FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.9.27更新

高校生が学んだかけがえのないものとは

第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
島は学び舎“教育の橋”をかけた離島から

10月16日(火)26時25分~27時20分

瀬戸内海に浮かぶ、広島県・大崎上島。この島唯一の高校は、急速な少子高齢化で生徒数が減り、廃校の危機に直面していました。しかし、2017年春、“奇跡のV字回復”を成し遂げ、生徒数が増加。やってきたのは県外からの生徒たちでした。また、町が設立した「公営塾」では、講師となった若者が奮闘します。「教育」という島おこしを始めた島を舞台に、進路という人生の岐路に立つ生徒たちの姿を通して、人口減少が進む地域の新たな姿を考えます。

生徒数が“奇跡のV字回復” そのカギは「公営塾」

広島県は多くの島しょ部と中山間地域を抱え、人口減少が急激に進んでいます。大崎上島もその一つです。過疎が進む島で、高校生という若者が増えるという逆転現象。そこに、地域の将来につながる可能性を感じ、この島を選んだ高校生たちを取材したいと考えました。

生徒数の減少により廃校の危機に直面していた広島県立大崎海星高校。離島にあるこの高校のなかに、3年前、町立の「公営塾」が作られました。授業料は無料。進学希望の島の子どもたちが、より学習環境の整った島外の高校に行くのを食いとめるためです。

2017年の春、首都圏から若い講師が新たに「公営塾」に着任するという話を聞きました。大学を卒業したばかりの都会の若者が島にやってくるという話を取材しようと島を訪れると、大崎海星高校では、なんと、この年から生徒数が急に増え、“奇跡のV字回復”ともいえる現象が起きていました。その理由は、県外からも入学する生徒が来たこと、そして、島内の中学を卒業しても島外には出ず、この高校を選ぶ生徒が増えたことでした。

島外の人を引き寄せる魅力とは…。

この年、島外から島の学校にやってきた生徒は10人あまり。そのうち県外からの生徒は4人です。彼らは離島の不便さに不平を言うよりも、島独自の文化や人の温かさに価値を置き、日々を過ごします。そのうちの一人、大阪から来た女子生徒は、中学の修学旅行で島に来て民泊したことがきっかけで、この高校を進学先に選びました。あまりにも遠いと両親が反対するなか、島に魅力を感じる彼女の思いとはどのようなものなのでしょうか。

さらに、町が設立した無料の「公営塾」には、島に魅力を感じる若者たちが講師として集い、学力面で高校をサポートするべく奮闘します。島の生活にあこがれ去年4月にやってきた男性講師は、関東の大学を出たばかり。しかし、毎日のように生徒と向き合ううち、自身の今後の人生を深く考えるようになりました。そして出した答えは、島を出るという選択。この方向転換に、温かく迎えてくれた島の人や生徒たちはどう反応するのでしょうか。この選択に、島の人は寛容でした。来るものは拒まない、去る者は快く送り出すという、島に根付いた規範があるようでした。

この大崎上島では、小学校から授業で自分たちの島について学びます。“島の良さ”をちゃんと知っていれば、たとえ一度島を出ることになってもいつかは戻ってくる、という大人たちの思いからです。大崎海星高校の生徒たちも、“島の良さ”を知るために、IターンやUターンした人たちへの取材を始めます。そしてそこで学んだ魅力を、島の外でアピールする活動に乗り出します。

島を出るという人生の選択。

高校生は自分の将来を考える大切な時期でもあります。保護者と考えがくいちがう生徒もいました。かんきつ農家を営む祖母とふたり暮らしの女子生徒。おばあさんの面倒を見るために将来は島に戻りたいという彼女の思いに、祖母は意外にも反対します。戻ってきてもここには仕事がないという、厳しい現実を知っているからです。

将来のため、島を出ていくという選択を現実的に考え始めた男子生徒もいました。地元では職業の選択肢が限られてしまう。彼が抱いた大きな夢は、島の外ではなく、他の国。海外の子どもたちに教育を届けたいという熱い思いでした。

“教育での島おこし”を掲げる大人たちがいる一方、島を離れた卒業生たちは「島は好きだけど、戻るすべ(仕事)がない」と嘆きます。この言葉に、過疎の島が置かれた状況が端的に表れています。その島で、変わりつつある高校で、若者たちはそれぞれの橋を渡りはじめます。進路という人生の岐路に立つ高校生の揺れ動く思いとともに、これからの地域の進むべき方向を問いかけたいと思います。

ディレクター・田中浩樹(テレビ新広島報道部)

「取材した高校のある大崎上島は、実は県内でも屈指の移住人気の高いまちです。それもそのはず、島で取材を進める中でまず感じたのは、よそ者に寛容なことです。“教育の島”であることだけでなく、この寛容さこそが過疎高齢化の課題を解決する糸口になるのかもしれません。

番組は高校に関わる若者4人を軸に構成しています。行政や学校の先生、地域おこしの住民といった大人たちの試みは、主体的に生きる若者の存在をクローズアップするために編集初期の段階でやむなくカットしました。彼らはこれから進路という人生の大きな岐路に立ちます。島の可能性と現実に向き合う若者のひたむきさや、もどかしさは現在も進行中です。これから学校と島がどうなっていくのか、番組が過疎地の課題と可能性を考えるきっかけになれば幸いです」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『島は学び舎“教育の橋”をかけた離島から』(制作:テレビ新広島)
放送日時
10月16日(火)26時25分~27時20分
ナレーション
吉行和子
スタッフ
プロデューサー
横川慶治(テレビ新広島)
ディレクター
田中浩樹(テレビ新広島)
構成
平和紘
撮影
山本龍 藤本敏司(TSSプロダクション)
編集
山本龍(TSSプロダクション)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。