FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.10.11更新

一風変わった恩返し…人々が手にしたのは?

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
生きるよすがを求めて~映画監督 村川透のふるさと納税~

9月28日(金)27時50分~28時45分

数々のアクション作品を手掛けた映画監督がふるさと・山形県村山市に小さなホールを作りました。地域の人たちが文化や芸術に触れられる場になればと、私設のホールは誰にでも格安で開放されていますが、本当の狙いは別にありました。「自分でやってみることの楽しさと難しさ」を知り、人生を豊かにする生きがいを作ってもらう。スクリーンを通してあまたの“娯楽”を提供してきた名監督の志を踏まえ、かつてのにぎわいを無くした街に、たくさんの“元気”が生まれようとしています。

「人が集まると何かが生まれてくる」、「何かやっていかないと」2017年11月、映画監督の村川透さん(80)は山形へと居を移しました。ふるさとの村山市は全国の地方都市同様に元気をなくしていて、60年前から人口は4割減少しています。そんな現状を憂いながらも、田舎のために何もしてこなかったという後悔がありました。

実は村川監督は4年前、音楽家の兄とともに、東日本大震災で損壊した生家を私設ホール「アクトザールM.」に改装し、市民に開放していました。そこでは村川さんの人脈で奏者を招いたジャズ演奏会や、全国からファンが駆けつける村川作品の上映会、そして住民が企画するうたごえ合唱会などが開かれています。どの催しも参加者を楽しませようと趣向を凝らしていますが、村川さんは自分で奏者を招いた時以外は積極的に関わろうとしません。そこには村川さんなりのホール運営に関する哲学があり、それこそが「ふるさとに本当に贈りたいもの」だからです。

その哲学は、村川さんが60年にわたる映画人生で学んだことでした。村川さんは大学卒業後に日活に入りますが、すでに時代は映画が斜陽。会社がロマンポルノに舵を切るようになると、村川さんは「これでいいのか」と自問自答した末、30歳を過ぎたころ山形に帰郷します。受け入れたのは義父で、のちに人間国宝となる鋳物職人の高橋敬典さん。ともに仕事をする中で、「こだわったものは最後まで突き詰めて自分で良しとするまでやる」という職人の気構えを教わりました。その後、旧知のプロデューサーから、テレビドラマ『大都会』の監督に誘われた村川さんは、「自分で良しとするまでとことんやろう。絶対にへこたれない職人でありたい」と心に決め、再び上京しました。『大都会』で監督業に復帰する際、村川さんはもう一つ心に決めていたことがありました。それは俳優・松田優作さんと仕事することで、当時傷害事件を起こし謹慎していた優作さんを、周囲が様子見を決め込む中、起用しました。村川さんは監督ではありますが、作品のテーマさえ外さなければ、セリフを変えようが何をしようが構わないという信念があります。優作さんはその期待にいつも応えてくれ、二人は『最も危険な遊戯』、『蘇える金狼』、『野獣死すべし』といったヒット作を連発します。「役者が自由に発想し、見る人を楽しませる」という考えは、今のアクトザールM.にもつながっています。

その優作さんは40歳で急死し、長年コンビを組んだカメラマン・仙元誠三さんも今、余命1年と宣告されたがんと闘っています。旧友を見舞った後、村川さんは自らの死生観について「森羅万象すべてに定めがある。だから自分は死を全然恐れていない」と話します。つまりそれは「死ぬまで生きる」、「とことんやる」ということが自分らしい最期であり、アクトザールM.を通じた恩返しこそが“生きるよすが”として全うしていくべきことという覚悟の表れでした。そのアクトザールM.は、近所の人や趣旨に賛同したボランティアなど約20人のスタッフが中心となって運営しています。彼らは村川さんの哲学に基づいてさまざまな趣向を凝らしたイベントを行っていますが、実際の運営はまだまだ発展途上。また地域の活性化には世代を超えた交流が欠かせませんが、参加者は高齢者が多い。さらに資金面の課題もあり、光熱費や税金など年間50万円を超える維持費は全て村川さんが負担しています。アクトザールM.の建物そのものと運営の哲学をいかに次の世代に引き継いでいくのか。村川さんはその恩返しに道筋を付け、それを見届けようとしています。大好きなふるさとが再び元気を取り戻すと信じて。

今、日本は「人生100年時代」とも言われ、「自分らしい最期とは何か」と多くの人が自身の人生と向き合い答えを探しています。番組では、映画監督・村川透の一風変わったふるさとへの恩返しを通して、人生のよりどころを持つ大切さを考えます。

コメント

ディレクター・大友信之(さくらんぼテレビ報道制作部)

「村川監督はこれまでテレビの取材をすべて断ってきました。山形でも人となりを詳しく知る人は決して多くありません。山形に戻ってくるタイミングで取材を依頼したところ、快く受けて頂きました。山形では監督の“エネルギッシュな活躍”を数多く取材できると考えていました。しかし、いざふたを開けてみると、実際はイベントに参加するだけ。あとは粘着コロコロで掃除をして音楽を聴き、車いじりをするだけ。
“シーンが撮れない、どうしよう”と気持ちが焦るばかりでした。“何もしないことが人の為になる”ということに気が付くまで多くの時間がかかりました。監督は“人生は人と出会って別れる旅”といつも話していました。何かをやりたいとの思いを行動に移せば、会うべく人と出会い、運命が変わっていく。それを経験してほしいということが“ふるさとへの恩返し”と気づいた時、ずっと心の奥にしまっていた松田優作との出会いをカメラの前で語ってくれました」

番組情報

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『生きるよすがを求めて~映画監督 村川透のふるさと納税~』
(制作:さくらんぼテレビ)
放送日時
9月28日(金)27時50分~28時45分
スタッフ
プロデューサー
佐藤武司
ディレクター・
撮影・編集
大友信之
音効
角千明(ヴァルス)
MA
市原貴広(ヴァルス)
CG
佐藤哲哉
ナレーション
田中秀幸
制作著作
さくらんぼテレビ

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。