデューサー
明神康喜(高知さんさんテレビ)
ディレクター・構成・撮影
正木麻由(高知さんさんテレビ)
ナレーター
小野大輔(声優・高知県出身)
編集・MA・撮影
山本大地(MAD LAB.)
CG
山崎晴奈(MAD LAB.)
撮影
  • 向山淳一
  • 川田卓史
  • 澤村智久
  • 氏原一晃
  • 中岡元樹
技術協力
四国東通、映像工房
ドローン
鎌倉久也(高知ケーブルテレビ)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。