FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2018.10.15更新

現役医師の音楽デュオが届ける命のメロディ

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
白衣のメロディ

10月24日(水)27時~27時55分

「Insheart(インスハート)」は治療では埋めきれない患者の悲しみや苦しみを癒すために音楽という方法を選んだ現役ドクターのデュオ。形成外科医でボーカル・バイオリン担当のToshiさん(29)とギターと作詞作曲担当のJyunさん(37)。ダウン症の親子やがん治療中の母親など、それぞれの状況を乗り越えようとする人たちに二人は何を感じ、音楽で何を伝えるのか。医療と音楽に向き合い、模索する彼らの日々を追いました。

「いつまでも健康に暮らしたい」というのは誰もが持つ願いですが、それを実現するのは決して簡単なことではありません。

ある病院に末端の細い血管に血液が行き届かない病気で入院している人がいます。小さい傷がきっかけで指先が壊死(えし)し、切断。その後、手のひら、肘…と失う部位は少しずつ増え、そのたびに彼は病室で泣き崩れます。医療を「命を長らえること」と定義するならば、切断という治療は確かに奏功しています。しかし、指や手を切り落とすことで生じる悲しみや苦しみまではサポートできていないのが現状です。そんな医療の限界を、日々目の当たりにしているのは最前線で患者に向き合う医師です。

患者の思いに向き合いたいと立ち上がった医師がいます。形成外科医のToshiさん(29)と精神科医のJyunさん(37)です。二人は長崎大学医学部の同期で、学生時代に軽音楽部で知り合ったバンド仲間。治療を終えても元気にならない患者の姿を見て、もしかしたら「音楽」なら力になれるかもしれないと2015年に「Insheart(インスハート)」を結成しました。「Insheart」とは「in side your heart」を略した造語で「患者の心に寄り添いたい」という願いが込められています。「言葉では伝わらなくても、音楽だったら心の壁を越えられる時がある」「直接会えなくても、音楽ならインターネットを通じて必要な時にふれてもらえる」。彼らはそんな思いを胸に医療現場で感じたことをオリジナルの歌にして世に送り出しています。

活動から3年。二人の曲に共感する人が少しずつ増えてきました。長崎県に住む平間典子さんの息子・駿太郎さん(20)はダウン症です。笑顔あふれる駿太郎さんの姿に、典子さんは「今では欠かせない存在」と語りますが、生まれて間もなくダウン症が分かった時には「死んだ方が本人にとっても家族にとってもいいのではないか」という考えがよぎったと言います。そんな経験をした平間さんはInsheartの曲を初めて聴いた時に救われた気持ちになれたと話します。

福岡市に住む女性は二人の子どもがいるお母さんです。夫と子どもと過ごす平凡だけど幸せな日々がずっと続くと思っていました。しかし、乳がんの告知を受けてから生活は一変します。急に現実味を帯びた死への恐怖、小さい子どもを残して先立ってしまうかもしれない不安、家族ともっと一緒に過ごしたいという願い、そして再発へのおびえ…。彼女は数えきれない思いを抱えながら治療を受けてきました。そんな時、サポートを受けている支援団体が「がんと向き合うお母さんの応援ソング」の制作をInsheartに依頼。曲作りのために自分の体験を話すことになりました。「私の笑顔を子どもたちに覚えていてほしい。そして大切な毎日を家族みんなで笑顔で過ごしたい」。お母さんのエピソードに応えようと二人は作品作りに乗り出します。

Toshiさんが訪問診療で出会ったのは全身不随の田中満さんとその妻の美保子さん。7年前まで満さんは通常の生活を送っていましたが、事故で脊椎を傷めてから寝たきりになりました。今は自宅で介護を受けながら妻と二人暮らしをしています。以前からInsheartのことを知っていた満さんと美保子さんは、Toshiさんとの出会いをきっかけにライブに駆けつけることに。二人にはどうしても聴きたい曲がありました。病気や障害と向き合うことは苦しみを伴いますが、人間はそれでも生きていかなくてはいけない時があります。医療と音楽に交わるところはあるのか。模索するInsheartの日々を追いました。

コメント

ディレクター・吉井誠(テレビ長崎制作部)

「Insheartと出会ったのは情報番組に出演していただいた時のことでした。医師が音楽活動しているという経歴もさることながら、曲と歌声の魅力が圧倒的だったことが印象的でした。“医療と音楽を両立する”と文字にすると高尚な感じがしますが、普段の2人はいたってフランク。ユニット結成時も“とにかくやってみよう”と気軽な感じだったそうです。しかし、彼らが病院やライブで、人と向き合う時に見せる表情は真剣そのもの。“困っている人を助けたい”というシンプルで強い思いがあることは取材を通してよくわかりました。医療系のドキュメンタリーは生死を扱う壮絶な作品が数多くありますが、この作品では大変な状況でも生きていかなくてはならない患者さんに、音楽で寄り添おうと試みる2人の若手医師の挑戦を描きました。“言葉だと届かなくても音楽なら心の壁を越えられる時がある”Insheartのこの言葉を実感してもらえたら幸いです」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『白衣のメロディ』(制作:テレビ長崎)
放送日時
10月24日(水)27時~27時55分
スタッフ
ナレーター
長濱ねる(欅坂46)
撮影
  • 松尾和彦
  • 黒木誠
編集
井上康裕
選曲効果
渡辺真衣(東京サウンドプロダクション)
MA
濱田豊(東京サウンドプロダクション)
タイトル
森田智哉
ディレクター
吉井誠
プロデューサー
松本祐明
制作統括
大浦勝

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。