FNSドキュメンタリー大賞

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2018.10.2更新

満州移民に抵抗した村長が貫いた信念の物語

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
信念に生きた男~満州移民に抵抗した村長佐々木忠綱~

10月3日(水)27時~27時55分

かつて全国で最も多くの満州移民を送り出した長野県。なかでも、その送り出しが盛んに行われていた飯田下伊那郡で、周りの村が次々と分村・分郷移民に踏み切る中、ぎりぎりの抵抗をした村長がいました。旧大下條村村長・佐々木忠綱さん。彼は、満州分村移民に抵抗する一方で、あることに情熱を傾け、積極的に行動しました。一体何が彼を突き動かしていたのでしょうか。そして彼を支えた信念とは何だったのでしょうか。

これは、揺るぎない信念に生きた一人の村長の物語です。長野県の南に位置する旧・大下條村。現在は阿南町となっているここに、ある県立高校があります。終戦間もない昭和25年に開校した長野県阿南高校。かつて“教育の空白地帯”とも呼ばれたこの地域に、住民の熱い思いによって開校した地域高校です。そして、そのきっかけを作ったのは、ある村長の信念でした。村長の名は、佐々木忠綱さん。戦時中に大下條村の村長を務めた彼は、大下條村を含む飯田下伊那地域に、当時吹き荒れた満州分村移民に抵抗し、結果的に多くの村人の命を救った村長でもありました。しかし今、そのことを知る人はほとんどいません。

2年ほど前、誘われて出かけた講演会で初めて佐々木忠綱という人物を知りました。あの時の衝撃は今でも忘れられません。郷土にこんな人がいたのか。もっと知りたい。もっと多くの人にも知ってもらいたい。そして、佐々木村長の行動には、今を生きる私たちにもつながるものがあるのではないだろうか。そう感じたことが、今回の番組制作の出発点になりました。

2013年には「コマガネホスピタル」を開院。しかし、患者にとっては市街地から遠い上に、診療代の負担が大きい、病院側も医師の確保が難しいなどの理由で、患者数の伸び悩みが深刻でした。

1931年の満州事変を契機に現在の中国東北部に作られた日本のかいらい国家・満州国。この地に全国各地から送り出された移民は約27万人といわれ、長野県は全国最多、なかでも多くの人々を送り出したのが長野県の飯田下伊那地域でした。1936年、満州移民が国策となり、一度に大量の村人を満州へ送るために、分村・分郷と呼ばれる村をあげての移民が、強力に推し進められるようになっていました。そんな中、飯田下伊那地域のリーダーたちが満州視察旅行を計画。この視察団の中に、大下條村の村長を務める佐々木忠綱さんの姿がありました。自分の目で見た満州を、後に振り返った佐々木村長の肉声が残されています。「耕地は全部立派な既墾地で、これはどうも強制収容ではないか」「日本人が横暴ということにも疑問を持った」

しかし、この視察旅行の後、飯田下伊那地域の分村・分郷移民はますます強く推し進められ、ついに大下條村にも近隣の村と合同で開拓団を作る計画が持ち上がります。自分の目で見て疑問を感じた満州に、村人を送っていいのだろうか。悩む佐々木村長の背を押したのは、妻の一言でした。「自分の子供だったら、満州へ送るの?」この言葉に決意を固めたという佐々木村長。しかし当時、佐々木村長は表立って満州移民に反対とは言わなかったのです。言えるような時代ではなかったし、もし表明していたならば、佐々木村長は村長の職を追われ、積極的に分村を進める人物が、次の村長になるであろうことをわかっていたからでもありました。村長の職に留まりながら、村人を守るため、佐々木村長はぎりぎりの抵抗に打って出ることになります。

一方で、満州分村移民の問題に直面していたのと同じ頃、佐々木村長はあることに情熱を傾けていました。それが、学校建設です。一体何が佐々木村長を突き動かしたのでしょうか。佐々木村長の三男・佐々木寿英さんはこう述べています。「父は常に教育と医療が人間にとって一番大事なんだ、基本なんだ、ということを思ってやってきたのだと思う」

父親が佐々木村長の村政を支えた仲間の一人であり、自らも佐々木村長をよく知る阿南町在住の伊藤千俊さんは、こう語ります。「あの当時は、国策の波にのまれる、そういう風潮だった。その中で(佐々木村長は)自らの信念を教育というものにまとめていった」

番組では、佐々木忠綱さんが歩んできた道をたどりながら、彼が何を見て、考え、そしてそれをどう行動に移したのかを追います。ある村長が貫いた信念が、今も息づいていることを、一人でも多くの人に知ってもらいたいと思います。

コメント

ディレクター・大日方詩織(長野放送 報道制作局制作部)

「佐々木忠綱さんのお子様方や親戚の方、知人の方に、忠綱さんのお話を聞かせていただく中で、最も多く話題に出てきたのが“学び”に関することでした。自分の子供たちはもちろん、親戚や村の子供たちの勉強や進学にも親身になって相談に乗っていたこと、自らも夏季大学に通うなど生涯学びの場を求め続けていたこと、亡くなる直前まで本を読み続けていたこと、本の中に疑問があれば著者に手紙を書いたり会いに行ったりしていたこと…。さまざまなエピソードを聞くたびに、学びに真摯に向き合う忠綱さんの姿に胸が熱くなりました。満州分村移民への抵抗は、そうした忠綱さんが貫いた姿勢の延長線上にあったのではないかと、私は思います。だからこそ、忠綱さんの学びへの情熱は、番組の中で欠かすことのできない要因でした。忠綱さんの、自分の目で見て、自分の頭で考え、学び続ける生き様を、私自身も見習いたい。そう願ってやみません」

番組情報

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『信念に生きた男~満州移民に抵抗した村長佐々木忠綱~』 (制作:長野放送)
放送日時
10月3日(水)27時~27時55分
スタッフ
構成・
プロデューサー
春原晴久(長野放送報道制作局)
ディレクター
大日方詩織(長野放送報道制作局)
撮影・編集
吉川勝義(長野放送報道制作局)
ナレーター
坂本麻子(長野放送報道制作局)
制作
長野放送

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。