FNSドキュメンタリー大賞

2018.9.24更新

新潟県糸魚川市で理容店を営む白石慶子さんは、店から町を眺めることが日課。見つめる先に広がっているのは、家も店もない、さら地。糸魚川大火で理容店の前は焼け、町が姿を変えてしまいました。大火によって理容店が所属する商店会は解散することが決定。進んでいた過疎化や空洞化が住民たちに突きつけられました。糸魚川の人々が、また”笑顔になれる”日は来るのでしょうか。

糸魚川大火の発生翌日から、現地で取材を続けてきました。発生直後は、家や職場が焼けた方の取材をしており、大切な思い出が、突然灰になってしまう悲しみや、帰る家がない辛さをさまざまな立場の方から伺いました。少し時間が経ってから、白石さんの理髪店へ取材に行くようになりました。「何カ月も客足が途絶えた」「被災者と違って行政の支援がない」「仲良しの近所の人が一斉にいなくなってしまった」「過疎化を突きつけられた」など、“焼け残った人”にも深い心の傷があることを知ったと同時に、この現状を知ってもらいたいと思いました。

被災地内の高齢化率は全国平均よりもはるかに高く、復興計画の中で糸魚川市が掲げる”にぎわいのある町”を造るのは難しいと思います。しかし、毎日のように町の様子を気にかける焼け残った理容店の店主や、「この場所がいい」と元の場所に家を建てることを決めた90代・80代の高齢者。そして、まちづくりをするために集まった若者たち。それぞれの立場の方から糸魚川に対する強い思いを感じました。

大火から1年半が経ち、被災地は今、転換期を迎えています。元の場所に家を再建した人たちの入居が始まり、去年秋に初めて集まった若者たちは話し合い期間を経て、行動に移し始めています。しかし、それぞれが交わる場面はほとんどありません。個々が持っている強い思いを糸魚川の町の発展に反映させるために、立場の違う人たちが心を通わせてほしいという思いをこの番組に込めました。

また大火の後、住人たちが町を離れたことで、大火の前から進んでいた町の過疎化や空洞化が浮かび上がり、住民たちは、この時初めて危機感を強く感じました。これは地方の市町村の多くが見て見ぬふりをしている課題でもあり、大火が起こらずとも、いずれは直面することになるかもしれません。そうなる前にできることはないのか、一度自分の住む町と向き合ってほしいということも伝えたいことの一つです。

大火という災害が起きながらも、それを乗り越えて前を向いて進もうとする糸魚川の人たちのエネルギーを感じてほしい。そして少しでも番組を見た人の活力になればと思います。辛さを抱えながらも前を向こうとする人や、事務所再建の計画など膨大な仕事を抱えながらも、まちづくりの会議に参加する人など…私は糸魚川へ行く度に「私も頑張らなきゃ」と力をもらいました。その力を画面を通して伝えたいと思いました。前向きなエネルギーを感じてほしいという思いから、大火の当時の悲しみの描写を最小限にとどめました。災害がテーマの番組ではありますが、全て見た後に前向きな気持ちになってほしいという思いを込めています。番組の最後に白石さんは町の未来を担う子どもの髪を切ります。糸魚川の未来が切り開かれるように。

コメント

ディレクター・堀沙織（新潟総合テレビ報道部）

「気候条件や住宅密集地であることなどから、糸魚川では過去に何度も大火が起きました。約80年ぶりに再び起きた大火は、過去の教訓を忘れていた糸魚川の人々の責任でもあると思います。以前の文集にも書かれてあるように、糸魚川の人々は大火の度に絶望し、それでも町を再生させてきました。しかし今回の大火では、人口減少や高齢化などの問題も重なり、復興の道のりはこれまでよりも険しいものになると思います。取材をさせて頂いた若者、被災者、焼け残った人。糸魚川に対する熱い思いを持っているにも関わらず、立場の違う人たちは、交わる場面がほとんどありません。それは焼け残った人が、焼けてしまった人に対して気を遣っているから、若者たちが、高齢者は協力してくれないと思っているから、など理由は一つではないと思います。それぞれがこれだけ熱い思いを持っているのだから、復興のためにもっと話して、もっと心を通わせてほしいと思います」

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