FNSドキュメンタリー大賞

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2019.7.14更新

障がいの有無に関わらず共に暮らす社会とは

自閉症と重度の知的障がいを抱えている荒城恵良

自閉症と重度の知的障がいを抱えている荒城恵良

第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
この子の未来~共生社会の現実~

7月10日(水)27時~27時55分

「地域で生きたい…」という願いは?
障がいを抱えながらも地域で生きていってほしいと願う母・和恵

障がいを抱えながらも地域で生きていってほしいと願う母・和恵

年齢や障がいの有無に関わらず、住み慣れた地域で誰もが暮らせる「共生社会」実現に向けた取り組みが動き出している。富山県でも、障がいがありながら地域で生きたいと願う家族がいる。自閉症と重度の知的障がいがある子どもを育てる家族の1年を追ったドキュメンタリー。その願いをかなえたいと奮闘する家族を支えるものとは。富山県の「共生社会」の今を見つめた。

制作のきっかけは、私自身子供を授かったことである。1歳半検診、3歳児検診で、発達障がいや、発達が気になるとされる子供が増えていることを知った。親にとって子供の成長は誰しも気がかりなこと。富山市保健所の事業概要をのぞいてみると、1歳半検診で有所見者、つまり発達が気になるとされた子どもは、2017年で30%を超えるという驚くべき数字だった。3人に1人だ。10年ほどで10%以上増加している。健診する医療のスクリーニング技術などの向上もあるが、以前は変わった子と呼ばれていた子供が、発達が気になる。さらには発達障がいだと、多くの子供たちに「障がい」と名がつくことに疑問を感じた。

そこで去年、発達障がいをテーマに富山県内の医療や福祉、教育現場の今を取材し、報道番組内で放送を続けた。その取材対象者を探す中で出会ったのが、母親の荒城和恵と息子の恵良(けいすけ)である。恵良は、発達障がいのひとつである自閉症。さらに重度の知的障がいがあり、話すことができない。継続取材の許可をもらい、取材を続けていく中、和恵の強い思いを知る。「地域で生きたい…」。年齢や障がいの有る無しに関わらず、住み慣れた地域で暮らせる社会「共生社会」の実現を求めていた。恵良は去年、就学にあたって、暮らしている地域から離れている、かつて養護学校と呼ばれていた特別支援学校を薦められたものの、和恵は、教育委員会や小学校と粘り強く交渉を続け、地元の小学校に通うことを選択した。重度の知的障がい児の受け入れが初めてだった小学校は、発達の特性に応じて必要な支援をする特別支援学級を増やし、対応にあたる。

共生社会の“難しさ”と“現実”
桜並木を歩く、恵良と和恵

桜並木を歩く、恵良と和恵

こうした「共生社会」実現に向けた、障がいの有無に関わらず、共に学ぶ教育システム「インクルーシブ教育」は、2006年に国連で採択されてから、日本でも取り組みが進んでいる。障がいがあっても、学びたい場所を選択しやすくなり、本人や保護者の意見が尊重されるようになった。しかし恵良を受け入れた小学校は、夏休み直前に突然和恵に、特別支援学校への転校を打診する。初めての重度の知的障がい児の受け入れ、ノウハウが足りず、恵良の教育環境としては、最適ではないという判断だった。和恵は言う。「勉強だけがすべてじゃない。生きるために学ばなければならないことがある。親亡き後、恵良がここで暮らしていけるように。今、地域とのつながりをつくらなければ…」。確かに恵良は、一般の子供に比べたら人の支援が必要である。しかし、地域で生きていくために地元の小学校に通わせたいと願う母親の思いは、かなわないのか。「共生社会」の現実を見た。そこで番組では、ここに焦点をあてることにした。

私はこの1年、荒城家をはじめ、多くの障がいがある子供を育てる家族と交流を重ね、テレビを通して声をあげることは決して容易ではない内容であることも痛感した。それでも「私が声をあげることで何かが変わるきっかけになれば」と協力してくれた多くの人たちがいた。個性と呼ばれれば響きは悪くないが、それが障がいとなると、受け入れられなくなる。これまで見えていたものがまったく違うものに見えてしまう。子供の成長を、障がいの特性としてみてしまう…。これは子供が障がいなのではなく、社会に障がいがあるのではないか。多数派が少数派の人たちを、形のない普通やルールに当てはめようとしているのではないだろうか。番組では子供を愛する1人の母親の思いを通し、富山県の「共生社会」の今をみつめる。

コメント

ディレクター・伊藤恵祐(富山テレビ報道制作部)

「普通やルールってどうやって生まれるんでしょう。そこに当てはまらない人は、どうしたらいいでしょうか。今、年齢や障がいの有無に関わらず、誰もが住み慣れた地域で共に暮らす『共生社会』の実現へ取り組みが進んでいます。多様な人たちがみんな一緒に。それはおそらく普通ではないと感じるかもしれません。なぜでしょう。それを解消するためには、理解です。言葉で語るのは簡単ですが、理解するのは難しい。そのためには何が必要なんでしょうか。1年間取材を通して、考え続けました。この番組は、愛する子供のために奮闘する1人の母親の声です。理解できなくても、知っていただけたら。そんな思いで取り組みました」

番組概要

タイトル
第28回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『この子の未来~共生社会の現実~』(制作:富山テレビ)
放送日時
7月10日(水)27時~27時55分
スタッフ
制作統括
奥田一宏(富山テレビ放送 常務取締役報道制作局長)
プロデューサー
四津谷裕昭(富山テレビ放送 報道制作部部長)
ディレクター
伊藤恵祐(富山テレビ放送 報道制作部 アナウンサー)
撮影
宮田博之(富山テレビ放送)
ナレーター
伊藤恵祐(富山テレビ放送 報道制作部 アナウンサー)
MA
壁毅(富山テレビ放送 技術部部長)
美術
右近千代美(富山テレビ放送)
CG
山下敏治(富山テレビ放送)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。