FNSドキュメンタリー大賞

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2019.7.15更新

原発とともに生きた双葉町の歴史

福島第一原子力発電所

福島第一原子力発電所

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
福島県双葉町 ~原発と生きるということ~

7月16日(火)26時40分~27時35分

反原発から容認へ、元町長の思いに迫る
町長時代の岩本忠夫氏(元・双葉町長)

町長時代の岩本忠夫氏(元・双葉町長)

福島県双葉町は東京電力福島第一原発がある町だ。20年に渡って双葉町長を務めた岩本忠夫氏(享年82)には「功労者」と「裏切り者」、2つの相反する評価がつきまとう。理由はかつて反原発を訴えていた岩本氏が、町長就任後は原発を容認、そして増設へと主張を変えたからだ。原発事故から4か月後に何も語らないまま亡くなった岩本氏はどんな思いだったのだろうか?その答えを見つけるために岩本氏が歩んだ道をたどった。

福島県双葉町は東京電力福島第一原子力発電所が立地する町だ。あの東日本大震災と原発事故から8年が経過するが、約7000人の双葉町民は全国各地に離れ離れとなった状態で避難生活を余儀なくされている。

岩本氏は昭和60年から5期20年間にわたって、「原発の町」双葉町の町長を務めた人物だ。原発事故をきっかけに全国的に知られることになった「原子力 明るい未来のエネルギー」というアーチ状の大きな看板を双葉町のメインストリートに設置した人物でもある。岩本町長時代の双葉町は着実な発展を遂げた。岩本氏はまさに双葉町の功労者だ。その一方で岩本氏をめぐって必ず付きまとうのが「金に目がくらんだ裏切り者」という批判的な声だ。それは岩本氏が昭和40年代から福島県内各地で繰り広げられた反原発運動のリーダーを務めていたからに他ならない。旧社会党から福島県議会議員にもなった岩本氏はまさに反原発の急先鋒として注目を浴びた。しかし、原発という新たな産業の誕生に沸く地元・双葉町からの反発や、社会情勢の変化もあって反原発運動は急速に衰えていった。また県議会議員を3回連続で落選したこともあって岩本氏は表舞台から姿を消した。

双葉町長として再び注目を浴びるようになった岩本氏は「原発の容認」そして「原発の増設」と、反原発運動のリーダーだった当時から主張を180度転換させた。岩本氏は当時、主張の転換の理由について「町民の1人1人の声に耳を傾けた結果だ」と説明していた。平成14年に開催された会合の中で岩本氏は原発との共存について「避けることのできない“運命”」と表現している。

双葉町長を引退し、悠々自適の生活を送っていた岩本氏を襲ったのが東日本大震災と原発事故だ。2011年7月に避難先で亡くなった岩本氏は最期まで原発事故について一切、語ることはなかったという。

岩本氏はどうして反原発から原発推進へ主張を変えたのだろうか?そして原発事故によってふるさと双葉町から避難するとき、一体どんな思いだったのだろうか?その思いを探るため岩本氏を知る様々な人々の証言をもとに岩本氏が歩んだ道をたどった。

岩本氏の長男・久人氏(61)は双葉町議会議員を務めている。選挙では3回連続でトップ当選を果たすなど双葉町における「岩本家」は今なお、特別な存在だ。双葉町の復興に向けて奔走する毎日を送る久人氏だが父についてはこれまでほとんど口を開くことはなかった。それは父の存在があったからだ。久人氏の言葉には反原発から推進へ転じた父への思い、そして常に父と比較されてきた息子としての葛藤が感じられた。

福島県いわき市で避難生活を続ける双葉町民の河野弘幸氏(52)は福島第一原発で働くようになって30年になるベテランの原発作業員だ。そして今も避難先から毎日のように福島第一原発へ通って、これから40年かかるともいわれる廃炉作業にあたっている。原発作業員だった河野氏の父・清二氏(享年75)はかつて原発での仕事を求めて東京から双葉町へ移住してきた労働者の1人だ。長年住み慣れたふるさと双葉町にある自宅の取り壊しが決まった日、河野氏は福島第一原発へ通い、廃炉作業にあたる理由を語った。それは原発で生計を立ててきた自分にできる「せめてもの贖罪」だという。

岩本氏の後を受けて双葉地方原発反対同盟の代表に就いた石丸小四郎氏は岩本氏から託された原稿用紙20枚に及ぶ手記を今も大事に保管している。そこには岩本氏からの警告と決して変わることのなかった思いが記されていた。

原発事故前の双葉町にある看板

原発事故前の双葉町にある看板

父の墓参りをする岩本久人氏

父の墓参りをする岩本久人氏

コメント

制作担当・小野田明(福島テレビ報道部)

「“原子力 明るい未来のエネルギー”。原発事故以前、町の象徴ともに言える看板に書かれていたこの言葉の意味を考えたこともありませんでした。福島県双葉町は私が生まれ育った町です。あの事故以降、原発とともに歩んできた町だからこそ“もう過去のことだから”と双葉町と原発の歴史について口を閉ざす人も少なくありません。そうした思いも知りながら、原発反対から推進へと立場を変えた双葉町の元町長、故・岩本忠夫さんを取り上げることは、ある種のタブーのようにも感じていました。原発とともに生きた双葉町の歴史は間違いだったのか。そうした問いを持ちながら取材を続ける中で、“転換”とも見えた岩本さんの変化の根底には、今を生きる人たちにも共通する“故郷のために”という一貫した信念があったことを知りました。双葉町の姿を通して、原発についてはもちろん、それぞれの地域に生きるということについて考えるきっかけになればと思います」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『福島県双葉町 ~原発と生きるということ~』(制作:福島テレビ)
放送日時
7月16日(火)26時40分~27時35分
スタッフ
ナレーション
窪田等(シグマセブン)
取材
小野田明(福島テレビ)
撮影・編集
  • 安倍寛人(福島映像企画)
  • 高木寿保(福島映像企画)
映像統括
長瀬勝喜(福島テレビ)
MA
新國伸太郎(福島映像企画)
CG
一條和央理(福島映像企画)
構成・プロデューサー
菊地昭洋(福島テレビ)
制作著作
福島テレビ株式会社

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。