FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.10.29更新

15歳の少女がみた、リアル沖縄とは…。

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
菜の花の沖縄日記

11月7日(火)26時50分~27時45分

石川県から沖縄の学校に入学するためやってきた坂本菜の花さん、15歳。人々との交流を通して彼女は、この島ではずっと「戦争」が続いていることを肌で感じ取ってきました。こうした体験を故郷の新聞のコラム「菜の花の沖縄日記」に書き続けました。希望の島で、15歳の少女がみた、リアル沖縄とは…。

この作品は、基地政策によって人々の暮らしが脅かされる沖縄の現実…、その中にあって希望を抱き、生きる若者を追ったドキュメンタリーです。

沖縄の基地問題を提起する番組は、既視感との闘い。当初、基地あるが故に繰り返される事件事故、その被害者の声を届ける内容の企画書を書きました。しかし、それだけでは人々に共感してもらえる番組にはなりません。どうすればいいのか…考え続けた結果、出した答えは“若者の視点”で描くということでした。

とはいえ、取材を始める前も始めてからも、本当にカタチになるのか不安で不安でたまりませんでした。でも、沖縄のメディアに身を置くひとりとして、この現状をただ通り過ぎるわけにはいかない…その思いだけで突っ走りました。

主人公に選んだのは、那覇市にあるフリースクール・珊瑚舎スコーレに通う、石川県からやって来た坂本菜の花さん。出会いのきっかけは、3年前、彼女が通うフリースクールに併設されたお年寄りが通う夜間中学を取材したことです。その際に学校の掲示板で、菜の花さんが書いたコラム「菜の花の沖縄日記」(北陸中日新聞掲載)第1号を目にしました。タイトルは「おじい、なぜ明るいの?」。そこには、菜の花さんが中学3年生にして、オスプレイヘリパッド建設反対運動が続く東村高江集落をこの目で見たいと思い訪れたこと、そして、出会った人々と交流を通して感じたことが素直な言葉でつづられていました。それから3年間、彼女はいろんな人と出会い、さまざまな場所に自ら足を運び、感じたことを書き続けました。高江、辺野古、そして、米軍属による女性暴行殺害事件に至るまで…。事件で犠牲になった20歳の女性と歳が4つしか変わらない坂本さんが紡ぐからこそ、その言葉は重く、読む人の心を揺さぶるものでした。

また、彼女が通う学校に併設された夜間中学に通うのは、73年前の戦争で子どもの頃学ぶ機会を奪われたお年寄りたち。そうした人々との交流を通して彼女は、沖縄では「戦争」がずっと続いていることを肌で感じ取っていきます。その過程を描くことで、沖縄の人々の思いを重層的に伝えられると思いました。

若者の視点で描きたい…当初、私の勝手な思いだけで始まった取材でしたが、素直な心根を持った坂本さんに出会えたことが本当にラッキーだったからだと思います。彼女のまっすぐな瞳を前に、基地問題について沈黙しがちな多くの沖縄の大人たちが本音で語ってくれたのです。彼女を追って取材に行った先々で、事件事故のニュースだけでは伝えられない、人々の心の痛み、生活が政治によって壊されていく現実を捉えられたように思います。

そして、もうひとつラッキーだったのは、素晴らしいナレーターに出会えたことです。録音の当日に、名優・津嘉山正種さん(74)に初めてお目にかかりました。津嘉山さんは怒っていました。子どもの命が危険にさらされている沖縄の現状に…。

当初、原稿にはなかった、「わらびんちゃー(子どもたち)よ、ごめんね」というコメントを追加したいとの申し出がありました。「戦後70年あまり経っても現状を変えられないことについて、私たちの世代は子どもたちに申し訳ないという気持ちを持っています。そのことを入れさせてくれ」と、津嘉山さん。番組に命が吹き込まれた瞬間でした。

解決策が見いだせない問題を前に無力感にさいなまれることもしばしばありますが、今回の番組制作を通して、ひたすら伝え続けることの大切さ、そして、社会の希望である若者たちの声を社会に届けることも、私たちテレビマンに課せられた使命なのではないかと思い直すことができました。

最後に、取材中にガツンと頭を打たれたことを書き記します。コラム「菜の花の沖縄日記」の発案者である東京(中日)新聞・特報部の中山洋子デスクの言葉…。「これからの政治は、私たち大人が考えるより、むしろ、若い子たちが素直に考えていってくれた方が何か解決策がみつかるんじゃないかと思います」

コメント

ディレクター・平良いずみ(沖縄テレビ報道部)

「番組で描きたかったのは、基地政策によって人々の暮らしが脅かされる沖縄の現実。そして、理不尽な状況に追い込まれながらも、希望を持って生きる若者、尊く生きる島の人々の姿です。
沖縄の基地問題を提起する番組は、既視感との闘いなのは覚悟の上での船出。当初、本当に番組がカタチになるのか不安でいっぱいでした。
しかし、去年4月、多くの県民の反対を押し切って辺野古の海に大量の土砂が投入され、10月にはヘリパッドが集落の周辺に新設され、住民が不安を募らせる東村高江でヘリ事故が起き、沖縄のメディアに身を置くひとりとして通り過ぎるわけにはいかないとの思いを強くしました。
解決策が見いだせない問題を前に、沈黙する人が多いのが沖縄の現状です。その閉塞感漂う社会にあって未来を信じ行動する主人公の存在は希望…。その希望を描きたいと思い番組を制作しました」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『菜の花の沖縄日記』(制作:沖縄テレビ)
放送日時
11月7日(火)26時50分~27時45分
スタッフ
プロデューサー
  • 末吉教彦(沖縄テレビ報道部)
  • 山里孫存(沖縄テレビ報道制作局)
ディレクター
平良いずみ(沖縄テレビ報道部)
構成
渡邊修一
ナレーター
津嘉山正種
撮影・編集
大城茂昭

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。