FNSドキュメンタリー大賞

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2018.9.10更新

津波の語り部が“紙芝居”で伝える大切な命

第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
よっちゃん~命の大切さを伝えた紙芝居「つなみ」~

9月18日(火)26時35分~27時30分

岩手県沿岸の小さな町・宮古市田老。過去に何度も大津波に襲われてきました。その辛さ、悲しみ、そして命の大切さを“紙芝居”で伝え続けた女性がいます。田畑ヨシさん(93歳で逝去)。孫のためにと55歳で描いた紙芝居は評判となり、全国各地で読み聞かせをするようになりました。主人公は「よっちゃん」、津波を経験した当時8歳のヨシさん自身です。ヨシさんは、どんな思いで紙芝居「つなみ」を描き遺したのでしょうか?番組では、故郷、家族、そして命の大切さを伝えます。

津波の語り部が“紙芝居”で伝える大切な命

リアス海岸として知られる岩手県の三陸海岸。入り組んだ美しい海岸線に育まれた海は漁業や観光業などを盛んにし、海に暮らす人々の生活の糧となってきました。

しかしその反面、地震に伴う大津波は容赦なく街を襲い、全てを飲み込んでいきました。三陸には、明治29年(1896年)、昭和8年(1933年)にも大津波が押し寄せました。たくさんの命が奪われ、たくさんの人が涙を流してきました。そして平成23年(2011年)3月11日。東日本大震災で、再び悲劇が繰り返されました。大津波がたくさんの命をさらっていきました…。

昭和8年、宮古市田老(当時田老村)。ここに家族を失った一人の女の子「よっちゃん」がいました。田畑ヨシさん、当時8才。3月3日に発生した昭和三陸地震津波で母親を亡くしました。岩手県の死者行方不明者は3064人。田老でも972人が命を失いました。ヨシさんは、子どもの頃に体験した津波の恐ろしさを忘れることができず、ずっと心に抱えながら育ちました。大人になり、結婚をして、子供を産み、田老で生きてきました。そんなヨシさんに孫ができました。津波が来たらすぐに逃げることの大切さを孫に伝えたいと、ヨシさんは、絵を描きました。自身が体験した津波の怖さを10枚の紙芝居に込めました。

紙芝居には、ヨシさんの祖父の話も登場します。祖父は、明治29年の明治三陸地震津波を経験していました。ヨシさんは、祖父から聞いた明治の津波被害の話や、自分が体験した昭和三陸地震津波の恐怖、そして、津波の後の生活の苦しさを描いています。ヨシさんが孫に読み聞かせた紙芝居「つなみ」。いつしか地元の小学校などから紙芝居を披露してほしいと要望されるようになります。ヨシさんは、喜んで出かけ紙芝居を読みました。

2004年(平成16年)、インドネシアのスマトラ島沖地震津波が発生。ヨシさんへの取材はその後からスタートしました。ヨシさんは地元田老の小学校で紙芝居を読み、津波が来たら逃げるんだよと子供たちに言い聞かせていました。

その数年後、2011年(平成23年)。再び、大津波が田老を襲いました。ヨシさんの家も津波に流されましたが、自らは祖父の教えの通りに高台に逃げて命は無事でした。しかし、逃げ遅れた人々が大勢いました。ヨシさんは悲しみました。家を失ったヨシさんは、長男が暮らす青森に移住しました。そこでヨシさんは、生まれ故郷の田老を思いながら新しい紙芝居「つなみ ふたたび」を描きました。命を大切にしてほしい…。すると全国から、紙芝居を読んでほしいという依頼が寄せられ、娘の恵美子さんの力を借りて、再び読み聞かせを始めました。

“いのちてんでんこ”。自分の命は自分で守るように語り続けたヨシさん。2018年(平成30年)2月、故郷の田老に帰る願いを果たせないまま青森で93年の生涯を終えました。亡くなった後、ヨシさんが暮らしていた部屋から、一冊のスケッチブックが見つかりました。そこには、津波が来る前の田老の海と街の風景が描かれていました。母・ヨシさんの思いを受け取った娘の恵美子さん。母が残した紙芝居を次の世代に伝えていこうと決めました。初めて子供たちの前で紙芝居を読み聞かせました。

とうとうとお経のように響くヨシさんの紙芝居。まるで震災で命を失った人たちへ向けた鎮魂歌のようです。ただひたすらに家族を愛し、田老を愛し、紙芝居で命の大切さを伝え続けた一人の女性の崇高な人生と思いをつづりました。

コメント

ディレクター・鎌田淑子(岩手めんこいテレビ報道制作局制作部)

「私がヨシさんとお会いしたのは亡くなる2年程前。90歳を過ぎて田老を離れ、青森で暮らすようになってからです。取材を始める前に娘・恵美子さんから、物忘れもあり耳も遠くなったと聞きました。
しかしヨシさんはカメラを向けると目を輝かせ、紙芝居“つなみ”を読んでくれたのです。紙芝居はヨシさんにとって生きる力なんだと確信しました。自分の制作者人生をかけて100歳までも追い続けようと決心、しかし93歳になったばかりの2月に訃報が届きました。
亡くなったその日にヨシさんに会え、日記など遺品を貸していただくことが出来ました。ナレーションは葬儀でお会いした孫の三紗さん。おばあちゃんのことならと快く引き受けて下さいました。地元・岩手で放送した際、私は恵美子さんと二人で番組を見ました。顔を抑え涙を流し“ありがとう”と。制作者としてこれほど本望なことはありません。この番組が“家族とは”“命とは”を考えるきっかけになればと願っています」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『よっちゃん 命の大切さを伝えた紙芝居「つなみ」』(制作:岩手めんこいテレビ)
放送日時
9月18日(火)26時35分~27時30分
スタッフ
プロデューサー
一戸俊行(岩手めんこいテレビ)
ディレクター・構成
鎌田淑子(岩手めんこいテレビ)
ナレーション
  • 池田三紗(田畑ヨシさんの孫)
  • 小野寺瑞穂
撮影
浅沼淳一(めんこいエンタープライズ)
編集
鎌田淑子(岩手めんこいテレビ)
MA
山内智臣(めんこいエンタープライズ)
CG
本村真由美(めんこいエンタープライズ)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。