FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.8.10更新

山里唯一の医療機関 住民守る医師の覚悟

第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
けさない灯り 山の診療所

8月22日(水)26時50分~27時45分

「ここ3年で初診はゼロ 経営は成り立たない」静岡市の山あいの集落・梅ヶ島で唯一の医師、瀧浪慎介先生は現状を嘆きます。一日の患者数は平均10人、“公設民営”の診療所は赤字が続いていました。山の診療所、通う住民もさまざまです。山の暮らしが忘れられず、週末だけ帰ってくるおじいさん。天空の茶園に住む老夫婦。先生はそんな住民の生活を18年守ってきました。住民の健康を守る“灯り”をともし続ける先生の覚悟と、住民の思いを描きます。

過疎・高齢化が急速に進む山間地“唯一の診療所”

玄関口で迎えてくれるのが、地域で唯一の医療機関“梅ヶ島診療所”です。番組の主人公は、診療所で働く瀧浪慎介先生55歳。この地の医療をひとりで担っています。山間地の住民の暮らしに興味があり、情報を集めていたところ、「30代の時から20年近く、山間地の医療をひとりで守っている医師がいる」という話を聞いて、取材を申し込んだのが、番組制作のきっかけとなりました。

梅ヶ島は60年ほど前から人口が減り続け、過疎・高齢化が急速に進む地域、診療所は、市からの補助金がなければ、毎年1000万円の赤字です。先生の性格は“三日坊主で面倒くさがり”、夕食はメニューを考えるのが嫌で、毎日コンビニのカット済み野菜だけ…。そんな先生が、なぜこの地を去ろうと思わないのか、山間地の医療がより厳しさを増していく中、この地にかける先生の思いとは…?

先生だけでなく、診療所に通う患者の生活も描いています。標高500メートル、山の中にぽつんとある家で暮らす80代の老夫婦。買い物など用事があるたび、急な山道を30分歩かなければなりません。それでもこの地を離れず、日々支え合いながら暮らしている2人の生き方や、他にも高齢で普段は街で暮らしていますが、山仕事が好きで、週末だけ帰ってくるおじいさんや住民のために週6日ひとりで店を開け続ける90歳の雑貨店店主など、魅力的なお年寄りがたくさんいます。梅ヶ島の住民の生き方から、「老後の幸せとは?」を考えるきっかけになるかもしれません。

先生がどうして梅ヶ島の医師として働く決心をしたのか、本人や住民の当時の思いや葛藤はどのようなものだったのでしょうか?梅ヶ島で生まれた先生の父も医師で、この地で15年間住民の健康を守っていました。父が働いていた昭和30年代、梅ヶ島には今よりずっと多くの人が住んでいて、診療所は休む暇もありませんでした。その姿を追い医師を志した先生ですが、学生の時に父が急死します。父の遺言がその後、先生を悩ませることになりますが、梅ヶ島の住民のある行動によって、梅ヶ島で医師をやる事を決意します。その心情の揺れ動きを映像表現で工夫しています。

タイトルの“灯り”とは…?

山間地医療の“灯り”を絶やさないという意味ともうひとつ意味があります。街では至る所に“灯り”があるため、ひとつひとつを気に掛ける事は少ないかもしれません。しかし梅ヶ島では、街灯も少なく、家と家の距離が遠いため、それぞれの家の“灯り”は夜空に輝く星のように目立つ存在です。先生と住民にとってこの“灯り”こそが、夜、安心を得られる大切な要素となっています。そんな“灯り”を通した先生と住民の心のつながりにも注目です。

全国にも梅ヶ島と同じように、過疎・高齢化が進む集落がたくさんあると思います。私たちはこういった集落に、“悲しさ”や“寂しさ”など、マイナスの先入観を持っていないでしょうか。梅ヶ島には、厳しい環境の中で、支え合って日々を暮らしている住民、元気がない地域のために何かできることはないかと考えている住民、そんな住民がいつも通りの生活をおくることができるように支え続けている医師がいます。集落がなくなってからでは遅い、互いの事を思い、支え合うことによって、生きる覚悟を強くしていく、山里の医師と住民の姿から、私たちが忘れてはいけない大切な思いが見えてくることでしょう。

コメント

ディレクター・杉村祐太朗(テレビ静岡 報道制作局報道部)

「『過疎地の医療…』企画書を書いたものの、正直難しいテーマを選んでしまったと思いました。実際に番組を任せられ、取材を進めていくと、よりその難しさを実感しました。診療を撮影していると、患者さんの中には緊張のため、血圧が上がってしまう人もいます。医療に支障をきたしてしまう、でも撮影は続けなければいけない、そのはざまで葛藤がありました。

また、先生は常に忙しい人で、最初はほとんど時間を割いてくれませんでした。ドキュメンタリーの制作は初めてだったため、どう取材を進めていけばいいのか悩みました。“少しでも長く、一緒に過ごすしかない!”一週間梅ヶ島に泊り込み、診療所に通い詰めました。最終日の夜、先生がそっと山間地医療への思いを話してくれた時、人の人生を追うという大変さの中に大きなやりがいを感じました」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『けさない灯り山の診療所』(制作:テレビ静岡)
放送日時
8月22日(水)26時50分~27時45分
スタッフ
プロデューサー
舘石昌宏(テレビ静岡)
番組統括
河村悦代(テレビ静岡)
ディレクター
杉村祐太朗(テレビ静岡)
ナレーション
鈴木博紀(青二プロダクション)
構成
関盛秀
撮影
  • 杉本真弓(テレビ静岡)
  • 江間達(富士テレネット)
音声
  • 平松宏之(テレビ静岡)
  • 山田育美(テレビ静岡)
編集
山﨑有希乃(テレビ静岡)
効果
望月厚宏(富士テレネット)
制作
テレビ静岡

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。