FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.9.24更新

天空の駅の最後の春、そしてその先に

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
宇都井の老人と蜘蛛男~三江線はなくなっても~

10月2日(火)26時35分~27時30分

島根県の江津市と広島県の三次市を結ぶように流れる「江の川」に沿って、108キロの線路が続くローカル線「JR三江線」。昭和5年に一部区間が、昭和50年に全線が開通し、地域の足の誕生を沿線の人々は盛大に喜びました。しかし、自家用車の普及と共に利用者数は減少の一途。この赤字続きの路線を、JR西日本は2018年3月31日を最後に廃止と決めました。少子高齢化、過疎化の進む山間の町から、鉄道までも奪われることになりました。ところが皮肉なことに、廃線の決定が報道されると、JR三江線に乗る人や、写真を撮りに訪れる人が全国から押し寄せました。別れを惜しみやってきたのは、地元の人、鉄道ファン、それに加えて、インターネットで廃線になると知り、観光感覚で訪れる人たちでした。かつては「ローカル線の廃止」といえば鉄道ファンなどの一部の人たちだけのイベントでしたが、SNSが普及し、「写真映え」が求められる今、ひとつの「ブーム」になってしまいました。

JR三江線のなかでも、ひときわ人気の駅が島根県邑南町にある「宇都井駅」。地上から20メートルと、日本一の高さにホームを構える「天空の駅」として親しまれていて、ホームに上がるには116段の階段をのぼるしか手段がありません。利用者数はわずかな無人駅ですが、その特徴から三江線のシンボルのような存在になっています。この駅を使っている一人のおばあさんがいます。邑南町内に住む松島喜久恵さん。92歳にして116段の階段を上がります。買い物や、温泉施設に行くために列車に乗るほか、待合室にノートを置いて、駅を訪れた人がコメントを書き込めるようにしています。松島さんはこのノートを通して全国の人たちと交流をし、書き終わりには、「宇都井の老人」と記す。これが生きがいですが、三江線の廃止で宇都井駅には入れなくなることに。

そして宇都井駅を中心に活動するもう一人。同じく邑南町に住む野田佳文さん51歳。世界的映画のキャラクターのコスチュームを着て、「蜘蛛男」となり、ツイッターやインスタグラムといったSNSで地元の魅力を発信しようとしています。自発的に始めた活動で、報酬などは無しのボランティア。蜘蛛男になろうと思った理由は、地元にかつてあった山城「雲井城」をクモが守っていたという伝説を知り、地元を守るイメージキャラクターとしてクモがいいと思ったからでした。そしてJR三江線が廃線間際に盛り上がりを見せると、訪れる人々をもてなそうと、蜘蛛男の姿で沿線に出没し、観光客たちと写真を撮るようになりました。三江線が廃止になったとしても地元と人々とのつながりを残し、広げていきたいと、SNSを使って地道ながらも奮闘しています。

松島さんのノートと、野田さんのSNS。それぞれのやり方で三江線最後のときを盛り上げるも、3月31日、廃線の日がやってきてしまいました。ブームになり、一時はいまだかつてないほど人が訪れた三江線沿線ですが、廃線と共に人は来なくなり、いつかは存在も忘れ去られてしまうのでしょうか…。過疎化の止まらない山間の地域で、ローカル線の廃止を通し、人と人とのつながりについて考えます。

コメント

ディレクター/ナレーター・山下桃(山陰中央テレビ)

「人は、なぜ人とコミュニケーションをとりたいと思うのだろう。取材をしながらそんなことを考えました。スマートフォンの急速な普及と共に、私たちはいつでも世界中の人とコミュニケーションがとれたり、たくさんの情報を得ることができるようになりました。そんな時代に、手書きのコメントで埋め尽くされた松島さんのノートには、純粋な“交流したい”“だれかとつながりたい”という思いが詰まっていました。一方で、三江線のようなブームには集まるけれど、ブームの終わった後は無関心というのも人間の一つの心理かもしれず、廃線後に取材した野田さんの言葉が胸に刺さりました。“三江線が終わったらやっぱり終わりなんですか。もう来ないんですか?”マスコミの痛いところをつかれた気がして、この気持ちを忘れてはいけないと思いました。三江線はなくなっても、この山間の地域の人々の生活は、続いています。」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『宇都井の老人と蜘蛛男~三江線はなくなっても~』(制作:山陰中央テレビ)
放送日時
10月2日(火)26時35分~27時30分
スタッフ
プロデューサー
古川淳(山陰中央テレビ)
ディレクター/ナレーター
山下桃(山陰中央テレビ)
撮影
  • 野田貴
  • 前田紀次
  • 柳瀬友美
MA
眞坂聡美
音効
金子寛史

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。